Web小説発掘記 その328 望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~ 作者 SIS様
本編URL
https://kakuyomu.jp/works/16818093088325797600
前書き
この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第十話 付け焼刃は火傷する』までを読んでの感想、レビューとなります。
あらすじ
脆弱たる人間。最弱より弱き者。
しかし彼らは、果敢に迷宮に挑み、強大なモンスターを打ち倒し、奥へと進んでいく。
たった一つしかない命を投げ打ち、先の見えない迷宮へと挑む者……冒険者。
ある最弱のモンスターは、そんな人間達に憧れた。
その知恵に、勇気に、死に挑み抗う姿勢を。ソレは輝かしく思ったのだ。
これはやがていつの日か、魔城の主と呼ばれる事になる、一匹の魔物の物語である。
ストーリーと見所
魔物が主人公系のダンジョンファンタジー小説。
ストーリーはダンジョンを舞台に、最弱の魔物である主人公の成長を描いたものとなっている。
所謂魔物系?主人公が人間ではなく、少しずつ成長していく話というのは有名作品などを見ても結構目にするものではあるのだが、最初から魔物というパターンは結構珍しいような気がする。
(この辺りは筆者の知見が乏しいだけかも知れないが)
今回読ませてもらったのは最序盤、分量的にはプロローグにあたる部分になるだろうか。
ダンジョンで最弱の触手、その中で何故か知恵のある個体である主人公が群れを飛び出し知識をつけていくという本当に触りの部分なのだが……。
これがかなり個性的で面白い。
何より先に語りたいところとしては、第一話の完成度の高さだろう。
ダンジョンを探索する冒険者に襲い掛かる脅威。それらを助ける謎の人物。
そして謎の人物が主人公……という一連の流れなのだがそれらを手早く印象的に、何よりも読者にこれから始まる物語の世界観を手早く明確に描写している。
そこから興味を引いておいての触手が主人公というインパクトはかなりのもので、この物語の特異性がその一部分だけで理解できるような作りとなっている。
個人的に特にユニークに感じたのが、最初に冒険者達に襲い掛かるモンスターだ。
あまり他の作品では見ないような生き物で、不気味且つわかりやすく脅威となる生き物を描くことでこれもまた作品の個性に一役買っているように思えた。
などなど、作品としてのユニークさや丁寧な物語の導入。
読者へのわかりやすい面白さの導線など、かなり強く光る部分を持った物語といっていいだろう。
キャラクター
ヌルス
物語の主人公。
元は群体(?)的な触手生物で、その中の一匹が意志を持ち集団から逃げ出したところから物語が始まる。
こういった作品であれば通常は敵を倒して経験値などを得て少しずつ強くなっていく……というのをよく見かけるのだが、どうやら彼は魔法を学び力をつけていく様子。
勿論、読んだのは最序盤だけなのでこれから経験値などの要素が出てくる可能性はなくはないが。
ただそれにしても、彼自身の人間に対して好意や憧れのような感情を抱いている性格といい、この作品に相応しい個性的なキャラクターを序盤でしっかりと描くことができている人物。
総評
評価点
上でも散々言っているが、何はともあれ作品全体のユニークさはかなりのもの。
上手く作者さんのやりたい個性的な物語が、読者が楽しみやすい形でわかりやすく出力されている。
最序盤しか読んでいないものの、その部分だけで物語へ引き込む力は非常に強いように感じた。
問題点
こちらも最序盤ということもあって、読んだ時点では問題という問題は発見できなかった。
敢えて言うなら少々説明が多い部分があったかも知れないが、問題というにはあまりにも些細で演出の一つといったところだろう。
最終評価 58点(Web小説としては充分な良作)
個性が上手く面白さに昇華されている良作ダンジョンファンタジー小説。
文章や設定、物語の展開などがかなり作り込まれており、序盤を読んだだけでも作品の魅力が伝わってくるような構成は実にお見事。
まだ最序盤なのでこれからどうなるかは正直わからないが、現時点ではかなりの良作小説と判断していいだろう。
人外系主人公(この言い方で正しいのかな?)やダンジョン系の小説が好きな人は、是非読んでみていただきたい。