リバーサイド1

「しーあわーせはーあーるいてこーないー
 だーからもっがいってつっかむっのよ〜 
 1日100個3日で3個 
 さ〜ん個わったしってごっこもっらう〜」
 
 クソみたいな街にも春が来る。うんこの匂いのする家の前の川に、蝿みたいに人が群がる。桜がきれいだと言う割に、地面の写真も靴の裏も、アスファルトに押し付けられた花びらを、写真を撮るやつは居ない。

 はぁ~あ、朝っぱらから散歩してたらマヌケどものタバコでも落ちてると思ったのに〜。くたびれ損だ〜。

 「ニャー」
 猫だ。
 「どうしたんだ?猫」
 撫でてやるとゴロゴロ喉を鳴らす。
 「ふけーきだよなー。煙草くらい落ちてたっていいのにさぁ〜。あ〜何しよっかな〜。パチ行ったら警察に怒られたし。図書館はまだ空いてねーし。う〜ん、しゃーねーけど家帰るか」
 
 あっそうだ、サンダルボロくなってきたからゴミ捨て場巡りするか。この辺は確か結構ゴミ捨て場近いし。よーしやろう。
 5分歩けば早速見えてきた。朝のゴールデンタイム。見逃すわけにはいかないぜ〜。

 「いい感じのサイズが〜…おっ、あったけどなんかダサいな〜。まぁ、貰っておくか」
 コツコツ。キャッキャ。
 そろそろ時間だ。切り上げよう。
 お嬢様たちがやって来る。ジロジロ見てきて、不審者扱いされて警察に声かけられる。1週間前にお話したばっかなのにゴメンだね。

 「おっこれ良いじゃん!」結構好みのやつが見つかった〜。うれし〜。苦節20分。長い旅だったな。さっ、帰ろ。3つ目のゴミ捨て場で見つかってラッキ〜。
 
 家に帰る途中のベンチで、お嬢様学校の制服を着たのがベンチに座って猫を撫でている。そういうヒンコーホーセーな奴はチコクしないように学校行くもんだと思ってたけど、変なのもいるんだな〜。

 「おはよ〜、ねぇ、何してんの?」
 「えっ、…何って、別に猫を撫でているだけよ」
 「学校チコクすんじゃないの?」
 「お婆ちゃんが信号を渡るのを手伝ったり、電車で忘れ物をした人のためにわざわざ降りて忘れ物を届けたり、私には偶にそういう日があるのよ」
 「へ〜。じゃあ今日は猫が木から降りられなくなったのを助けたとか?」
 「それ良いわね」
 おっ、川沿いの柵の上にタバコあるじゃ〜ん。中身は?おぉ、ライター入りの6本セット。ありがたや〜。吸うとしますか。
 「何してるの?」
 「タバコ吸ってんの、いる?」
 「要らないわ。あと、匂いがつくから風上に立たないでくれる」
 「は〜い」
 すー。ふー。
 「あなた見た感じ未成年よね」
 「かもね〜」
 「そんな時期から吸ってると体に悪いわよ」
 「お嬢様はここで猫撫でてるよりガッコー行って勉強したほうが良いよ〜」
 「うるさいわね」
 「へ?」
 「どいつもこいつも口出ししてきて、オマケにアンタみたいなのにも言われて!」
 「どーしたの?生理?」
 はぁ〜タバコウマ〜。
 「それじゃあ、失礼するわ」
 「じゃあね〜」
 「あなたもさっさとその汚い服を着替えて学校に行ったほうがいいわよ」
 「オッケ〜、考えとくわ〜」
 ソイツは私を睨んだあと制服の上着を丸めて川に思いっきり投げた。
 「アッハハハ!」
 サイコーじゃんあいつ。おもしれ〜。
 あっ?待てよあの高そうな上着売ったら金になるんじゃね〜の?
 

