Web小説発掘記 その333 蒼き炎のジャヤシュリー 作者 佐斗ナサト様
本編URL
https://kakuyomu.jp/works/16818093091104731581
前書き
この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては500円~1200円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第12話 華の文様』までを読んでの感想、レビューとなります。
あらすじ
無から炎を生み出す異能ゆえに人目を避けて暮らす娘ジャニは、王なき王国の第三王子ダルシャンの命を救う。彼女こそ所有者に玉座を約束する「炎神の験《アグニのしるし》」だと確信したダルシャンに導かれ、王都に赴くジャニ。だが宮廷には様々な思惑が渦巻いていた。ジャニの正体を怪しむ摂政。姿を見せぬ先王妃。玉座を争う第二王子。華やかな王都に、孤独な彼女の居場所はあるのか。
「バーフバリ」などのインド映画が好き。『十二国記』や『指輪物語』が好き。恋とか愛の物語も大好き。そんな作者による「古代インド風×ファンタジー×男女恋愛」小説。
ストーリーと見所
古代インド風の世界を舞台とした異世界恋愛ファンタジー。
他にあまり見ない世界観というだけあって、これだけで作品としての独自性は充分。
物語は森で暮らしていた主人公が、生まれつき持っていた炎の力で狩人を助けるところから始まる。
そしてその狩人が実は国の王子様で……。
といった感じの構成としては割とシンプルな異世界恋愛ストーリーではあるのだが、やはり舞台がインド風というだけあって細かな部分で他の物語との差別化が図られている。
中でも特筆したいのは、その精緻な描写力だろう。人や物、服装に建物などをかなり細かく描いているので、独特な世界観と合わさって相乗効果を生み出している。
その部分だけでも物語に彩を与えており、ストーリーとしてはわかりやすくありつつも作品が強い独自性を持つ理由の一つとなっている。
重厚な描写でなかなかにハイカロリーな作品ではあるが、それに足るほどの面白さはしっかりと表現できている良作小説。
キャラクター
ジャヤシュリー
物語の主人公。
炎を操る力を持ち、人目を憚り暮らしていた。そこにひょんなところから王子様と出会いあれよあれよという間にといった感じでお話が始まる。
一見すると気弱で流されやすい人物だが、なかなかに鋭い言葉を言ってみたりと魅力のあるキャラクター。
彼女が動き始めてからが物語の本番ではあるので、できればもう少し早めにその片鱗が見たかった感は否めない。
ダルシャン
相手役の男性。
序盤の印象としては王族としての勝手なところがありながら、芯の通った人物。
主人公を割と大切にしている辺りもとてもいい。
総評
評価点
独特の世界観を重厚な文章で描き出している点は確かな評価点。
インド風ファンタジーという物珍しさが、描写の細かさと綺麗さで上手く読者に伝わるような形になっている。
設定部分に関しても戦士や神官などインドのカーストを意識したようなものが見られ、世界観への没入に一役買っている。
他にもキャラクター同士の台詞回しのキレがよく、言葉をぶつけ合うような会話シーンなども見所の一つ。
問題点
描写が多いのは利点ではあるが、少々読んでいて重く感じることもある。
特に最序盤は主人公があまり自分の意志で行動せず、どうしても流されてしまっている感が強い。
なので話が本格的に動くまでは、ストーリーの芯を見失いがち。
この辺りは9話ぐらいから次第に解消されてきているので、ここからの展開に期待といったところではあるが。
最終評価 56点(Web小説としては充分な良作)
作者さんの文章力や描写力が光るインド風ファンタジー小説。
一風変わった世界観で繰り広げられる物語は、読んでいてとても新鮮な気持ちで楽しむことができる。
物語としては序盤を読んだ印象では王道の恋愛ファンタジーといった感じなので、世界観の独自性とは裏腹にその辺りのとっつきやすさも魅力の一つ。
重厚な世界観に浸りたい人に特にお勧めのファンタジー小説。
所要時間は『第12話 華の文様』までで凡そ30分ほど。