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今、在宅医療なのか? (医療者向け) その4

 このタイトルの第一弾を投稿した時に、こんなことを書いていました。ーこの仕事はhome care (在宅医療の英訳)の名前の通り、患者さんだけを見るのではなく、周辺事情、お家や家族の状況といった社会的な問題を最期まで引き受ける、医療のおまけ付きサービス事業なのです。ー


 2024年6月、訪問診療について、再度の報酬の改定が発信されました。もう10年も前になりますか、施設総管(施設等医学総合管理料)がそれまでの点数の4分の1に下げられました。前代未聞の激震でした。介護施設の定期往診を請け負うために、医療機関が施設にキャッシュバックをしているというのが公表された理由でした。施設を中心に往診をしていた大規模な専門クリニックがターゲットにはなったとは思います。思惑通りかなりの数の訪問診療専門クリニックが撤退しただろうと思います。ただ訪問診療を小規模に行ってきた小さなクリニックも同時に被害を受け、一部は続行に悩みながらも生き残ろうと頑張ってきました。その後に震度は軽いものの、一つの施設の担当人数が19人以下か20人以上で分けて、多くなると単価が安くなる設定が行われました。今回はさらに小刻みにして、一つの施設の担当人数が9人以下、10〜19人、20〜49人、50人以上で段階的に減額されました。施設入居者に対する訪問診療の第3回の減額措置です。

 いわばホールディングス的なシステム運営をするクリニックを制御しようと、あの手この手で医療政策が試行されてきた歴史でした。しかし現実は、第1回の激震当時以上に、都市部では少数の大規模なクリニックが、何千人何万人の往診患者を担当する状況が進んでいます。そして今、さらなる企業の参入が活発になってきています。なぜなのか。資本力や営業力のあるところは、軽症をターゲットにした薄利多売と省力化、コスト削減に長けているから。それができない小規模クリニックは、残りの重症のケースを振り分けられて、コスト削減ができずに、結局訪問診療からの撤退を余儀なくされていくのです。

 軽症の患者を必要以上に頻回に訪問している傾向がある、と言う有識者なのか、誰なのかのご意見がありました。そういったことを意図的に行うことは良くありませんが、診察なり経過を見て軽症であることが判明するので、後刻軽症であったからといって、その訪問が不要不急とみなすのは間違っています。元々救急疾患と介護現場の特性をあまりご存知ないのではと思う発言です。あるいは分かっていて、意図があっての発言なのでしょうか。

 医師には応召義務がある、とよく言われます。それだけでなく、特に施設はそもそも往診して欲しい事情があります。家族から入居者を預かっている手前も責任も無論あります。同時に往診は家族へのサービスになるのと、介護職員の安心に繋がり、一方で軽いことで病院受診をすると人手と時間がかかるからです。結果、往診や訪問診療の回数が増加します。また介護士には医療的判断はするなというルールも設けられています。しかも介護スタッフは家族のように心配をする人たちです。家族とは感情によるコミュニティーですから、しばしば客観的判断に欠ける点は共通しています。医師が自分の家族を診察するべきではないと言われるのもそれ故です。

 そう言えば今日、茨城県では一般病床200床以上の紹介受診重点医療機関など23病院で、緊急性が認められない救急搬送を選定療養扱いとし、原則7700円(税込み)以上を徴収する予定であると明らかにしました。そして不要不急の症状の例として以下が挙げられています。① 包丁で右手指先を切り血がにじんだ、② 3日前から風邪の症状が続いた、③ 発熱、咽頭痛、頭痛の症状。これらによる救急搬送は不要不急とのことですが。

 ①は尤もかもしれませんが、しっかりゴシゴシと洗っていますか?先ごろは鰻で黄色ブドウ球菌感染が報道されました。傷は一時洗浄が重症ですが、自分や身内だと痛がるから手加減します。十分洗えるでしょうか。
 ②は経過が微妙です。コロナやインフルエンザは3日くらいで発熱がほぼ治ります。どんな症状が続いているのでしょうか?経過が上向きなのか、停滞または悪くなってきているのか気になるところです。
 ③は経過が分かりません。重症化のサインかも知れず、これも聴かないと分かりません。
医療機関に行かないと、こういった判断もつかないでしょう。ばっさりと不要不急と、いったい誰が、どういった責任において決めれるのか。何日も経った後で結果が出てからなら誰でも言えます。まず過信されているか、説明が不足していると感じます。

 ならば、これからは家族や介護スタッフはどうすればよいのか、を明確に示さねばなりません。申し訳ありません、不要不急の言葉だけを一人歩きさせている感があります。一つの答えは、自分診察(セルフメディケーション)とオンライン診療による、医師との手軽なコミュニケーションの構築が重要と考えています。

 在宅医療には久しぶりに新たな逆風が吹き始めています。いかに乗り越えるか、はたして乗り越えられるのか、考える日々がまた到来しています。


2024年酷暑の7月26日

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