リバーサイド3

 あ〜、寝すぎた〜。9時か〜。

 昨日食べすぎたし、朝メシはいいや。

 でも野草だけは採りに行こ。


 のどかだ。雀が鳴いてて。

 太陽が花も草も透けるほど萌やしてる。

 私が写真を撮るならこの雑多な地面を撮りたい。冬の残骸が黒くなって、春が青くて、光ってんの。


 あ〜バンド組みて〜。

 バンドって三人いればできるよな?てことはドラムとギターがいればもう組める。


 で、どーやって探すんだろう。ドラムとギター。楽器やってるやつってジンセーで一人も見たことねーんだけど。

 綾香に頼んでしょーかいしてもらうか?

 むりそう。


 さて、公園とーちゃく。草はまだあるな。

 炒め物〜…。いや、今夜は酸辣湯にしよ。人目のないうちに採るぞ。


――――――――――――――――――― 

 よし、今夜の分はこんなもんでいいか。


 お?

 遠くのベンチで誰かがアコギ弾いてる。女の子だ。

 椎名無花果かな〜。青春の瞬き。歌上手いな〜。


 次はなんかギターソロのやつか。


 演奏終わったかな。


 「おねーさんその曲ショーン・サニーっぽいね〜」

 「えっ!わ、なんでわかったんですか?」

 「おっ当たってた?」

 「そうです!ゲットユーバック。下手くそなので高音のところミスしちゃいました」

 「かなりウマいと思ったけどな〜」

 「いやまだまだですよ。我が導きの師ショーン・サニーには程遠いです…!」

 

 「あの…ところで誰です…か?」

 「太田瑞生。瑞生でいいよ〜。君は?」

 「東村麗美です。ひょっとして瑞生さんはギター弾いたりするんですか…?」

 「ベース弾くよ〜。ていうかなんで小声なの?」

 「人としゃべるの結構久しぶりで…緊張してて…」

 さっきふつーに喋ってたじゃん。変なの。

 「歌も上手かったね〜。椎名林檎の青春の瞬きだよね〜?」

 「そうです。と、止まってほしい青春なんてないんですけどね…」

 「へ〜、こんな朝っぱらからギター弾いてるってことは学校行ってねーの?」

 「保健室登校で…たまに行きます」

 「へ〜」


 「私と歌わない?ギター弾いてよ〜」

 「ええ?!緊張しますよ…」

 「デケェ声出んじゃん。やろうよ〜とりあえずさ〜」

 「フゥ〜分かりました」


 歌い始めてちょっとは声が震えてたけど全然歌えるじゃん。


 「全然歌えるじゃん」

 「集中してたらいける…!」

 「ならさ〜、私とバンド組まない?」

 「え?バンド…?」

 「歌もギターもウメェしイケるよ〜」

 「ひ、人前で歌うんですか?」

 「うん」

 「それは…できないです」

 「なんで?」

 「怖いです…」

 「そっか〜」


 「あのさ」

 「…?」

 「警察に指名手配されてる?」

 「ええ?!違います!」

 「ふ〜ん、指名手配だったら金が手に入ると思ったんだけどな〜」

 「ぇ゙」

 「冗談だよ〜。アハハハ」

 「私…やっぱりおかしな格好してますか?」

 「今月で一番怪しーかもね〜」

 「そ、そんなにですか?」

 「うん。不審者より不審者っぽいよ〜」

 「どうしたら良くなりますか?」

 「帽子とメガネとマスクを取ったらいいんじゃねーの〜?ふくそーがふつーだからさ〜。それがよけーに変に見える」

 

 「…顔に自信がないんですよ」

 「へ〜。じゃあ帽子はとってよくね〜?」

 「耳も自信ないです」

 「そう」

 「もしかしてさ〜」

 「なんですか?」

 「スミ入ってる?」

 「スミ?」

 「入れ墨」

 「そんな?!、入ってるわけないじゃないですか」

 「ちげぇか〜」

 

