ブレット・トレイン【映画感想】
この記事に興味を持って頂きありがとうございます。まずネタバレなしの感想はこちらです。
■どんな映画?
ブラット・ピット主演、監督をデビット・リーチが務め、伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」をハリウッド実写化。
舞台も日本の新幹線の中で、ケレン味たっぷりの日本描写と、伊坂イズムな個性たっぷりの登場人物が所狭しと大活躍する。
■良いところ
突き抜けた日本描写はケレン味たっぷりな一方で、日本に対する理解度は意外と高い。
アクションは鋭く、登場人物はキャラも立っていて、ストーリーも面白い。
■良くないところ
見ていて馬鹿馬鹿しくなることはある。
ご都合主義な展開と、まだるっこしい台詞回しは肌に合わない人もいるかも。
■あらすじ
最悪に運が悪い殺し屋の男「レディバグ」は復帰後初の仕事として、体調不良になった同僚に代わり新幹線の中にあるアタッシュケースを奪い次の駅で降りる。という単純な依頼を引き受ける。
首尾よくケースを発見するレディバグだったが、それは別の殺し屋が助け出した人質と一緒に日本の裏社会を牛耳る大物「白い死神」へ渡すはずの荷物だった。さらにその人質が何者かに殺され、白い死神を狙う少女が暗躍を始め、事態は混迷を極めていく。
面倒ごとから抜け出したいのに、何故かいつも邪魔が入って列車から降りることが出来ないレディバグ。そしてそれぞれの思惑を秘めた殺し屋達を満載に、トウキョウ発キョウト行きの弾丸列車が走り出す。
■感想など
最初に、原作である「マリアビートル」は鑑賞時点で未読。ただ、同著者の「陽気なギャングが地球を回す」は何度も読み返して、響野さん夫妻がお気に入り。一応映画版も観た、あんまりその話はしたくないけど…
なので伊坂幸太郎イズムというか、あの独特の空気感は少し分かっているつもりなのだけど、そう言われてみるとあれはハリウッド映画的というか、邦画として真面目にロケをして忠実に日本を舞台に作るよりも映える雰囲気があるのかもしれない。
現代日本をベースにしたファンタジーというか、少し異質で独特な世界観であることを念頭に置いておくと、この映画に対する納得感は増すと思う。なぜそんな話を?と言われれば、そりゃあなんと言っても本作の舞台になっているNIPPONが
ケレン味MAX!
胡散臭さMAX!
胡乱さMAX!!
な激ヤバな国だから!
まず始まりからして、取ってつけたようなニホンゴのネオン看板が煌めく街路を通り、全く排水がされていない水溜りだらけの道路を抜け駅に着くと、改札は空港のターミナルのような雰囲気だし、東京オリンピックのマスコットキャラクターをチャイナコピーしたようなキモかわいいキグルミがそのへんをほっつき歩いてる。
そして改札を抜けた先に拳銃だの瓶詰めの睡眠薬が入ったコインロッカーが設置されていて、主人公はそこから仕事道具を取り出し、各駅に一分しか停車しない列車「ゆかり号」に乗り込むわけである。銃は捨て置き、ロッカーは開けっ放しで。
とまぁもう既にツッコミどころだらけなんだよね、コインロッカーが改札の向こうにあったら使いにくいわ!
ちなみにこのゆかり号は、見た目は完全に新幹線でエコノミーからファーストクラス、バーラウンジまである上に車掌自らがチケットを確認するという列車で、社内のトイレはウォシュレットどころか温風まで出てくる至れり尽くせり仕様。
加えて言うと、東京から発車して京都までの間に夜が明けているので、公開された9月頃の場合日の出が午前5時半頃として、だいたい午前3時半頃に発車しているわけである。騒音?知るか!
