Web小説発掘記 その323 光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~ 作者 紫電様
本編URL
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前書き
この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『ちょっと休憩・その2』までを読んでの感想、レビューとなります。
あらすじ
アイルトン・セナという名前を聞いたことがあるだろうか。
かつて音速の貴公子と呼ばれ、3度のF1ワールドチャンピオンに輝いたセナ。
彼の死から時は流れ、約30年後。
ここ、日本にて彼を凌駕する才能の原石が生まれていた。
伝説のドライバーと同じ名前を冠した彼は、この先どんな道を歩むのか。
彼の走りと人生を描く、人間ドラマ。
ストーリーと見所
割と珍しい……気がするモータースポーツを題材にした小説。
あらすじにもある通り、有名なレーサーと同じ名前をした主人公が大学に入り、多くの人と関りレースを経験していくことで成長していく姿を描いた物語となっている。
まずこちらの小説なのだが、個人的にはかなりいい小説だと思っている。
題材がまず結構珍しく、物語の中で作者さんのモータースポーツへの愛情がかなり強く伝わってくるからだ。
どうしても専門性が高い趣味というかスポーツであるわけだから、専門用語なども頻出するのだが、それに対しての解説が丁寧でわかりやすい。
それだけでなくレースシーンなどはレースに必要な駆け引きなどが丁寧且つかなりの熱量を持って解説されており、かなり読み応えがあるものとなっている。
ストーリーはかなりわかりやすく、元々モータースポーツに憧れを持っていた主人公が大学に入り自動車部でその才能を開花させプロのレーサーを目指すというもの。
ライバルキャラクター達も登場したり、主人公を支える友人達など所謂スポコン的な物語の構成は読んでいてとても理解やすい。
などなど、基本的に物語はわかりやすさや熱量がありとてもいいものではあるのだが、どうしても惜しい点が多々見受けられる。
上に書いた通りレースシーンはかなり書き込まれており、白熱したものとなっている。
反面日常パートがまぁ……結構雑というか取り敢えず情報や台詞で進行していってしまっている感が否めない。
なので肝心のドラマパートや、恐らく盛り上がってほしい場面などに差し掛かっても唐突さや予定調和感が滲み出てしまっている。
そういった場面ごとの緩急……と呼ぶには少しちぐはぐになってしまっているなっている部分に惜しさと感じてしまう作品。
キャラクター
伏見瀬名
主人公。
レースゲームから大学進学を機に実車でのレースへと転向している。
この辺りは近代の要素を上手く利用していて非常に面白い。
レースに情熱を燃やす男ではあるのだが、心情があまり語られないのでどうにも人物像が把握し辛い。
何となくスポーツものの主人公像……といった風に想像はできるのだが。
総評
評価点
モータースポーツというテーマの珍しさや、それを真摯に書いている部分は素直に作品の魅力としてあげられる。
特にレースシーンは白熱した情景を上手く書きだしつつ、素人ではわかりにくい駆け引きなども丁寧に解説している。
物語の構成はしっかりとスポコン的な作劇をしており、楽しみ方がわかりやすい点も個人的には良き。
早くに主人公の目標が提示されているのもよかった。
問題点
日常部分というか、キャラクターの書き込みが足りない。
心情描写が少ないのも相まって、ドラマが始まっても読んでいてどうにも乗り切れないことが多い。
またキャラクター同士の掛け合いに関しては、気の置けない人同士のラフな会話ととるか、適当に見えてしまうかは人によって分かれるところだろう。
最終評価 53点(Web小説としては充分な良作)
モータースポーツへの愛情とこだわりが感じられる良作小説。
特にレースシーンはかなり出来がいいので、作品の肝となっている部分は盛り上がれるようにしっかりと書けている。
何よりも丁寧だが簡潔な説明など、知らない人にも楽しんでもらおうという気遣いが嬉しい作品。
題材が珍しいということもあって、是非一度読んでみてほしい。
所要時間は『ちょっと休憩・その2』までで凡そ50分ほど。