
抗体医薬の製造、マスターセルバンク(MCB)のウイルス試験についての理解
今日は少し専門的な話題です。
抗体医薬を製造するためには、その抗体を発現する細胞株を構築する必要があります。
一般的にはCHO細胞が用いられ、目的の抗体を大量に発現するCHO細胞のクローンを開発する必要があります。この作業を細胞株開発(Cell Line Development)と呼びます。この細胞株開発で作られた抗体を大量に発現するクローンを培養によって増やし、Research Cell Bank(RCB)が作られます。バイアルにして10本程度でしょうか。RCBが作られる環境はnon-GMPです。
このRCBは抗体医薬の製造には用いられません。このRCBかMaster Cell Bank (MCB)が作られ、さらにMCBからWorking Cell Bank (WCB)が作られ、このWCBが抗体医薬を製造するために使用されます。なお、MCBとWCBが製造されるのはGMPの環境です。そしてMCBとWCBはそれぞれ300本とか500本のバイアルが作られます。500本の場合、WCBは500 x 500 = 250000本作られる計算になります。こうやって、たくさんのWCBを調製するので、何十年にもわたって、同じ品質の抗体医薬品を製造し続けることができます。
さて、実際に抗体医薬品の製造に用いるWCBと、そのWCBの元になるMCBは、厳密に安全性が管理されます。例えば、これらの細胞バンクにウイルスが混入していたりするとえらい事になります。そのため、幾つもの試験が設定されており、その試験を通過しないとなりません。今日は、その試験についての話題になります。前置きが長くなりました。。。。
では、本論に移りましょう。
【質問】Master Cell Bankを製造した際に、Bill of Material MCBと呼ばれる文書が作成されます。このBill of Material MCBとはいったい何でしょうか?
Bill of Material (BOM) for MCB(Master Cell Bank)とは、マスターセルバンク(MCB)を製造する際に使用したすべての原材料と試薬のリストを指します。これは、MCBの品質や再現性、規制対応を保証するために、サプライヤーが顧客に提出する重要な文書です。
Bill of Material (BOM) MCB の内容
この文書には、以下のような情報が記載されます:
1. 細胞関連情報
• 使用した細胞株の名称・ロット番号
• 由来(例:CHO細胞、HEK293細胞など)
• 培養条件の概要
2. 培地と培養試薬
• 使用した培地(メーカー名、製品名、ロット番号)
• サプリメント(グルタミン、HSA、インスリンなど)
• バッファーや添加剤(pH調整剤など)
3. フィーダー細胞・ウイルス関連
• 必要に応じて使用した補助細胞やウイルス(例:レトロウイルスベクターを用いた場合の情報)
4. 抗生物質・選択マーカー
• 抗生物質(例:ネオマイシン、プシロマイシン、ゼオシンなど)
• 遺伝子導入後の選択圧として使用した薬剤(例:メトトレキサート(MTX))
5. 凍結保護剤(Cryopreservation Reagents)
• DMSO(ジメチルスルホキシド)などの凍結保護剤
• 凍結媒体の詳細
6. 容器・凍結バッグ
• 凍結時に使用したバイアルやバッグの種類、ロット番号
7. プロセス関連の原材料
• 製造工程中で使用した試薬や消耗品
• 培養スケールアップ時のシードトレイン(Cell Expansion)用の培養容器
8. フィルター・除菌関連
• 使用したフィルターの種類(孔径、滅菌方法)
• 培地の除菌方法(フィルター滅菌など)
9. その他の重要原料
• 例:細胞培養中に添加した成長因子やサイトカイン
• プラスミドDNAの情報(遺伝子導入を伴うMCB製造時)
Bill of Material (BOM) MCB の目的
• 規制対応(GMP、ICHガイドライン)
• MCBの安全性・トレーサビリティを確保する
• 規制当局(FDA, EMA, PMDAなど)への提出資料として活用される
• 品質管理
• 使用したすべての原材料を記録し、万が一の品質問題の原因特定や再現性の確保に役立てる
• MCBのロット間変動を低減するための標準化
• リスク管理
• 万が一、原料に問題があった場合、影響範囲を特定できる
• 供給リスク(原材料の変更や入手困難な場合)を事前に把握できる
まとめ
Bill of Material MCB は、MCB製造時に使用したすべての原材料のリストであり、GMPや規制要件に準拠し、MCBの品質・トレーサビリティを保証するための重要なドキュメントです。サプライヤーは、これを顧客に提供することで、MCBの製造過程の透明性を確保し、規制当局への対応を容易にします。
【質問02】S+L-試験て分かりますか?レトロウイルスの感染アッセイだったような気がします。
はい、**S+L−試験(S+L− Assay)**は、レトロウイルスの感染性を評価するためのin vitroアッセイです。特に、細胞バンク(MCB, WCB)やバイオ医薬品製造プロセスにおけるレトロウイルスの存在を確認するための規制試験として用いられます。
S+L−試験とは?