 「なんでギター始めたの?」

 「…昔はクラシックギターを弾いてました。4歳から」

 「すげーじゃん」

 「それで、10歳の時にお父さんの部屋にあったエレキギターを思いっきり歪ませて弾いたときに、…初めて音楽が楽しいって思いました」

 「お〜」

 「そ、それからずっとずっとギターだけは頑張ろう!って思って、自分で選んだ本当に好きなものだから」

 「へ〜、カッコいいじゃん」

 「み、瑞生さんはどうしてベースを?」

 「弾いてろって言われたからさ〜。習慣で今もやってる〜」

 「いつから弾いてるんですか…?」

 「…何歳かな〜?忘れたわ〜」

 「すごい、そんな頃から」

 「音が出ればなんでも良かったんだ〜」

 「そうなんですか」


 「あっ、グミ食べる?」

 「グミ?」

 「お菓子」

 「お菓子ですか。欲しいです」

 「はいよ〜」

 「いただきます。甘くて弾力があっておいしい…!」

 「公園ていいよなあ」

 「いいですよね、今日は気持ちのいいてん」

 「お菓子が落ちてる」

 「え?」

 「子連れとか子供がお菓子を落としていく。こんな気持ちのいい天気の日にタダでお菓子を食べるなんてゼータクの極みだな〜」

 「…これ拾ったやつなんですか?」

 「未開封だし。へーきでしょ?はいもう一つ」

 「えぇ…あっ」

 その時レミがグミを落とした。でも私が三秒で拾ったからセーフだよね。

 フーフー、パクッ。

 「うま。あっ、ごめん食べちゃった」

 「汚いですよ…」

 「三秒以内に拾ったからセーフ」

 「そ、そうなんですね。そんなルールがあったなんて…」

 「もう一個いる?」


 「い…いただきます」

 

 「こういうお菓子を食べたのは初めてです」

 「普段何食べてんの?」

 「普段はケーキやクッキーですね。和菓子も時々」

 「ケーキってウマいの?」

 「美味しいですよ!食べたことないんですか?」

 「うん」

 グミうまいな。もうなくなりそう。


 

 「お嬢様、お時間です」

 知り合いかな?

 「あら、もうそんな時間なんですね。では失礼します瑞生さん。今日は私と話してくれてありがとうございました」

 「ああうん。じゃあね〜」

 黒い服の男とレミは私にお辞儀をして黒くてピカピカの車に乗っていった。


 「レミギター上手かったな〜。ん、あれ〜?グミなくなった」

 帰ろ。ベースでも弾こう。


―――――――――――――――――――

 3時半か。どうすっかな。

 そうだよ!ベースの弦買わなきゃ。

 それから〜。図書館行こう。綾香とかレミみたいなやつと喋るとき何話していいかわかんねーから話題がいっぱい載ってる本とか。



 さて、エリクサーは買ったし図書館に着いたわけだけど。

 雑談用の話題な〜。

 どんだけ調べて話しても私はお嬢様じゃないから、あいつらと話が合うことなんて一生無い気がするな〜。


 そもそもなんで喋るんだろうな。私はオッチャン達から何か貰ったり交換するために喋ったりするけど、目的の無い会話って難しくないかな〜。違う目標があんのか?

 


 とりあえず読んでみたけど、ん?携帯に珍しく連絡がある。綾香だ。

 『明日の計画を伝えるから駅前のナクドマルドに5時半に来れるかしら?』

 『ちょっと遅れるかも』っと。

 ちょっくら行くか〜。



 「それでケーカクって何さ」

 「明日あなたを学校に連れて行く事になったわ」

 「お〜。デケェアンプで弾けるのか〜」

 「違う。面接を受けてもらうの」

 「メンセツ?」

 「ええ。先生と話をしてもらって、あなたが指導員としてふさわしいかどうかを判断されるわ」

 「話すだけなら楽勝じゃね?」

 「その言葉遣い…」

 「え?」

 「今日の計画っていうのはあなたのその言葉遣いを治すのと演じてもらうシナリオを渡しに来たの」

 「へ?」

 「今から2時間であなたの言葉を矯正する。それから残りの1時間でシナリオの人間を演じてもらうわ」

 「まじかよ〜」

 「いいからやるわよ。みっちりとね」

 「へ〜い」

 逃げられそうにないな〜。


〜3時間後〜


 「全部覚えたかしら?」

 「多分…」

 「いつもの元気がないわね」

 「疲れた〜」

 「明日の16:30に面接だから校門には15分前に到着していてね」

 「はい〜」

 「できる事はやったわ。さあ早く帰って寝て脳に定着させないと。あと明日はできる限り綺麗な服を着てきて髪も整えてね」

 「わかった〜」

 「全ては大きいアンプでベースを弾くためよ」

 「あいよ〜」

 「早く支度をして、お店出るわよ」

 「ふぁ〜い」


 あーつかれたー。眠いから早く寝よ。

 綾香は家帰っちゃったし。

 

―――――――――――――――――――

 よく寝たな〜。

 昨日のことは綾香が紙に書いて渡してくれたからよしゅーしておくか。


 私は綾香の幼馴染で中学生の頃に虐めにあって不登校になった。

 ようやく最近家から出るようになった。

 ベースが得意だから部員たちに教えてあげることでコミュニティ内で人と交流を持って欲しい。社会復帰の手助けをしたいと綾香はせんせーに言ったっぽい。


 そんで私は気が弱くて声が小さく猫背で自信のない態度で面接をやれとのことだ。やってやるか〜。


 「いい?昨日も言ったけど敬語に気をつけて」

 「わかってるって〜」

 「学校の敷地に入ったらその言葉遣いはしないでね」

 「あいよ〜」


 「じゃあ、行くわよ」

 「わかりました〜」


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