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桃ひとつ

子供の頃、家の周りの畑は桃畑であった。
春は少し濃いピンク色の花が咲き、春のお花見は大抵桃の花の下でやっていた。
むしろを引っ張り出し、桃の木の周りに敷き詰めて、母が作ったお花見弁当を親子3人で食べた。
大好物は、いちじくを模したお結びと、みかんの入った寒天。
この2つだけはお花見弁当でしか食べれなかった。
桃が始まる夏になると食べ放題。父や母は大事な収入源となる桃を大事に育て、青果市場に拠出していた。
そんなこととはつゆ知らず、洗面器に水を汲んで、桃の木下に置いて、美味しそうな桃を引きちぎり、洗面器の水で洗ってその場でパクつく。
太陽の暑さと温まった桃を何個も頬張った。
あの時の桃にはめぐり会えない

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