S+L−(スロートウイルス & ロベルトシュタインウイルス陰性細胞)試験は、マウスレトロウイルスの検出に使われる細胞ベースの感染アッセイです。
「S+L−」は、特定のマウス細胞株の表現型を示しており、レトロウイルス感染によって細胞の形態変化(プラーク形成)を引き起こす特徴を持ちます。
目的
• MCBやWCBにレトロウイルスが潜伏していないかを確認する。
• 製造プロセスでのレトロウイルス除去の有効性を評価する。
• ICH Q5A(バイオ製品のウイルス安全性評価)などの規制要件に準拠する。
試験の原理
1. 検体(MCB, WCB, 培養上清)をS+L−細胞に接種
• S+L−細胞(NIH 3T3 S+L− 細胞)は、レトロウイルス自体は持たないが、感染するとプラークを形成するマウス由来の細胞株。
• もし検体にレトロウイルスが含まれていれば、S+L−細胞に感染し、形態変化を起こす。
2. 一定期間(通常1~3週間)培養し、感染性ウイルスの増殖を促す
• 培養中にレトロウイルスが存在すれば、S+L−細胞に感染し、形態変化(細胞融合やプラーク形成)が起こる。
3. プラーク形成を観察
• レトロウイルスの感染がある場合、S+L−細胞にプラーク(foci)や融合細胞が観察される。
• 逆に、感染性ウイルスがなければ、細胞の形態は変化しない。
S+L−試験で検出可能なウイルス
このアッセイは、特にマウス由来のレトロウイルスの検出に有効です。
代表的なレトロウイルス
• ムーシン白血病ウイルス(MuLV, Murine Leukemia Virus)
• マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV, Mouse Mammary Tumor Virus)
• その他のマウスレトロウイルス(エンドジェナス & エキソジェナス)
マウス由来の細胞(CHO細胞、NS0細胞など)を使ったバイオ医薬品の製造では、エンドジェナスレトロウイルス(内在性レトロウイルス)のリスクがあるため、S+L−試験が実施されることが多い。
S+L−試験の意義
1. バイオ医薬品の安全性確保
• バイオ医薬品の製造に使う細胞がレトロウイルス汚染されていないことを証明するために必須の試験。
• FDA、EMA、PMDAの規制要件(ICH Q5A)に適合。
2. ウイルス除去・不活化の評価
• ウイルス除去フィルター、低pH処理、UV照射などのウイルスクリアランス手法の有効性を確認する際にも用いられる。
3. PCRやNGSと併用
• PCRやNGS(次世代シーケンシング)はウイルスゲノムの検出に優れるが、S+L−試験は「感染性を持つレトロウイルス」の存在を評価できるため、補完的に使用される。
まとめ
• S+L−試験は、マウスレトロウイルスの感染性を評価する細胞ベースのウイルス検出アッセイ。
• 主にCHO細胞やNS0細胞を用いるバイオ医薬品のウイルス安全性試験で実施される。
• S+L−細胞にウイルスを接種し、形態変化(プラーク形成)を観察することで、感染性レトロウイルスの存在を検出する。
• ICH Q5Aに準拠し、バイオ医薬品の規制要件を満たすために重要な試験。
この試験は、PCRやNGSと並んで、バイオ医薬品のウイルスリスク評価において欠かせない試験の一つです。
【質問03】Adventitious Virus の存在を確認するために28-day in vitro assayを行うと思いますが、この場合に用いられる細胞は何でしょう?
