見出し画像

気候変動と環境危機 Vol.004 【気候変動の発見】

 皆さま、こんにちは。今日は『気候変動と環境危機』、グレタさん編著の4回目です。
今日の内容はかなり充実しています。全てを読んで理解するのに時間を要しました。
著者はマイケル・オッペンハイマー氏。彼は大気科学者でプリンストン大学の教授。IPCC報告書の執筆者でもあります。タイトルは、「気候変動の発見」です。第1部の6章になります。地球温暖化の発見から現代に至るまでの科学者たちの戦いの歴史が紹介されています。若い世代がこれらの事実を知り、人類を含む生命が地球上に棲み続けることができるよう、人類の行動変容を起こすことができるのか。相当難しい状況にあるのではないかと思われます。

気候変動の発見マイケル・オッペンハイマー

スウェーデンの化学者、アレニウスが1896年に「石炭を燃やして大気中に二酸化炭素(CO2)を放出することで、人類は徐々に地球を温暖化させるだろう」と予測した。1960年代、まだ若手の気象学者だった眞鍋淑郎が、気候をコンピューターシミュレーションする最初のモデルを開発した(眞鍋はこの功績で2021年のノーベル物理学賞を受賞した)。この研究の結果、アレニウスの予測はまずまず正しいということが分かった。眞鍋に続き新たな研究の波が生まれ、次第に悪化する影響の実態が描かれ始めた。著者は1969年に「テクノロジー・レビュー誌」で、「温室効果」という言葉を初めて目にした。そして人間が地球の気候を左右しうるという考えに恐怖を覚えた。
 1970年代には、大気中のCO2濃度が2倍になったら、地球の気温がどれだけ上昇するかということに関して、科学者の間で見解の一致が見られるようになった。次第に著者は、この不安を建設的な方向に向け、政治への関心と地球大気に関する専門知識を組み合わせることで、問題解決に貢献できるのではないか、という考えに至った。

温室効果の背景にある物理学
 地球の大気は主に窒素と酸素からなる。これらの気体は太陽光を遮らないので、ほとんどの太陽光は大気を通過して地表を温める。地球は温まるに連れて赤外線放射として熱を宇宙へ送り返す。しかし、大気中に存在する、水蒸気、CO2、あるいは他の微量な気体などはこの赤外線放射の大半を吸収し、その一部を地表に送り返し、地球の温度を上昇させる。そのため、これらの気体は温室効果ガスと呼ばれる。逆にこれらの温室効果ガスがなけれは、地球の平均気温は33℃下がると推定されている。なので、適量の温室効果ガスが地球上の生物に棲み良い環境を与えてきたと考えられる。
 19世紀に入って産業化が広範囲に興るようになり、年間何億トンものCO2が放出されるようになった。大規模な森林減少をはじめとする土地の利用の変化もCO2などの温室効果ガスを生み出す一因となってきた。現在では、大気中のCO2濃度は産業革命前の1.5倍にまで増えている。

温暖化はフィードバックループで加速する
 温暖化は海面からの水の蒸発を増やし、温室効果ガスである水蒸気を空気中に送り込み、温暖化がさらに加速される(フィードバックがない場合と比較して3倍の速さで温暖化している)。大気中のCO2の蓄積が憂慮されるのは、何世紀にも渡る遅々としたプロセスで海洋に溶け込ませるしか大気中のCO2濃度を下げる方法がないからである。その除去を加速するための方法を探っている研究者はいるが、現在のところ有効な技術はない。

 温暖化に対処する必要性は30年前には明らかになっていた。しかし、この危機に対して政治家に気付きを与えることはできなかった。著者は環境分野の科学者、若干の行政組織と研究を開始した。目的は、世論や政治指導者にこの危機を理解させることであった。当時、大半の国の政府は、温暖化の影響はまだ明らかではないので、何ら行動を取るべきではないと考えていた。
 著者は1986年、アメリカの上院委員会でCO2が長く大気中に留まることを踏まえ、通常の大気汚染とは異なる性質の問題であると指摘し、CO2の排出を抑える政策がなされない場合、手遅れになると主張した。2年後、著者は眞鍋教授、NASAのジェームズ・ハンセンとともに別の上院委員会に招待された。ハンセンは「温室効果は検知されており、気候を変動させている」と証言した。著者は、温暖化の速度を許容できる割合にまで遅らせ、最終的には大気を安定させるためには、化石燃料の排出量を現在の60%削減させる必要があることを指摘した(その後、排出量を抑えるための措置がほとんど講じられなかったため、今日では、必要とされる削減量はもっと大きくなっている)。
 同年の1988年、国連を通じてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が結成された。気候問題を評価し、解決策を提案するために、世界各国の科学者の研究を活用するものだった。干ばつ、ハリケーン、熱波などが引き金になり、近い将来、多数の国々で被害が発生することが既に理解されていた。著者らの目標は甚大な被害が生じないうちに各国に行動を取らせることであったが、明らかにそれは失敗に終わった。

 1992年にリオネジャネイロで地球サミットが開かれ、各国が国連気候変動枠組条約に署名した。この条約の目標は温室効果ガスを2000年までに1990年のレベルにまで戻すことであった。しかし、排出削減義務に法的強制力がなかったため、この合意は骨抜きになった。アメリカでは、ビル・クリントンが大統領に選ばれ、排出量を制限するエネルギー税を導入しようと試みたが、議会で強い反対にあい、提案を取り下げることになった。
 リオでの条約の進展が不十分であることに気づいた各国は、再び1997年に京都で会合を開き、先進国に排出枠を守る義務を課すことで合意した。しかし、京都議定書には発展途上国からの排出削減は求められていなかった。中国の排出量が急激に増えつつあり、中国以外の発展途上国もいずれは中国のように排出量が増加することを考えれば、京都議定書の効果は著しく限定的なものになると考えられた。しかも、アメリカもこれには批准していなかった。

 科学がこの戦いに敗れたのは、化石燃料を生産する企業や、それらの燃料を大量に消費する企業が政治家に影響力を及ぼしたからである。また、これらの企業、業界団体は偽情報によるキャンペーンを繰り広げた。化石燃料の産地から選出された政治家の一部は、あからさまな嘘を吹聴した。その結果、一般大衆は、温暖化リスクを軽視するようになった。

 ヨーロッパは偽情報による分断がさほどなかったため、気候変動問題で世界を主導するリーダーとなった。ドイツの統一、旧東ドイツ、旧ソビエト連邦諸国の排出が急減したこともあり、EUは京都議定書で合意した目標を達成した。
 2014年、中国とアメリカが合意に達し、それぞれの国の排出量の目標を定めた。しかし、翌年のパリ協定の効果は限定的なものになった。中国、最近ではインドの排出量が急速に増加しており、これらの国々の経済はまだ石炭に大きく依存しているからである。それでも中国には気候変動対策を積極的に取るべき理由がいくつかある。まず、中国国内の大気汚染を早急に改善しなければならない。また、世界各国にソーラーパネル、風力発電機、電気自動車を販売し、莫大な利益を得ることが可能な立場にあるからである。しかし中国は、パリ協定の誓約に関する監視・報告・検証作業で完全な透明性を示すことに反対している。
 気候変動を緩和し、生物が生きられる地球を維持するための競争に勝つためには、新たな指導者たちが化石燃料関係者や近視眼的な世論に立ち向かう必要がある。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?