とまぁ兎にも角にも無茶苦茶な世界観なのだけど、この映画はだいたい2時間の映画で、品川から京都までの時間も新幹線で2時間らしいので、作中の時間と乗車時間がリンクしていたりもする。
更に言うと、ネオン看板が煌めく夜の街や、多湿で雨が降るとビチャビチャになる道路だとか、いつだってやたらと混んでる駅、ゆるキャラ的なマスコット、駅の中にあるコインロッカー、ダイヤ厳守で融通が利かない列車、わざわざひらがなで書かれた新幹線の名前などなど、一つの要素として見たときに「確かに日本ってこんな感じだな」という謎の納得感が存在するのが面白い。
多分、制作陣は日本の事をしっかりとリサーチして、した上であえて誇張して映画化してるんだろうね。(あと公式サイトを見て知ったのだけど、新幹線の名前の由来は「縁」だそうで、10人の殺し屋の奇妙な縁“えん”を意識して付けられたものらしい)
映画を作る上で、比較的忠実に日本を描くのと、文化や雰囲気を把握した上で要素を抜き出し象徴的に描く、という2つの選択肢があるとして、2時間の枠で効果的に表現するのに都合がいいのは後者なんだろう。
新幹線が夜行で走るというのも、時間経過による風景の変遷を描く為と考えれば理解もできる。新幹線の中、という屋内がメインな舞台になるので、その外側を意識して描かないとせっかく日本を舞台にした意味が薄れてしまうと考えると納得できなくもない。
終わってから振り返ってみると、NINJAやYAKUZAが蔓延ってそうな胡乱な夜の都市から、霧がかった田舎町を通り、朝焼けが差す純日本風な街(それでもちょっと変だけど)へと、終点に向かうごとに様相を変える世界に少し愛おしさというか、親しみを覚えてしまう。
様々な国の人に「お、これはジャパンが舞台なんだな」と瞬時に分かってもらわないと、その後に続くストーリーに入り込めないから、これは結構大事なことだと思う。もしかしたらメキシコの人たちも「いや、こんなあからさまなやついないよ!」って思ってるかもしれないし。
そして肝心のストーリーに関してもかなり面白かった。ブラット・ピット演じるレディバグを始め、何人も殺し屋が出てくるわけなんだけど、どいつもこいつもキャラが濃ゆい。
白人と黒人のコンビで双子の殺し屋である「蜜柑」と「檸檬」なんかは特にそうで、蜜柑は気取った洒落人だが残酷で腕っぷしが強く、少し抜けてる相棒を馬鹿にしてるが本物の絆を持ってる。そして檸檬は人生のすべてを「きかんしゃトーマス」から学んだと豪語する自称「人を読むプロ」で、いつもトーマスのシールを持ち歩いている。
こんな「…ウソだろ!?」みたいな連中がわらわらと出てきては殺し合うのだけど、一方で人質を殺したのは誰なのか。そもそもこいつらが乗り合わせたのは本当に偶然なのか。意図したものだとすれば誰が、なんのために?という根底にある「謎」と、各キャラクターの個性、軽妙なやり取り、迫力たっぷりな殺し屋同士の立ち回りのおかけで、ほぼ全編飽きずに見ていられた。
ただ、少し強引だったり、説明が不足している場面もあるにはある。
例えばレディバグは銃を嫌っていて、事態がそれを必要にするほど危険度を増してもなお、敵から奪った銃を分解して捨てるような男なのだけど、一方で殺し自体は別に嫌悪しているわけでもない。なんだかちょっとチグハグな気がする。
一応、直前の仕事で2発も撃たれたということは言われているからそのせいで銃が嫌いになったのかもしれないけど、結局具体的な説明されていないのでよく分からない。
あと、メキシコカルテルの殺し屋で、愛する人を皆殺しにされた報復のために列車に乗り込んだ「ウルフ」というキャラクターも、レディバグを襲った理由が分からない。
その現場にレディバグがいたのは確かだから、それを思い出して、というのは分からなくもないのだけど、その後の描写で、ウルフが実行犯の写真も持っている、つまり、仇の顔や性別を知っている事が分かるので、ちょっぴり理由としては弱い気がする。(本来レディバグは列車に乗っていないはずだし、むしろレディバグの行動がなければウルフも死んでいたはず)