28-day in vitro assay(28日間の培養試験)は、Adventitious Virus(外来性ウイルス)の存在を確認するために実施されるウイルス検出試験です。この試験では、ウイルス増殖能を持つ細胞株を使用し、検体(MCB, WCB, バイオ医薬品サンプルなど)に含まれる潜在的なウイルスの増殖を確認します。
28-day in vitro assay で用いられる細胞
この試験では、広範なウイルスの増殖を促すことができる哺乳類細胞株が用いられます。主に以下の細胞が使用されます。
1. Vero細胞(アフリカミドリザル腎由来細胞)
• 最も一般的に使用される細胞株。
• 多くのDNAウイルスやRNAウイルスの増殖に適している。
• 特にポリオウイルス、アデノウイルス、レオウイルス、パルボウイルスなどの増殖をサポート。
2. MRC-5細胞(ヒト胎児肺由来線維芽細胞)
• ヒトウイルスの検出に適している。
• ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パルボウイルスなどの検出に用いられる。
3. HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)
• エンベロープウイルスやDNAウイルスの増殖をサポート。
• 一部のRNAウイルスの増殖にも使用される。
4. A549細胞(ヒト肺上皮細胞)
• インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどの呼吸器系ウイルスの増殖に適している。
• その他のエンベロープウイルスの検出にも有効。
5. CHO-K1細胞(中国ハムスター卵巣細胞)
• CHO細胞を使用する場合、CHO細胞に特有の内在性ウイルスや外来ウイルスの影響を評価するために使用することがある。
試験の流れ
1. 検体(MCB, WCB, バイオ医薬品試料など)を、上記の細胞に接種。
2. 28日間培養し、ウイルスが増殖するかを観察。
3. ウイルス感染の兆候を確認するため、以下の手法を併用:
• 細胞形態の変化(CPE: Cytopathic Effect, 細胞変性効果)
• ヘモアグルチネーション(ウイルスが赤血球を凝集させるか)
• 蛍光抗体法(IF)やPCR/NGSでウイルス遺伝子を検出
• TEM(透過型電子顕微鏡)でウイルス粒子の存在を確認
28-day in vitro assay の意義
• 幅広いウイルスの検出が可能
• 28日間の培養により、PCRやNGSでは検出できない低レベルのウイルスや未知のウイルスの増殖を確認できる。
• ICH Q5A規制に準拠
• バイオ医薬品製造におけるウイルス安全性試験として必須。
• FDA、EMA、PMDAなどの規制当局が要求する試験の一つ。
• ウイルスクリアランス試験にも活用
• 製造プロセスがウイルス除去・不活化の要件を満たしているかの確認にも使用される。
まとめ
• 28-day in vitro assayは、外来性ウイルス(Adventitious Virus)の存在を評価するための重要なウイルス試験。
• Vero細胞、MRC-5細胞、HeLa細胞、A549細胞などのウイルス増殖を促す細胞が使用される。
• 細胞変性効果(CPE)、ヘモアグルチネーション、PCR、NGS、電子顕微鏡観察などを組み合わせてウイルスの存在を確認。
• ICH Q5Aに準拠し、バイオ医薬品の安全性を保証するために不可欠な試験。
この試験は、既知のウイルスだけでなく、未知のウイルスのリスクを評価できるため、バイオ医薬品の製造工程で重要なウイルス安全性試験の一つです。
【質問04】MCBを製造するときの試験でMAP、HAPテストがあります。MとHはマウスとハムスターを表すようです。このテストがどんなテストか教えてください。
MAP(Mouse Antibody Production)テストと HAP(Hamster Antibody Production)テストは、マスターセルバンク(MCB)やワーキングセルバンク(WCB)のウイルス安全性試験の一部として実施されるin vivo ウイルス検出試験です。
