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#1. 急性上気道炎?それとも、どこかの細菌感染?



 急性溶連菌感染症が1000人を超えました!RSウイルスが流行!新型コロナが再燃!といった報道がちょくちょくなされています。コロナ陽性が最近多いな。インフルエンザ、コロナ共PCR陰性なのに、随分と高熱なんだな。喉が痛い人が多いなあ。確かに外来でこういった実感を持ちますので、今月最後のタイトルはこれに致しました。

 今増えてきている、溶連菌感染症。これはコロナやインフルエンザなどのウイルス性感染症ではなく、細菌による感染症です。大雑把に言うと、細菌感染はのど(咽喉)、副鼻腔、肺、尿路といったどこかの臓器にだけ感染するのが普通です。そうした感染臓器を感染源と言い、それを探すことが感染症治療の第一歩です。

 溶連菌はしばしば咽喉に感染し咽頭痛が激しいことが特徴です。すぐ近くの前頚部リンパ節まで腫れてしまい、触るとグリグリができていて、押したら痛いのが分かります。その特徴があれば、咽喉を綿棒で擦過する溶連菌迅速抗原テストが有効な手段になります。でも、肺の感染でなければ咳はまずありませんし、鼻腔の感染でなければ鼻水はありません。大事なのは、細菌感染がはっきりすれば、ごく普通の抗生剤が有効だということです。

 ウイルスの場合は、場所を限らず色々な部位、例えば、鼻腔から咽喉、肺の近くまで広範囲に広がり、それを総称して『上気道炎』という言い方をします。腸にまで感染すれば下痢を起こし腸炎にもなりますし、普通の風邪でも感冒性腸炎という診断名は、お腹の風邪として知られています。鼻水主体の鼻風邪もお聞きになったことがありますね。

 新型コロナも咽喉から侵入することが多く、激しい咽頭痛に遭遇し、何とかしてくれ、と言われる声に随分悩まされました。咽頭痛がひどい点では溶連菌と大差はなく、診断を確定するには、結局はできるだけ感度の高い特定検査に頼る他ありません。咽頭ぬぐい液や唾液に含まれるウイルスのわずかな残骸を転写増幅する点で、PCR検査は最も有力な診断ツールです。一方抗原検査もある程度時間が経ってウイルスが十分増殖しておれば有効ですが、陰性だからといって、その病原体の感染を完全に否定はできない点で劣ります。

 一部特異的なもの(伝染性単核症、HIV感染症)以外は、通常何のウイルスが原因かはあまり突っ込んで調べません。インフルエンザと新型コロナまでが普通です。どっちみち薬は同じで、食べて寝て3日もすれば症状は和らいでくるからです。そうではなく、高熱が続く、咳や痰、その上息苦しさまで出てくると、それで初めて重症化や細菌性肺炎を疑う。細菌感染を確実に診断する、細菌になら有効な抗生剤の出番になるからです。

 コロナ下の3年間に5500人の患者さんに接し、365日このウイルス感染症に接する未曾有の体験をした結果を次のように3つに総括しています。① 症状は何でもあり得る。高熱、咽頭痛、咳など色々。② 食べて寝て丸3日待ってもらう。特効薬は皆無。③ 細菌感染を見逃さず、直ちに抗生剤を出す。

 咽頭痛にはほとほと手を焼き、現時点では桔梗湯、桔梗石膏という漢方薬を愛用しています。元々扁桃腺炎に用いる薬で、これも品薄になりやすいので、薬局やネットで市販のものを買っています。漢方とは決して慢性疾患の薬ではなく、傷寒論(漢方医学の古典)の昔から急性感染症、いわば昔のコロナに対する、先人の戦いの記録が凝縮されていると感じています。

 昨日来られた22歳の男性。2日前に喉が痛いと受診され、PCR検査では陰性。ロキソニンとトラネキサム酸(咽頭の浮腫軽減作用があり、風邪一般や咽頭痛に対し頻繁に処方され、一時品薄になった)が毎食後に処方されていました。こないだのヤブ医者じゃねいの?となじり、同伴のお母さんにも悪態をつき、どうやら咽頭痛がかなり辛いご様子でした。

 発語も悪態をつくほどで元気。よって呼吸は異常なし。酸素飽和度98%で脈拍数正常。頚部リンパ節の腫れなし。ロキソニンの内服は一旦中止して、2日様子を観ることにしました。ちなみにトラネキサム酸は、元々外傷による出血に対し止血効果のエビデンスがあります。言い換えれば、血管内でも血栓を作らないか若干心配になります(エビデンスはありません)。咽頭痛に特効という印象もないので、個人的にはあまり用いません。ですがこの方は、臭い顆粒は嫌だ、と漢方薬は拒否されました。

 それだけ?と思われるかもしれませんが、私たち市井のプライマリーケア医は、危ないものだけ8割がた除外して、あとは『時の助け』を借ります。ただし自然なフェアな経過を観たいと思います。

 咽頭痛に対する鎮痛剤ロキソニンは解熱作用も強く、定期内服すると発熱の経過がマスクされて、重症化の判断が遅れないかと懸念しました。呼吸苦、痛み、水分欠乏が尋常でない場合、感染症が重症化する兆候がある場合は、脈拍数が上がります。難しい機序はともかく、病気で身体が酸素を欲しておれば、心臓が頑張り脈拍数が上がるという生体反応と理解しています。それがないならまず様子見。頚部リンパ節の点検は溶連菌感染症が念頭にあるからです。


 水面下では色々悩み選択しているという話です。自分療法(セルフメディケーションの自分訳)のご参考になれば幸いです。


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2024年6月29日


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