その他にもちょっとご都合主義というか、説明不足な部分が多い。元が小説なので、どうしても情報量に差が出てしまうから仕方がないのだけど、そういった細かな不満、なんだかんだ言っても無茶苦茶な日本描写、濃すぎるキャラクターが続くので、終盤になると少し胃もたれしてしまう。
それを見越して、終盤はそれまで裏方にいたキャラクターを表舞台に上げたり、アクションシーンを増やしたりもしているので、基本的には上記の通り飽きずに見ていられたのだけど、人によって合う合わないが激しそうではある。
■まとめ
日本の小説をハリウッド実写化した本作は、強烈な日本描写のインパクトが一見強いのですが、誇張というより日本の文化や雰囲気を上手く汲み上げ象徴的に描いているという印象で、計算の上でそれが行われていることが分かります。
実際に物語が進みだすと、個性豊かなキャラクター、テンポよく軽妙な会話とアクション、そして幾つかの謎のおかげで退屈しませんし、知る限り、伊坂幸太郎作品の良い所をしっかりと受け継いでいるように感じました。
一方でアイコニックな日本描写や濃すぎるキャラクターたちはアルコールのように強烈で、ややご都合主義な展開や、小説と比較してどうしても説明が不足してしまうこともあり、ずっと見ていると胃もたれ気味になってしまうかもしれません。
ただ、それを見越すように展開に一捻りを加えたり、おそらくこのジャンルのファンなら驚くようなカメオもあり、と飽きさせない工夫もよく凝らしてありました。合う合わないはあると思いますが、このケレン味たっぷりな「NIPPON」を体験をできるのは日本人だけと考えると貴重な一作だと思います。2022年に見た映画の中でもかなりお気に入りの一作です。
■余談
色々と笑わせてもらった本作だけど、ホワイトデスの奥さんを殺した殺し屋こと、病欠のカーバーがヘルメットを脱ぐところで、至極真面目な顔して出てくるのがよりにもよってライアン・レイノルズっていうのが一番笑いましたね。「デッド・プール2」でブラット・ピットがカメオ出演した事のお返しだったそうで、一言も喋らず退場するところまで一緒というのはなんとも粋というか。
作中で語られる人物像がウェイド・ウィルソンと全く逆なのもちょっとおもしろいなと思いました。しかし偶然がなければ白い死神を殺せていた。と考えると、品性はともかく腕は確かだったわけで、レディバグの代わりに乗り込んでいたらそれはそれでなんとかなりそうな気がしますね。まぁ白い死神からの報復を警戒して日本での仕事を避けたっていうのが病欠の真相なのかもしれませんが。
もう一つ検討されていたカメオ出演に、レディバグのメンタルアドバイザーにキアヌ・リーブス。というこれまた凄まじいものがあったらしいです。このジャンルにおけるキアヌといえば「ジョン・ウィック」だけど、ジョンはお世辞にもメンタル面で人のことを言える立場じゃないのに、素知らぬ顔で禅の何たるかを説くというのもまた面白そうです。
これを書き終えて、Wikipediaや公式サイトを見に行ったんですが、公式サイトのネタバレページが凄く濃い内容でした(今もあるかはちょっと不明)。上に書いているウルフがレディバグを襲った理由についても触れられていて、ホーネットが実行犯であることを認識しつつ、やっぱり結婚式にいたことを思い出したから襲いかかったのだとか。まぁ、一人だけ生き残った理由を作ったのがレディバグだから、それを恨んでっていうのもありっちゃありですかね。
最後に今回の見出し画像について…なんか物凄く苦労しました…どうしても、どおおおおおおしてもネオン風のなんちゃってニッポンを描きたくて、色々と試行錯誤を重ねました。
今回はいらすとやの素材をInkspaceで加工してCanvaに貼ってレイアウト調整をしています。とまぁ文字にするとそれだけなんですが、実際には丸一日くらいかかったのかな。きっともっとスマートにやる方法もあるんだろうけど、いい勉強になりました。自分では上手くネオン風になってると思うんですがどうでしょう?
ここまでお読み頂きありがとうございました。また機会があればよろしくお願いしますね。
■おまけ