これらの試験の目的は、MCBの細胞に未知のウイルスや潜伏ウイルスが含まれていないかを確認することです。特に、マウス由来(MAP)やハムスター由来(HAP)の細胞に感染するウイルスの存在を検出するために行われます。
MAPテスト(Mouse Antibody Production Test)
目的:
MCBがマウスに感染する可能性のあるウイルス(マウス病原体)に汚染されていないことを確認する。
方法:
1. MCBの細胞懸濁液(または培養上清)を免疫抑制状態にあるマウスに接種する。
2. 一定期間(通常は数週間)マウスを観察し、臨床症状や病理学的変化を評価する。
3. マウスの血清をELISAまたはニュートラリゼーションアッセイで解析し、ウイルス抗体の産生を確認する。
4. ウイルス感染が疑われる場合は、追加のPCRや細胞培養法で確認する。
検出対象ウイルス例(MAPテスト):
• マウスノロウイルス(MNV)
• マウスヘパトウイルス
• センダイウイルス
• マウスサイトメガロウイルス(MCMV)
• マウスエンテロウイルス
• レオウイルス
• その他、マウス特異的な病原体ウイルス
HAPテスト(Hamster Antibody Production Test)
目的:
MCBがハムスターに感染する可能性のあるウイルス(ハムスター病原体)に汚染されていないことを確認する。
方法:
1. MCBの細胞懸濁液(または培養上清)を免疫抑制状態にあるハムスターに接種する。
2. マウスと同様に一定期間観察し、臨床症状や病理学的変化を評価する。
3. ハムスターの血清をELISAまたはニュートラリゼーションアッセイで解析し、ウイルス抗体の産生を確認する。
4. 必要に応じてPCRや細胞培養法で確認する。
検出対象ウイルス例(HAPテスト):
• ハムスターポリオーマウイルス
• ハムスターアデノウイルス
• レオウイルス
• その他、ハムスター特異的な病原体ウイルス
MAP/HAPテストの意義
1. 細胞バンクの安全性保証
• MAP/HAPテストは、細胞バンクが未知のウイルスに汚染されていないことを保証する重要なGMP試験の一つ。
• MCBやWCBの規制要件(ICH Q5A, FDA, EMA)に適合するために必要。
2. ウイルスフリーな細胞の確保
• バイオ医薬品の製造では、使用する細胞がウイルスフリーであることが求められる。
• PCRやNGS(次世代シーケンシング)では検出できないウイルスをin vivo試験で検出できる可能性がある。
3. レギュレーション対応
• MAP/HAPテストは、FDA、EMA、PMDAなどの規制当局が要求するウイルス安全性試験の一環。
• 他のウイルス試験(PCR、細胞培養法、NGS)と併用される。
まとめ
• MAP(Mouse Antibody Production)テストは、マウス特異的なウイルスの検出を目的としたin vivo試験。
• HAP(Hamster Antibody Production)テストは、ハムスター特異的なウイルスの検出を目的としたin vivo試験。
• どちらもMCBやWCBのウイルス安全性を確認するために行われ、GMP/ICH Q5Aに準拠する。
• PCRやNGSと異なり、生体内でのウイルス増殖や免疫応答を利用するため、より包括的なウイルス検出が可能。
MCBの品質管理において、MAP/HAPテストは規制要件を満たし、製造プロセスの安全性を確保するための重要な試験の一つとなっています。
【質問05】とある文書に『S+L- アッセイでレトロウイルスの感染性が検出されず、透過型電子顕微鏡(TEM) でレトロウイルスまたはレトロウイルス様の粒子が観察されない場合は、非感染性の可能性があるレトロウイルスを検出するために F-PERT 分析を実行する必要があります。』という文言があります。これはどういう意味でしょうか?
