今、在宅医療なのか?(医療者向け) その2
在宅医療と一言で言っても、在宅時医学総合管理料(在医総管)と施設等医学総合管理料(施設総管)の2種類があることは前回(その1)でお話ししました。熱意とかは別にして、運営経営上のお話をしてまいります。下世話な話ばかりで恐縮ですが、患者さん1人の単価は、個人宅の方の在医総管は、老人ホームに入居している方の施設総管の約4〜5倍の金額です。これ以上の詳しい算定のことは成書にお譲りするとして、ここでは実際やってみての諸々を中心に、医師または経営者の立場からのお話をしたいと思います。
老人ホームが大体40人以上の入居者が居られて、その全員の訪問診療を請け負ったと致しましょう。売り上げだけで言うと、およそ個人宅の方10人に相当しますね。さてあなたはどちらを選ばれますでしょうか。こと運営に関しては、15年間そのことをいつも考えていました。そんなこと勤務医の時は考えていませんでした。自分の専門技術の向上、患者さんの医学的な問題、専門医や医学博士を取って、そして次は、とかしか頭にありませんでした。今では夢のまた夢ですが、15年前に始めた頃は施設総管は在医総管と同じ点数でした。そしてひょんなことから、10施設くらいの施設から入居者さん全員の訪問診療を委託されました。毎日早朝から準備をし、晩まで走り回り、終わったら処方箋を作ったり修正したり、介護認定に必須の主治医意見書がどっさり積まれていました。走っていても、合間に施設からの電話がしょっちゅうで、臨時の指示や臨時処方箋の発行、時には緊急往診のために急にカーブをして、待っている施設に急行をしました。そんな状態なので、毎日当然家に帰るのが遅く、土日に子供達と遊んでいても、また電話が鳴ることが少なくなかった、子供達もパパ往診よ、と電話を渡してくれる有様でおよそ7〜8年は正月もGWも待機し、状況は変わりませんでした。当時は個人クリニックでしたので、いったいどれだけ税金が来るのか恐れてたなあと、今では職員と時々笑って話しています。
その頃に思い切って、当時のサービス付き高齢者向け住宅(略して、サ高住)を自前で建築し、介護事業も合わせて始めたわけです。訪問診療をたくさん行うと、末期癌や難病の方達が、「先生とこに入院できないのですか?」と仰っていただけることが増えて、その都度「うちはベッドを持っていないんですよ。◯◯さんはご家族とこうしてお家に暮らせるのですから、一番幸せじゃないですか。」「でも家族に負担をかけたくないし、いつでも診てもらえたら安心だから。病院を作ってください。」と。そんなことを言われるうちに、調子良く図に乗って、自分で理想のサ高住を作って<医・食・住>の全てを提供するんだ、とハンドルを切ってしまったのです。しかしそう甘くはなかった、若気の至りでした。この話はまたいずれさせていただきます。
ある年に身の毛もよだつ政策が発表されました。施設総管を従来の4分の1にする、と言うのです。耳を疑いました。在医総管よりも、一度にたくさんの往診ができる効率性を取り、当時うちの在宅患者の比率は、施設が8割になっていました。あまりに忙しいために個人宅の訪問診療の依頼を制限していた結果でした。サ高住を建築し、さあこれから頑張らないとと言う時期でした。半年、1年間だったかは、月2回のうち1回は個人宅のようにお1人ずつ訪問をすれば、従来の点数を付与します、という執行猶予が設けてありました。この政策決定は、施設の往診を獲得するために、管理料を施設経営側にキックバックしている医療機関があるという理由によるものでした。これには憤慨しました。なぜなら施設からの臨時や緊急の対応が圧倒的に多く、深夜に「熱が37℃あるんですが、どうすればいいですか?」「便が3日出てないのですが、どうしましょう?」といった問い合わせに対応していたわけですから。この決定で、施設を専門にした在宅医療のクリニックはかなり撤退を余儀なくされました。また、ハシゴ外しかとつぶやきながら、個人宅の開拓に再び乗り出しました。しかし施設が忙しいからという理由で、一度お断りしていたケアプランセンター(ケアマネジャーがケアプランを提供し、介護面でのお世話をする)からの紹介はすでに冷え込んでいました。老人ホームの委託もその後は徐々に減りました。ホームの経営者はおそらくはオープン前から、大手の訪問診療ホールディングスと組んで、展開をされるようになっていきました。一度ホームの訪問診療を全部委託されていても、突然半分にされ、急に現れたクリニックと分割して、一つのホームの患者さんを分けることが増えてきました。施設側の安全保障なんでしょうか。いずれにせよ、訪問診療を始めて、老人ホームをいくつか担当すれば安泰という時代ではなくなったようで、新たな見えない力で地図が塗り替えられている印象です。
