今日は抗体医薬品やタンパク質医薬品の製造に必須のCell Bankについての話題です。抗体医薬品やタンパク質医薬品を開発する場合、将来の製造に向けてその抗体やタンパク質を発現する細胞を開発する必要があります。この行為を細胞株開発と言います。用いられる細胞はCHO細胞です。このCHO細胞開発によって作製されるのがいわゆるResearch Cell Bank (RCB)と呼ばれるものです。RCBに必要な条件は、目的とする抗体やタンパク質を多く産生すること、産生する抗体やタンパク質の物性および生物学的な性質が開発しようとする抗体医薬品やタンパク質医薬品のものと同等であることです。このRCBの作製もなかなか複雑な作業でいつか詳細を紹介したいと思っていますが、今日はこのRCBから製造されるMaster Cell Bank (MCB)とWorking Cell Bank (WCB)にフォーカスした内容になります。
RCBはクローンの細胞ですが、一般的には10本ほどのバイアルに分注されます。このうちの1本を培養して300から500本のバイアルに分注します。こうやって製造されるのがMCBです。さらにMCBの1本を培養して300から500本のバイアルに分注してWCBを製造します。RCBはnon-GMPで作られますが、MCBとWCBはGMP環境下で製造されます。このMCBやWCBは医薬品製造に直接使用されるので、これらの細胞が所望の細胞であるかどうか、確認するための試験を行います。試験は大きく分けて2通りあり、1つが特性解析と呼ばれるもの、もう1つは純度試験と呼ばれるものです。後者の純度試験はウイルスや細菌などが混入していないことを確認するための試験です。一方で前者の特性解析は、用いられている細胞が意図した細胞か、また、目的の抗体やタンパク質の遺伝子が正しく細胞のゲノムに組み込まれており、さらに意図した通り発現しているかどうかを確認するための試験になります。
今日の記事で取り上げるのは、上記の特性解析の中でも、用いられている細胞が意図した細胞であるかどうかを確認するための試験になります(一般的には抗体医薬品やタンパク質医薬品の製造にはCHO細胞が用いられます)。この試験はアイソザイム解析と呼ばれます。このアイソザイム解析がどんなものなのかをChatGTPの力を借りて紹介したいと思います。
アイソザイム解析 (Isozyme Analysis)は、動物細胞を用いた細胞バンクの特性解析において、宿主細胞の特定や同定に広く利用される方法です。この解析は、細胞に含まれるアイソザイム(同じ酵素活性を持つが、アミノ酸配列や物理化学的特性が異なる酵素)のパターンを比較して、細胞の起源や同一性を確認するものです。 ---アイソザイム解析の概要 1. アイソザイムとは? - アイソザイムは、同じ反応を触媒する異なる酵素分子のことです。これらは遺伝的背景に依存して異なるため、生物種や細胞の起源を特定する際に有用です。 - 例: ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)など。 2. 解析の目的 - 細胞バンク内の細胞が意図した宿主細胞(例えばCHO細胞、HEK293細胞など)であることを確認する。 - 異種細胞の混入や交雑を検出する。 - 特定の細胞系統の同一性を確認する。 ---アイソザイム解析の手順 1. 試料の準備 - 宿主細胞や培養細胞を回収し、細胞を破砕して酵素を抽出する。 - 酵素抽出液は遠心分離やろ過を通じて精製される。 2. 電気泳動 - 酵素をアガロースゲルまたはポリアクリルアミドゲル(PAGE)で電気泳動にかける。 - 酵素の異なるアイソザイムは、電場の中で移動速度が異なり、それにより分離される。 3. 染色反応 - ゲル上のアイソザイムを特異的な基質と反応させ、酵素活性による発色を観察する。 - 例: NAD/NADP依存酵素の場合、発色反応によってバンドが現れる。 4. パターンの解析 - 得られたバンドパターンを参照パターンと比較することで、細胞の起源や種特異性を確認する。 - バンドの位置や濃度は細胞株ごとに特徴的である。 ---アイソザイム解析の用途 - 宿主細胞の同定 - CHO細胞、Vero細胞、HeLa細胞など、異なる細胞株を区別可能。 - 異種細胞の混入検出 - 他の細胞系統が混入した場合、予期しないバンドが現れる。 - 細胞の安定性モニタリング - 継代培養を経ても、アイソザイムパターンが維持されていることを確認。 ---利点と限界 利点 - 方法が比較的簡便で、特別な装置を必要としない。 - 種特異性が高く、細胞の起源を正確に特定可能。 - 同一性確認や汚染検出に対してコスト効率が高い。限界 - 特定のアイソザイムのみを対象とするため、全体的なプロファイルが得られるわけではない。 - 分析の解釈には経験が必要。 - 新しい分子技術(例: DNAバーコード法、次世代シーケンシング)の台頭により、アイソザイム解析の利用は一部で限定的になりつつある。 ---補足情報 アイソザイム解析は、細胞バンクの確立や品質管理(例えばMCBやWCBの特性解析)において現在も重要な役割を果たしています。特に、ICHガイドライン(例: Q5D)でも細胞バンクの同一性確認として推奨されています。他の分子生物学的技術(例えばSTR解析やPCR)と組み合わせることで、より高い信頼性を確保できます。
