
クセ強めのアマチュア野球観戦記【第3回】〜2024秋東京六大学優勝決定戦:明大✕早大〜またしても「宗山シフト」で早稲田が勝利!
最終週の早慶戦で、早稲田がまさかの連敗を喫し、14年ぶりに優勝決定戦が行われることが決まった。これを見逃す手はない。仕事を調整し、観戦を決めた。まずは築地にある定食屋:中村屋に立ち寄り腹ごしらえ。この中村屋、レトロな佇まいのこぢんまりとした店で、常連さんが多いのか、メニューを略して注文する人が殆ど。ネットで話題になった「わらじメンチカツライス(1100円)」を注文する。待つこと約10分、評判通りのボリューム感が心地よい。ご飯と味噌汁はお変わり自由、食後のコーヒー付きは嬉しい誤算。味は「普通に美味い」感じだが、これでいいのだ。よく分からない付加価値を付けて1500円以上の、たいして食べ応えのないものは求めていないのだ。
この日は12時過ぎに神宮球場に到着。平日にもかかわらず、両校応援席は満員、試合前から熱気も相当なものだ。明治応援席は特に気合が入っている。
早稲田の先発は予想通りエースの伊藤。立ち上がり高めに浮いた球が多かったが無難に1,2番を打ち取ると迎えるは3番の宗山。またしても宗山シフトが炸裂した。よく見るとセンターもライト方向に10mくらい寄っている。異様なほど空いている三遊間は嫌でも目に入ってくる。伊藤も宗山には神経を使っているようで、他の打者よりも間合いを長めに取っている。目論見通り宗山をセカンドゴロに打ち取り、上々のスタートを切った。それにしても、この「宗山シフト」が敷かれると、吸い込まれるようにセカンドやショートの位置に打球が行ってしまうのだ。宗山といえども、少しでも雑念が入ると、只でさえ捉えるのが難しい伊藤のボールに対応するのは困難なのだろう。結局、宗山は本日も快音が聞かれることなく3打数無安打に終わり、大学野球の最終戦を終えた。打撃でペースを狂わされてしまったのか、後半守備ではあわや悪送球(一塁杉崎のナイスフォローで帳消し)という場面まで見られた。明治も頼みの宗山が封じられてしまっては、勢いが出ない。実力は拮抗しているが、心理戦では、早稲田が一枚も二枚も上だったと思う。
早稲田の伊藤はスピード、キレ、コントロールと全てにおいてレベルが高く、来年の東京六大学ナンバーワン投手で間違いないだろう。本日も好打者ぞろいの明治打線を相手に3安打完封。緩急をうまく使い、余裕さえ感じさせるマウンドであった。この投手が慶応大学に5点も取られるとは首をひねりたくなるが、伊藤の唯一の弱点を挙げるとすれば「華がない」ということだろうか。来期はなんでもいいので「伊藤と言えばコレ」というモノが出てくればよいと思う。
対して「華がある」といえば慶応大学の清原である。別に打撃フォームが華麗なわけではなく、プレースタイルも普通だが、なぜか彼が打つとチームどころか球場全体の雰囲気が上がるというか、説明のつかない「何か」が起こる。有名人の御子息ということやイケメンということを差し引いても、「只モノではない」と思わせる雰囲気がある。
早慶戦第1戦はテレビで観たが、清原に対して伊藤の球は不思議なくらい真ん中に吸い込まれていく。失投を逃さない清原もさすがだが、こうも続けてとなると、「相性」としか言いようがないのだろうか。六大学ナンバーワン打者の宗山は完璧に抑えるのに、なおさら「何故?」と感じてしまうのである。
明治の先発は左腕の毛利。スリークオーターから切れの良い速球を投げ込む力投派である。ボール自体は良かったと思うが、低めの速球をことごとく見極められ、苦しいマウンドとなった。もっと緩急を使えれば、もう少し楽な投球ができたかもしれない。
早稲田の4番キャプテンの印出は、堂々とした体格の見栄えのする選手だが、膝を折って小さめに構えるスタイルである。前回観戦時は、その実力を発揮できなったが、本日は独自の存在感を放っていた。第一打席ではファウルでに粘った末、快心の当たりとは程遠い一二塁間を破るライト前ヒットを放つ。どんな形であれ塁に出ることを体現した「渋い」ヒットであった。第二打席でも粘りに粘って四球で「つなぎ」いずれも得点に絡む、地味ながらいい仕事をしていた。本来スラッガーと呼ばれる打者がこういう打撃も厭わないのだから、今年の早稲田は負けないのだろう。
それにしても早稲田のクリーンナップ3番吉納、4番印出、5番前田は、他校なら全員4番を打つ実力がありながら、大振りにならず徹底してつなぎのバッテイングが出来るというのは脅威であろう。ある意味、六大学で「東都っぽい攻め」が出来る唯一のチームかもしれない。この日大活躍した6番の小沢は、5番前田をスケールダウンした感じの選手で、バットコントロールが良い。小柄ではあるが、健大高崎時代は4番、パンチ力もありそうで、来年は早稲田の打線の中心になるのは間違いなさそうである。
明治投手陣は、毛利→千葉→山田→藤江→浅利と継投策で早稲田打線に挑んだが、際どいボールを見極められ、球数が多くなり、リズムに乗れない苦しい投球となった。唯一浅利だけは、テンポよく早稲田打線を打ち取っていたが、早稲田打線にはこういう長身で角度があり、球威で押し込めるタイプの方がよいのかもしれない。まさにこのタイプの高須が出場できなかったのが痛いところだろう。
結果は、伊藤が明治を3安打完封し、4対0で早稲田が勝利し、秋季リーグ戦の優勝が決まった。
明治大学は粒のそろった普通のエリート集団、全員80点の選手(宗山は95点)が並び、早稲田大学は90点のスーパーエリート4~5人と70点の選手の混成チームといった様相。只、早稲田の70点の選手たちが、知力と技術で75~78点位まで底上げされ、僅差で明治を破った印象である。おそらく、真正面からのぶつかり合いならば、選手層に勝る明治に分があったのではないだろうか。明治は総じてレベルは高いが、同じようなタイプの選手が多い故、苦手な投手に当たると沈黙してしまうのか…。また、相手からすると「嫌らしい攻め」をしてこないので、対策が立てやすかったのかもしれない。