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【小説】普通の人間が二人

「今の世の中は不便だよ。なぜ行きたい場所に一瞬で行けない?なぜ食べたいものが願っただけですぐに出てこない?なぜ不老不死になれない?なぜ経済を回し続けないと国家が崩壊する?

行きたい場所に一瞬で行けないからそこまで道のりで事故が起きる。食べたいものが願っただけで出てこないから餓死する。不老不死になれないから人間は人間の死によって悲しみ・憎しみが発生する。経済を回さないといけないから戦争が起きる。

馬鹿だよ。愚かだと思わないか。おっと、これもだ。なぜ文字を打つのにタイピングをしなければいけないんだ?めんどくさい。勝手に出てきてくれよ。これを傲慢だと思うかい?逆じゃないか。電話やゲームができる小さな機械を発明した程度の人間を天才扱いしてる世の中の方がよっぽど傲慢だ。

今の人間のステージはとてつもなく低い。とてつもなくだ。だが、人間の中で一番愚かなのは紛れもなく私だ。こんなに偉そうなことを言いながら生きているのだからね。いや、これもまた傲慢なのかな。もう私も何が何だか分からないのだよ。自分で何を言っているか分からない。分かりたくもない。

文脈なんて気にする必要はない。言いたいことを言え。書きたいことを書け。聞きたいことを聞け。結局、涙が出てくるのだよ。この世に生を受けるとね。脳みそがあるからだよ。この脳が。私を壊すんだ。

あのとき、あいつは言った。「俺は生き続ける」と。だが、なんだ。無理だったじゃないか。何も残っていないじゃないか。ははは。愚かだよ。実にね。私は、もう戻れない。

君は、どうする?」

俺は、ビルの屋上に一人取り残された。
下の方から女性の悲鳴が聞こえた。

屋上の掃除をし終わって、今日はもう帰るはずだったのに。
とんだ災難だ。

黒く長い髪を靡かせて俺の視界から消えた彼女は、今頃、地獄でどんな罰を受けているだろう。
ああ、閻魔大王様。どうか、あの綺麗な顔に傷はつけないでください。
俺は、美しいものが好きなんだ。

俺は、常に美しいものを追う。
美術館巡りと同じようなものだ。
いかにも人間らしい、高貴で誇り高い嗜みだろう?



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