Web小説発掘記 その325 ソロ冒険者レニー 作者 月待 紫雲様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330658782125843

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『クビの話』から『慰安の話』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

 レニーはソロの冒険者だった。いつものように酒場で食事をとろうとすると、相席を頼まれる。それはソロの冒険者ではあまり珍しいことでもない。珍しいと言えば相手の方だった。
相手はギルドでも人気の受付嬢だったのだ。
酒と愚痴に付き合いながら、レニーは奇妙な依頼をされる。

恋人のフリをしてほしい、と。

ストーリーと見所

前回の記事はこちら↓

というわけで実は3度目なので正直語ることもあんまりない……。

などと思ったらそんなことは全くなく、知っている人もいるかも知れないが……というか本編のあらすじのところに書いてあるがこちらの作品、ネット小説大賞を受賞したつまるところ書籍化作品ということになる。

なので、今回に関してはちゃんとした書籍として読ませていただくことにした。
評価基準はいつものWeb小説とはまた別。即ち一冊分を読んで次の巻を買いたくなるかどうか。
そういった形で進めさせていただく。

で、まぁ文字数稼ぎに前置きしておいてなんだが結論としてはちゃんと面白い。
なるほどこれは賞をとったといわれて全く疑いようのない出来となっている。
つまり審査員の方々はしっかり仕事をしているということだ。素晴らしい。

ストーリーとしてはタイトルにある通り、ファンタジー世界で冒険者を営む主人公のレニーが主役の物語。
基本的に誰かとパーティを組んで活動することが多い冒険者達の中で、彼は一人での活動をメインとしていく。

一人ならではのフットワークの軽さを主軸とした、色々な人と関わる物語となっているのだがこれがまー……構成がかなりしっかりとしている。
一つの章はそれほど長くはなく(一部それなりの文量のものもあるが)、割と物語自体はシンプル。
依頼を受けて解決。その中にちょっとした人間模様やドラマ、成長があったりするといったものだ。
その中で冒険したり日常を謳歌したり、中にはストーリーの流れに上手く沿って設定を多めに語るお話などが含まれている。

決して大きな話を描いた物語ではないのだが、それがまた作品の雰囲気を上手く作り上げている。
魔王を倒すわけでもなく、冒険をする。
内容は本当に単純な魔物退治や物運びなど、だがそこに主人公を中心とした様々な人物の関りがあり、彼等の人生を覗くことで一つの物語として綺麗に完成している。

そういった物語を繰り返し、少しずつ人の輪が広がり主人公が強くなり……。
生死を賭けた冒険者であり、時にはシビアな現実が語られる物語でありながら何処かゆったりと、読者に寄り添うような雰囲気で物語は進行していく。

その空気がいつまでも壊れず、安定しているというのも作品としての強い評価点だろう。
決して派手ではないが、キャラクターの心情などを丁寧に描くことで作品の魅力をしっかりと生み出すことに成功している。

伏線の立て方、後の物語に必要とされる情報や事象のばら撒き方も見事で、エピソードを含めて語られるので印象が薄くならない。
そして何よりも勿体ぶらずにちゃんと読者の目の届く範囲でそれらを回収し、ストーリーに更なる面白さをもたらしている。

物語全体から感じ取れる何処か穏やかな空気と丁寧さがこの作品の一番の魅力といっていいだろう。
いや流石に一番は言い過ぎか。

キャラクター

レニー・ユーアーン

物語の主人公。
クールでドライ、あまり欲望を表に出すことはなく何処か達観している。
俗な言い方をすればかなり好き嫌いが別れない主人公。

少なくともファンタジーもののライトノベルを求める人からすれば、殆ど文句はないのではないだろうか。
人物像としてもクールでドライではあるものの情には厚く、物語を読み進めていくと確かな人間味も読み取ることができる。

この物語を体現したような人物であり、ストーリーとの親和性が高い……というか彼が主人公であるからこのような物語になっていると思わせてくれるキャラクター。

ルミナ

ボクっ子ダウナーエルフ娘。

うむ(満足)

だんだん出番が増えてきて嬉しい限りである。

総評

評価点

あくまでもタイトルにある通り、主人公から焦点がブレることが滅多になり。
読者は彼の目を通して世界を見ることができ、それが物語に入り込むうえでこの上なく親切な仕様となっている。

そしてそういった役割を与えられた主人公のキャラクターも、いい意味で灰汁が少ないものとなっている。

文章に関しても大きな問題はない。キャラクターの容姿や服装に関しては力が入っており、印象強く書かれているのが特徴ではある。
戦闘シーンはかなり面白い。

キャラクターの動作とスキルが上手く組み合わさった描写はユニークで、スキルの説明こそ入るもののスピード感も失われていないいい塩梅となっている。

問題点

大きな欠点や問題点はほぼ見受けられない。
物語自体が緩やかで大きな波がないのは欠点といえなくもないが、どちらかといえば物語の性質の問題だろう。

最終評価 68点(買って読んだとして、続刊が楽しみな小説)

偶然この小説を手に取って購入し読んだとして、取り敢えずこれだけの面白さがあれば次の巻が出れば同じように買って読むだろう。

今回に関しては書籍化が決まった作品ということで、こういった評価にしてみたところである。

上で散々褒めたように、大きな問題はない。
そして作品の強みや独自性を失わず描き続けることができている物語。

いい意味でマイペース、読者に寄り添うように進む厳しくも穏やかな世界観が特に魅力的。

面白さはこのレビューをあてにせずともとっくに証明済みなので、是非読んでみては如何だろうか。

所要時間は『クビの話』から『慰安の話』までで凡そ2時間30分ほど。



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