Web小説発掘記 その312 My Angel -マイ・エンジェル- 作者 甲斐てつろう様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16818093084596343627

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。

あらすじ

いくら頑張っても認めてもらえず全てを投げ出して現実逃避の旅に出る事を選んだ丈二。
道中で同じく現実に嫌気がさした麗奈と共に行く事になるが彼女は親に無断で家出をした未成年だった。
世間では誘拐事件と言われてしまい現実逃避の旅は過酷となって行く。
旅の果てに彼らの導く答えとは。

ストーリーと見所

色々と訳ありでうだつの上がらない主人公が、真面目に生きてる友人から説教をされ、その場の勢いで車を盗むところから始まるロックなロードムービー風小説。

車を盗んだ先で出会ったこれまた訳ありな女子高生と一緒に逃避行をしながら心を通わせつつ……といった感じのお話。

特筆して語りたい部分といえば、なんといっても物語の入りだろう。
最初はデキる男風に現れた主人公の化けの皮がすぐに剥がれていき……という短くもインパクトのある流れは、読んでいて物語に対する期待感を充分に盛り上げてくれる。
かなり理想に近い物語の入り方なのではないだろうか。

なんと言うか、かなり映画っぽい物語の造りをしており、描写の関係なのか情景が映像として頭に浮かびやすい。
そこから二人は会話をしながらお互いを理解し合っていき、最後は主人公がそうなってしまった元凶ともいえる彼の母親と対峙する。

この辺りのシーンは個人的にはかなり秀逸で、母親と主人公の会話にはなかなか感じ入るものがあったりする。
その後の展開で主人公が母親に言葉を掛ける場面も、個人的にはかなりよかった。

物語の入りと、物語の終わりにかけてはかなり出来がいい小説といっていい。
反面、その途中は若干薄味感がある。
メインとなる二人の過去などお話としては色々と用意されてはいるのだが、基本的には喋っているのがメインとなるのでちょっと物足りなさがあった。

主人公達の立場は褒められたものではなく、その原因となった人達の多くは悪人ではなく、物語に登場する人物の大半が善人であるという部分も個人的には評価したいところ。

キャラクター

岬 丈二

物語の主人公。
ロックが好き。

盗んだ車で走り出す。
犯罪者ではあるのだが、彼の心理描写的にどうにも憎めずむしろ感情移入しやすさがある。
基本的には駄目な奴だが、憎めないいい塩梅のキャラクターをしている。

渚 麗奈

物語のヒロイン。
女子高生。

医者の娘で、両親からの過度な期待から逃げ出したところを主人公と合流する。
彼の話を聞いてあげたり、一緒にいてあげることで主人公に変化をもたらす。

物語としてはそれでいいのだが、若干便利でいい子過ぎる感が否めない。

総評

評価点

文章は非常に読みやすい。
この辺りはストーリーがそれほど長くないことと相まって、割とするっと一瞬で楽しむことができる。

お話のジャンル的にも長々とやられるよりは、もうちょっと見たい……ぐらいのところで終わってくれているのでとても良き。

上にも書いた通り物語の入りも素晴らしく、終盤のシーンも上手くまとまっているのでそこも高評価。

問題点

中盤に関しては若干薄味感が否めない。
エピソード自体はあるのだが、どうにも淡々としているというかなんというか……。

この辺りはもう少し装飾された表現などで、強い印象を与えてくれるようだと個人的にはもっと楽しめたと思う。

最終評価 56点(Web小説としては充分な良作)

犯罪から始まるものの、爽やかな終わりを迎えてくれるのが魅力的な中編小説。
文章的にもスッキリ読みやすく、ストーリーの読後感もとてもいい。

読みやすい文章と適度な長さで終えてくれるのも、作品の面白さに繋がっている部分だろう。
爽やかな映画のような物語を楽しみたい人にお勧めの小説。

所要時間は凡そ30分ほど。


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