 うい〜取れて良かった〜。売れんのかな。足つくんだったらゴミ捨て場に持っていくか。なんか良いもん入ってないかな、財布とか現金とか。
 内ポケットを漁ると手帳みたいなのが入ってる。開いてみるとあの女の写真と名前が書いてあった。
 「へぇ〜イイモンみっけ」
 返してやったら金貰えるかな。これ結構高そうだし、1万円で吹っかけて5百円ずつ下げていって8千円ぐらいで売ってやろう。
 そしたら弦買っても一月分は食費残るし。
「サイコーにラッキーだな〜」

 家に戻ったけど、今日何弾こうかな。メタルは飽きてきたし。最近弾いてたヒップホップ繋がりでケーポップでも弾くか。
 「てってってってってて、は〜ん、なるほどねー」
 ベースの弦錆びてきてんな〜。9月から変えてねーからな〜。金ほし〜。

 「もう4時半になったか〜。サエキ学校いるかな〜」
 日が長くなったな〜。夕焼けで川がキラキラしてる。
 にしても、あいつやっぱ生理だったのかな〜?めっちゃキレてたし。いや、口を出したことに切れてたのか?わかんね〜。
 いいや、とにかく金払ってくれれば。

 校門まで着いたけどどーすっかな。このジャージだと確実に部外者ってバレるし。2年だったよなサエキ。

 「あの、すみません。2年生のサエキさんってご存知ですか?」
 「あ〜、佐伯さんね。今部活だったと思うよ」
 「私部外者なので入ること出来ないんですけど、佐伯さんの制服を預かってまして今呼んでみてもらえますか?」
 「そうですか。う〜ん、既読つくかな」
 ケータイをいじってくれてる。うまくいきそ〜。ラッキー。
 「ところでアナタは?」
 「ワタクシ、田中涼子と言いまして、佐伯さんの家の近くに住んでいるんです。佐伯さん昨日ブレザーを干していたのが風で飛ばされて、それが私の家の庭に落ちていたんですね。ですが昨日までワタクシ達旅行に行ってましてね。佐伯さんの御両親、帰って来る時間が遅いものですから、渡せるのなら学校から帰ってくるタイミングで渡せたらと確実だと思いましてね」
 「はぁ、そうですか。あっ来てくれるみたいです」
 「まぁ、良かった」
 ちょっとしたら佐伯が現れた。私を嫌そうな顔で見てくる。
 「じゃあ、私はこれで失礼します。あやかー私帰るからー」
 「はーい」
 知人サンキュー。丁度いなくなってくれて。さぁ、どうやって吹っかけてやろう。
 「あんた何しに来たの?」
 「何って、親切にセーフク届けに来てやったんだよ」
 「そう、ありがとう」
 ぶっきらぼうに言うな〜。
 でもその言葉待ってた。
 「ありがたいって思うんだったら少しばかり恵んでくれても良いんじゃな〜い?例えば1万円くらいでさ〜」
 「はぁ〜」
 うんこを踏んだ時みたいな溜息をついて、佐伯は財布から万札を1枚抜いて渡した。
 「はい、手切れ金よ。二度と私に近づかないで」
 「まいどあり〜」
 佐伯は私の手から制服の上着をひったくる。
 「臭い」
 「そりゃ〜あのドブ川から引っ張り上げたんですから〜。それでも感謝してくださいよ〜」
 「あっそ、私部活あるからじゃあね」
 「ちょっとまってくださいよ〜おねぇさ〜ん」
 「何?いい加減にしてよ」
 「実は今この手帳もセットで販売しているんですが〜今回は条件付きで〜タダでプレゼントしちゃいま〜す」
 「商魂たくましいわね、ホンっとしょうもない」
 もう一度佐伯は私の手から手帳を取ろうとするが今度は私も離してやらない。
 「かえして」
 「捨てたのはサエキだろ〜?質問答えてくれるだけでいいから、ねっ?ねっ?イイだろう?」
 「さっさと言って」
 「部活って何してんの?」
 「軽音部、これでいい?かえして」
 軽音?なにそれ
 「ケーオンって何すんのさ?」
 「バンドの曲を演奏したりすんのよ」
 「へー、私ベース弾けるよ」
 「だから何?さっさと帰らないと守衛の人に言うわよ」
 「ちょっとだけ弾かしてくんない?」
 「とっとと帰って」
 「お願いおねがーい」
 「付いてこないでよ」
 「お願いおねがーい」
 「もう!5分弾いたら帰って、可及的速やかに!」
 「ヤッター」