このコメントの意味を分かりやすく解釈すると、「感染性のあるレトロウイルスが検出されず、透過型電子顕微鏡(TEM)でもレトロウイルスやレトロウイルス様粒子が観察されなかった場合、それでも非感染性のレトロウイルスが存在する可能性があるため、F-PERT分析を追加するべきである」 という内容です。
用語の解説
• 感染性のあるレトロウイルスが検出されないとは、MCBの試験で、感染性を持つレトロウイルスが検出されなかったことを指す。
• 例えば、S+L−試験や28-day in vitro assay で感染性ウイルスが増殖しなかったことを意味する。
• 透過型電子顕微鏡(TEM)でもレトロウイルスやレトロウイルス様粒子が観察されなかったとは、透過型電子顕微鏡(TEM: Transmission Electron Microscopy)を使用した観察で、レトロウイルス粒子が確認されなかった ことを示す。
• TEMは物理的な粒子の有無を確認する手法だが、低濃度のウイルスは検出が難しい。
• F-PERT分析を実施すべき
• F-PERT(Fluorescent Product-Enhanced Reverse Transcriptase)アッセイは、レトロウイルスの逆転写酵素(RT)の活性を検出する試験。
• レトロウイルスはRNAをDNAに変換するために逆転写酵素(RT)を持っているため、RT活性を測定することで非感染性のレトロウイルス粒子の存在を検出できる。
• これは、「感染性はないが、細胞内で発現している非感染性のレトロウイルス(内在性レトロウイルスなど)」が存在する可能性を評価するために追加される試験。
このコメントの背景と意義
• MCBのウイルス安全性を確保するためには、多層的な試験が必要。
• 感染性のあるレトロウイルスが検出されず、TEMでもウイルス粒子が観察されなかった場合でも、F-PERTでRT活性を評価することで、非感染性のレトロウイルスの存在を確認できる。
• これはICH Q5Aガイドラインに沿ったウイルスクリアランス試験の一環として行われる。
まとめ
「感染性のレトロウイルスが検出されず、TEMでもウイルス粒子が見えなかった場合でも、非感染性のレトロウイルスが潜んでいる可能性があるため、逆転写酵素活性を検出するF-PERT分析を追加で実施する」 という意味です。
これはMCBのウイルス安全性をより厳密に保証するための措置であり、規制要件(ICH Q5A)に従って追加試験として実施される ことになります。
【質問06】F-PERT分析で陰性である結果が出てはじめて、MCBにレトロウイルスが感染していない、と考えることができる、という意味でしょうか?
はい、その解釈でほぼ正しいですが、厳密には「感染性レトロウイルスが存在しないことの確認を強化するための追加試験としてF-PERT分析が行われる」という意味です。
F-PERT陰性 = MCBに感染性レトロウイルスがいないという証拠の一つ
• F-PERT分析が陰性であれば、MCBに感染性・非感染性を問わずレトロウイルスが存在しない可能性が高いと判断できます。
• しかし、単独の試験結果だけで結論を出すわけではなく、S+L−試験、28-day in vitro assay、TEM観察など、複数の試験結果を統合して最終判断を行います。
F-PERT分析の役割
• 感染性のレトロウイルスがいれば、28-day in vitro assayやS+L−試験でCPE(細胞変性効果)やプラーク形成が確認される。
• TEM(透過型電子顕微鏡)で、レトロウイルス様粒子が物理的に観察される場合もある。
• しかし、非感染性のレトロウイルス(内在性レトロウイルス由来のウイルス粒子など)は、これらの試験では検出されない場合がある。
• F-PERTは、ウイルス粒子が「感染性を持つかどうか」に関係なく、逆転写酵素(RT)を持つウイルス粒子が存在するかを検出する。
• したがって、F-PERT陰性なら、ウイルス粒子自体がほぼ存在しないと考えられるため、安全性の証拠がさらに強化される。
最終的な判断
1. S+L−試験 → 陰性(感染性レトロウイルスなし)
2. 28-day in vitro assay → 陰性(外来ウイルスなし)
3. TEM → 陰性(レトロウイルス粒子なし)
4. F-PERT → 陰性(RT活性なし=非感染性レトロウイルスもなし)
➡ これらの結果がすべて陰性なら、MCBは「感染性レトロウイルスがない」と結論づけることができる。
結論
F-PERT分析の陰性は、MCBに感染性レトロウイルスが存在しないことを保証するための重要な証拠の一つですが、他の試験(S+L−試験、28-day in vitro assay、TEM)と組み合わせて総合的に判断する必要があります。
F-PERT陰性 = MCBが完全に安全という意味ではなく、規制当局が求める安全性の証拠をさらに強化するための追加試験という位置づけ になります。
【質問07】もし、S+L−試験で陽性となった場合、そのMCBはどのように扱えば良いのですか?