なるほど。アイソザイム解析についてはよく分かりました。ただ、近年はDNAバーコード法によって置き換えられる方向なのですね。ではDNAバーコード法とはどんな方法なのか、再びChat GTPの力を借りてみましょう。
DNAバーコード法 は、CHO細胞のマスターセルバンク(MCB)の特性解析において、特に以下のような用途で利用されます:CHO細胞MCBでDNAバーコード法を用いる理由 1. 細胞株の同一性確認 • MCBの細胞が、意図したCHO細胞であることを確実にするために利用されます。 • 他の細胞株や種(例: ヒト細胞、マウス細胞)が混入していないことを確認します。 2. 異種細胞混入の検出 • 製造プロセスや培養中に、意図しない細胞や微生物が混入していないかをチェックします。 • DNAバーコード法は、細胞間の微細な遺伝的違いを検出するため、感度が高いです。 3. 系統樹の確認 • CHO細胞系統間での遺伝的変異や分岐を明らかにするために利用されることもあります。 • 継代による細胞の遺伝的安定性を確認するのに役立ちます。CHO細胞MCBでのDNAバーコード法の手順 1. DNA抽出 • MCBから少量の細胞を回収し、DNAを抽出します。 • CHO細胞の場合、核DNAやミトコンドリアDNAを対象にすることが多いです。 2. ターゲット領域の選定 • CHO細胞の場合、通常は哺乳類に広く保存されている以下の遺伝子領域が使われます: • ミトコンドリアDNA(例: COI遺伝子) • 核DNAの高可変領域(例: ITS領域) • CHO細胞特有の配列や変異が知られている場合、それをターゲットにすることも可能です。 3. PCRによる増幅 • DNAバーコード領域を特異的プライマーで増幅します。 • PCR産物をアガロースゲルで確認して目的のバンドが得られたかを検証します。 4. DNAシークエンシング • 増幅されたDNAをシークエンスして配列データを取得します。 • サンガーシークエンシングが一般的ですが、次世代シーケンシング(NGS)を使用することで高精度かつ高スループットの解析も可能です。 5. データ解析 • シークエンスデータを既存のCHO細胞のバーコードデータベースと比較し、細胞の同一性や異種混入の有無を確認します。DNAバーコード法の具体的な用途 1. CHO細胞の同一性確認 • CHO細胞は系統(例: CHO-K1、CHO-DG44)によって遺伝的特徴が異なります。DNAバーコード法により、サンプルがどの系統に属しているかを確認します。2. 異種細胞の混入検出 • 他種由来の細胞(例: HEK293細胞やVero細胞)や異なるCHO系統の混入を検出します。 • 未知の細胞混入の場合も、バーコード配列を解析することで起源を特定できます。3. 遺伝的安定性の評価 • 継代培養によってMCBの遺伝的特徴が変化していないか確認します。 • DNAバーコード法は細胞の遺伝的変異を検出するため、長期保存中の変化や突然変異を評価するのに適しています。メリット 1. 高い特異性と感度 • 他の細胞株や種の混入を極めて低いレベルで検出可能。 2. 正確な同一性確認 • シークエンスデータを用いるため、従来の方法よりも正確に細胞株を同定可能。 3. 広範な適用性 • CHO細胞以外にもさまざまな宿主細胞に応用できる。限界 1. 事前データの必要性 • CHO細胞のバーコードデータが事前に確立されていなければ利用が難しい。 2. コストと時間 • シークエンス解析には一定のコストと時間がかかる。 3. 他手法との併用が必要 • STR解析やアイソザイム解析と組み合わせることで、より確実な同一性確認が可能。 DNAバーコード法は、CHO細胞のMCB特性解析において、同一性確認や混入検出のための信頼性の高い手法です。ICHガイドライン(例: Q5D)に基づく細胞バンクの品質管理において、他の解析手法と組み合わせることで、その有効性をさらに高めることができます。
以上です。アイソザイム解析やDNAバーコード法について理解が深まりました。