 ここが音楽室ね〜。中を見た感じ、小学校の頃の音楽室よりもちょっとだけ豪華だ。
 あっ!ベースのアンプが家にあるやつよりもデカい!
 「はい、そこにセットされてるやつあるから」
 「サンキュー、他の人は?」
 「あと10分もしたら集まってくるわ」
 「なるほどね~」
 
 朝弾いてたケーポップやるか。ベースとボーカルだけでいい感じに演奏できるかな〜。
 「ね〜、5弦無いの?」
 「さっさと弾いて帰って、守衛さんを呼んでもいいのよ?」
 準備室の方のドアを開けてみるか。
 「あっ準備室にあるじゃ〜ん」
 「勝手に開けないで!」
 その時音楽室のドアが開いた。
 「綾香先輩、お疲れ様です」
 「おつかれさま」
 「あれ?あの方は?」
 「えーっと」
 「講師の富永ですっ。よろしくお願いしまっす!」
 「は、はい」
 「き、今日は外部の方を呼んで演奏の指導をしてもらおうと思ってね…」
 「そうなんですか、でもあの方私たちとそんなに年離れてなさそうですよ…」
 「そうかもしれないけど、俺プロだから。それと今から演奏するよ!」
 「失礼しました!プロの方なんですね、凄い!他の子たちも呼んできます!」
 行っちゃった。いい子で良かった〜。
 「あんたホントにいい加減にしなさいよ」
 「だいじょぶ、ベースセット出来たし、マイクこれ借りて良い?」
 「はぁ〜…」
 「サンキュー」

 「じゃ、いっちょやったりますか〜、あーあーマイクよ〜し」
 
 
 わん、つー、すりー、ふぉー。

 I'VE―ACCENDIO

 (スラップ)

 Dear priest…

 (スラップ、ドラムとハイハット意識)

 Ooh, 평온했던 심장이

 (ゴーストノート、開放弦…)
 
 (Five,six,seven,eight)

 Watch me, don't touch me

 Love me, don't hurt me…

―――――――――――――――――――

 見に来てくれた人たちがパチパチ拍手してくれてる。
 帰るか〜。
 「見に来てくれてありがとうございました。今日はこのあと予定あるので帰っちゃうんですが、ライブハウスでまた会いましょう!」
 
 「私が送るから、バレないように付いてきて」サエキがすごい剣幕だ〜。
 「オッケー」
 こうしてスパイごっこをしながら階段を降りていく。

 「さっきの喋り方はなんなの?」
 「動画で見た人のモノマネ〜」
 「富永って名前は?」
 「モチのロンでウソ」
 「田中っていうのも?」
 「アレはドラマで見た人のモノマネ〜」
 「呆れるわ」
 
 なんやかんやで無事に校門まで戻ってこられましたとさ。
 「じゃあね、二度とこんなことしないでね」
 「誰かが制服投げ捨てなきゃね〜」
 「天才ね。苛つかせることに関しては」
 「そんじゃーねー」

 「ねぇ」
 「なに?」
 「…ベースも上手いのね」
 「暇だったからね〜。なぁサエキ、人が見てくれるのって楽しいな」
 「ええ」
 「また来ていい?」
 「駄目よ。ほら、早く帰って守衛さんが来てる」
 「は〜い。サエキ今日はありがと〜、楽しかった〜」
 「満足したなら帰って」
 「じゃーね〜」
 さあタバコでもふかして帰ろう。今日の晩ごはんは豪華だぞ〜。
 

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