私のところは当初より、弁慶みたいな何でもやってのけるパートナー1名と、オンラインメディカルスタッフ(主婦で在宅ワークで事務仕事をして下さる方)数人とで続けています。クリニックは狭く最小限の仕様で、土台外来診察には不向きで、コロナ下の動線確保などあったものじゃない構造です。訪問診療の診察室は青い空の下なのですから。こうして固定費を減らし、代わりに少人数の職員の待遇をできるだけ高くする方法で、どうにか倒産を免れています。
在宅医療には開院閉院はありません。9時5時のルーチンワークで完結できないこと、度重なる政策のハシゴ外し、患者数が増減する不安定要素などがあるため、柔軟で創意工夫ができるスタッフでないと務まりません。もっとも職員からは、院長のご機嫌とボケと思いつきにここまで付き合えるのは、まあ奥さんか私たちくらいしかいないと言われています。人の気も知らんで、好きなことを言われています。
申し上げたいことは、今の時代に開業して在宅医療を始めようと言う場合、3つの鉄則が考えられます。① 老人ホームはないと思え(やりたければ訪問クリニックのホールディングスでアルバイトを)。ひたすらコツコツと個人宅の高齢者と家族に寄り添っていく。② 医者1人で行え。医師の給与はどうしても高額ですから、1人増やすには相当な収益と安定性を見込まねばなりません。③ 看護師は雇うな。語弊があるかもしれませんが、在宅医療が医療そのものでは解決できないサービスである以上、周辺の面倒ごとを処理するのは交渉や整理に長けた事務職になります。医療は自分が1人で行う、診療介助は気の利いた事務職に覚えてもらう。手っ取り早いのは往診に同伴してもらい、昼ごはんや車の中で事ごとに患者ネタを話していたら徐々に会得してくれます。現場を見ておれば、何をしてどんな話をしたのか、イメージをつかんでいるので、後の事務処理も早い、電話のファーストコールも円滑になる、何より医者が忘れても記憶している、という利点が大きいです。もっとも当人は使い回しもいいとこ、と言われますが、案内やりがいがあるように見えます。うちではたまたま、介護福祉士、ケアマネジャー資格をもつベテランに診療助手をしてもらっているので、患家や老人ホームとの折衝も任せています。
原則にとらわれず、工夫をすること。医師の女房役として看護師というのは定番ですが、看護師はやはり我々医師と変わらない病院経験、医療優先の認識と感覚の人材なので、やはり医師と同じことを考えます。病院の伝統、勤務医のスタイルからしますと、看護師同伴で往診をするのが当然と思われがちですが、端的に言うと、看護師を同伴して往診しても、1人で往診をしても、保険請求点数は同じです。それなら、看護師と医者は別々に行動する、例えば同時間に訪問看護に行ったり、緊急時に先に現場に行ってもらったり、今なら在宅オンライン診療(D to P with N)のNをしてもらう、医療物品の管理などで力を発揮してもらうのが効率がいいと考えています。つまり、医療者は自分1人にしておくのが合理的だと思います。ホールディングスのように勤務医やフリーランスの医師のアルバイトで構成する在宅医療は、いわば病院と同じなので、そこでの経験はあまり個人開業には役に立たないというのが、私の独断と偏見です。施設を根こそぎ取られている、私のヒガミ、やっかみかもしれませんが。
次回はこう言う1人商店の訪問診療をしてきた上で、昔からやってきた、ITやネットの工夫をお話ししようかと思います。ご静聴有り難うございました。
当院では便秘と腸活外来、生活習慣病外来を定期的に行なっております。オンラインでの診察も可能です。お問い合わせ下さい。
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