S+L−試験で陽性となった場合のMCBの対応
S+L−試験で陽性となった場合、MCBに感染性レトロウイルスが存在する可能性があるため、直ちに適切な調査と対策が必要 になります。具体的な対応は以下の手順で進められます。
1. 陽性結果の確認と再試験
(1) 試験の再現性確認
• S+L−試験が偽陽性の可能性を排除するために再試験を行う。
• 他のロットのMCBや別のアッセイ(F-PERT, PCR, TEMなど)と比較し、一貫した結果が得られるかを確認。
(2) 他の補完的試験を実施
• 28-day in vitro assay
• レトロウイルスが他の細胞にも感染するかどうかを確認する。
• 透過型電子顕微鏡(TEM)
• ウイルス粒子が存在するか直接観察する。
• PCR/RT-PCR分析
• レトロウイルスのゲノム配列を検出することで、特定のウイルスの同定を試みる。
• F-PERTアッセイ
• 逆転写酵素活性を測定し、ウイルスの存在を補足的に確認する。
2. 汚染源の特定
(1) 汚染の可能性を調査
• 培地や試薬のロットをチェックし、他の製造バッチとの比較を行う。
• バイオリアクターや培養装置のクロスコンタミネーションの可能性を調査。
• 細胞培養工程でのヒト由来ウイルスや動物由来ウイルスの混入リスクを評価。
(2) 過去のMCBロットを確認
• 過去のMCB、WCB、製造バッチで同様の問題が発生していないか確認。
• 異なるロットの細胞を同じ手法で再評価し、問題がMCB特有なのか、培養プロセスに起因するものなのかを判断する。
3. 規制当局との相談(必要に応じて)
• FDA、EMA、PMDAなどの規制当局に報告し、対応方針について協議する。
• **MCBの再構築(新しいMCBの作成)**や、ウイルスクリアランス試験の追加を求められる可能性がある。
4. MCBの使用可否を判断
(1) 使用禁止となるケース
• 感染性レトロウイルスが確定的に存在する場合、MCBは通常使用不可とされ、新たなMCBを構築する必要がある。
• これは、バイオ医薬品の安全性を保証するための国際基準(ICH Q5A)に準拠する。
(2) ウイルスクリアランスが可能な場合
• もし、ウイルス不活化(低pH処理、UV照射、フィルター処理など)によって完全に除去できることが証明される場合、MCBの使用を考慮できる可能性がある。
• ただし、規制当局の承認が必要であり、ウイルスクリアランス試験の実施が求められる。
5. 必要ならMCBの再構築
• S+L−試験が陽性となった場合、通常は新たなMCBを再構築するのが最善の方法。
• クリーンな親細胞株から新しいMCBを作成し、ウイルス検査を再実施する。
まとめ
• S+L−試験で陽性となった場合、MCBに感染性レトロウイルスが存在する可能性があるため、直ちに再試験と補完的検査(F-PERT, TEM, PCR, 28-day assay)を実施する。
• 汚染源の特定を行い、製造工程全体のリスク評価を実施する。
• 感染性レトロウイルスが確定した場合、MCBは使用禁止となり、新しいMCBを構築する必要がある。
• もしウイルスクリアランスが可能なら、追加試験を行い、規制当局と協議の上で使用の可否を決定する。
• 最終的に、ICH Q5Aや規制当局の要件を満たす形で、MCBの安全性を保証することが最も重要。
S+L−試験で陽性となることは極めて重大な問題であり、早急かつ慎重に対応する必要があります。
【質問08】S+L−試験で陰性で、TEMで陽性になった場合は、そのMCBをどのように扱いますか?
S+L−試験陰性 & TEM陽性の場合のMCBの扱い
S+L−試験で陰性(感染性レトロウイルスなし)だが、TEM(透過型電子顕微鏡)で陽性(レトロウイルス様粒子が観察された)という状況は、ウイルス粒子の存在が確認されたものの、それらが感染性を持っていない可能性があることを示しています。
この場合、MCBの使用可否を判断するために、さらなる試験が必要になります。
1. TEM陽性の意味
TEMでウイルス様粒子が確認された場合、以下の可能性が考えられます:
• 非感染性の内在性レトロウイルス(Endogenous Retrovirus, ERV)
• CHO細胞やNS0細胞のような哺乳類由来細胞は、ゲノム内に内在性レトロウイルス(ERVs) を持っていることがあり、これが非感染性のウイルス様粒子として検出される可能性がある。
• 例:CHO-K1細胞は**CHO内在性レトロウイルス(CHO-K1 ERVs)**を持っていることが知られている。
• この場合、感染リスクはないが、ウイルスクリアランス試験が求められる可能性が高い。
• 感染性が低い(もしくは不活性な)レトロウイルス
• TEMで検出された粒子が、S+L−試験では増殖しなかったが、わずかに感染性を持っている可能性がある。
• この場合、さらなる試験(F-PERT, PCR, NGS)が必要。
• 培地や試薬のコンタミネーション
• 培養に使用した血清、サプリメント、あるいは培養環境からウイルス様粒子が混入した可能性も考えられる。
2. 追加試験の実施
(1) F-PERTアッセイ
• 逆転写酵素(RT)活性を測定し、TEMで確認されたウイルス様粒子がレトロウイルスに特有の酵素活性を持つかどうかを調べる。
• F-PERTが陰性の場合 → TEMで観察された粒子は非感染性の可能性が高い。
• F-PERTが陽性の場合 → レトロウイルスの可能性があるため、さらなる対応が必要。
(2) PCR / qPCR / NGS
• レトロウイルス特異的な遺伝子配列が存在するかを確認する。
• もしCHO細胞なら、CHO内在性レトロウイルス(CHO-K1 ERV)の遺伝子配列と一致するかどうかを評価。
• PCRが陽性の場合 → MCBのウイルス安全性が疑われるため、追加検討が必要。
(3) 28-day in vitro assay
• 感染性ウイルスが増殖する可能性があるかどうかをVero細胞やMRC-5細胞で28日間培養し、ウイルスの増殖をモニタリングする。
• 28-day in vitro assayでウイルス増殖が見られなかった場合 → 感染性は極めて低いと判断できる。
3. 規制当局との相談とMCBの使用可否
(1) F-PERT, PCR, 28-day in vitro assayがすべて陰性の場合
➡ 非感染性の内在性レトロウイルス由来の粒子と考えられ、MCBは使用可能となる場合がある。
• ただし、規制当局(FDA, EMA, PMDA)との相談が必要。
• バイオ医薬品の製造プロセスにおけるウイルスクリアランス試験を強化することで、MCBの使用を承認される可能性がある。
(2) いずれかの試験で陽性となった場合
➡ 感染性のあるレトロウイルスが潜んでいる可能性が高く、MCBの使用は許可されない可能性が高い。
• 新たなMCBの構築を検討する必要がある。
• ウイルスクリアランス試験を見直し、製造工程でウイルス除去が十分にできるかを確認する。
4. MCBの代替措置
• 新たなクローンを選択し、MCBを再構築する
• 陽性となったMCBの上流工程の細胞(親細胞やシードセル)を評価し、ウイルス粒子の発生源を特定する。
• ウイルスクリアランスプロセスの強化
• すでに確立されたMCBをどうしても使用する場合は、ウイルス除去フィルター、低pH処理、UV照射などの方法で安全性を担保する追加試験を実施する。

結論
1. F-PERT, PCR, 28-day in vitro assayがすべて陰性なら、MCBの使用が可能な場合がある(ただし規制当局と相談が必要)。
2. いずれかの試験で陽性なら、MCBは使用禁止となる可能性が高い。
3. ウイルスクリアランス試験を強化するか、新しいMCBを作成する必要がある。
➡ 最終的には、規制当局との協議の上で決定されるが、安全性を最優先し、新たなMCBの構築が推奨されるケースが多い。
【質問09】S+L−試験で陰性、TEMでも陰性、F-PERTで陽性になった場合、MCBをどのように扱いますか?
S+L−試験陰性、TEM陰性、F-PERT陽性の場合のMCBの扱い
この結果の意味は、MCBに感染性レトロウイルスは検出されず、ウイルス粒子自体も観察されなかったが、逆転写酵素(RT)活性が検出された ということです。
この場合、MCBには非感染性のレトロウイルス関連要素(例えば内在性レトロウイルス) が存在する可能性が高くなります。
この状況では、MCBの使用可否を判断するために、追加の試験と規制当局との協議が必要 になります。
1. F-PERT陽性の意味
F-PERT(Fluorescent Product-Enhanced Reverse Transcriptase Assay)は、レトロウイルスの逆転写酵素(RT)活性を検出する試験 です。
RT活性が陽性になる場合、以下のような可能性が考えられます:
(1) 非感染性の内在性レトロウイルス(Endogenous Retroviruses, ERVs)
• CHO細胞やNS0細胞などの哺乳類由来細胞には、ゲノム内に内在性レトロウイルス(ERVs) がコードされていることがある。
• ERVsは、ウイルス様粒子を形成しないが、RT活性を持つ逆転写酵素を発現する場合がある。
• この場合、感染性のウイルスは存在しないため、安全性への直接的なリスクは低い。
• ただし、規制当局への説明と追加試験が必要になる。
(2) 検出限界以下のウイルス粒子が存在する可能性
• TEMでは検出できないほどの微量なウイルス粒子が存在する可能性もある。
• この場合、PCRやウイルス培養試験(28-day in vitro assay)でウイルス遺伝子の存在を確認する必要がある。
(3) 試薬や培地からのコンタミネーション
• F-PERTアッセイは非常に高感度な試験であり、培地や添加剤、試薬に由来する逆転写酵素活性が誤って検出される可能性 もある。
• 特に、ウシ血清や一部の動物由来成分には逆転写酵素を持つ要素が含まれることがあるため、汚染の可能性を確認する必要がある。
2. 追加試験の実施
F-PERT陽性の原因を特定するため、以下の試験を追加で実施する必要がある。
(1) PCR / qPCR / NGS(次世代シーケンシング)
• レトロウイルス特異的な遺伝子配列を検出できるかを調べる。
• CHO細胞ならCHO内在性レトロウイルス(CHO-K1 ERV)などの既知の配列と照合する。
• PCR/qPCRが陰性なら、F-PERTの陽性結果は内在性の逆転写酵素由来の可能性が高い。
(2) 28-day in vitro assay
• Vero細胞やMRC-5細胞でMCBの培養上清を長期培養し、ウイルスが増殖するかを調査する。
• もしウイルスが増殖しなければ、感染性のあるウイルスは存在しないと判断できる。
(3) 培地や試薬の逆転写酵素活性の確認
• 培地や血清サプリメントを単独でF-PERTにかけ、コンタミネーションの可能性を調査する。
• もし培地のみで陽性になる場合、MCB由来の逆転写酵素ではなく、外因性の汚染が原因である可能性が高い。
3. 規制当局(FDA, EMA, PMDA)との協議
(1) 追加試験の結果による対応
• PCR, 28-day in vitro assayが陰性で、F-PERTのみが陽性の場合
➡ 内在性レトロウイルスに由来する逆転写酵素活性の可能性が高いため、MCBの使用が認められる可能性がある(ただし、ウイルスクリアランス試験が強化される可能性あり)。
• PCRが陽性でレトロウイルス遺伝子が検出された場合
➡ MCBの使用が禁止され、新たなMCBを作成する必要がある。
(2) バイオ医薬品のウイルスクリアランス試験の強化
• ウイルス除去フィルター(0.1μmフィルター)
• 低pH処理
• UV照射
• その他のウイルス不活化ステップ
ウイルスクリアランス試験が十分であることを証明できれば、MCBの使用が認められる場合もある。
4. MCBの代替措置
(1) 新たなMCBの作成
• よりクリーンな親細胞株(Seed Stock)を選び、ウイルスフリーの状態で新しいMCBを作成する。
• MCB作成後に徹底的なウイルス試験を行い、安全性を確認する。
(2) 製造工程の変更
• もし試薬や培地由来の逆転写酵素活性が原因なら、代替のウイルスフリー試薬を使用することで問題を解決できる場合がある。

結論
1. PCR, 28-day in vitro assayが陰性なら、MCBの使用が認められる可能性があるが、ウイルスクリアランス試験の強化が必要。
2. PCRが陽性なら、MCBは使用禁止となり、新たなMCBを作成する必要がある。
3. F-PERTの陽性が培地や試薬由来の可能性がある場合は、試薬の変更で対応可能なこともある。
4. 最終的には規制当局と協議し、安全性を確保するための追加措置(クリアランス試験など)を検討する。
➡ MCBのウイルス安全性を担保するため、慎重に追加試験を行い、感染性のリスクが完全に除去できるかを確認することが重要。
今日の調べ物は、かなり自分の頭をスッキリさせるのに役立ちました。
