「頭一つ抜け出す独自性」ストーリーにアプローチしたナラティブマーケティングと空想と現実を結びつけるSFプロトタイピング
そもそも、日常生活の中で
「運」という言葉を
用いることが多いのは
どのような状況でしょうか。
おそらくは出来事が起こった後に
その原因を説明しようとする
場合ではないかと考えられます。
このような出来事の原因について
人がどのように考えるのかという
過程を検討しようとするのが
原因帰属の研究です。
原因帰属の研究は
アメリカの社会心理学者
「フリッツ・ハイダー」氏の
研究に端を発しています。
「フリッツ・ハイダー」氏は
私たちがごく日常的に行っている
判断や推論の過程に注目し、
これを探究していく自らの
方法論を「素朴心理学」と
呼びました。
彼は「できる」こととは何かを
説明しようとしています。
何かが「できる」ためには、
それに応じた能力が備わっている
と見なしたり、課題を達成しようと
する意図や努力のありなしを
仮定したりしていますが、
「できる」こととは
人の側にある要因の影響が
環境の側にある要因よりも
上まわっていることを
指しています。
自然の観点から考えると
すべてのものに意味や価値は
ありませんし、何かに意味や
価値を見出そうとするのは
人間だけですが、
未来の自分について
語る言葉を変えることができたら、
それまでとは違う決断を
下せるようになり、
まったく新しい未来を実現する
ことが可能になるのでは
ないでしょうか。
近年、ストーリーの力は
「ナラティブ」と呼ばれ、
重要視されています。
「ナラティブ」とは直訳すると
「物語」という意味ですが
もともと文学研究の領域で
発展した理論でした。
今では広く臨床心理や医療に限らず
教育・ビジネスの分野で
使われており、
私たち一人ひとりが
主体となって語る物語です。
1960年代頃から
主にフランスの文芸・文学理論上で
ストーリーとは異なる物語を示す
概念として登場しました。
現在、ビジネスシーンでは
従来のストーリーではなく、
「ナラティブ」を活用した
マーケティング手法が
ナラティブマーケティングと呼ばれ、
注目されています。
ただ、日本では
ナラティブもストーリーも
「物語」と訳されるため、
ストーリーブランディングと
混同しがちですが、
海外ではこの2つの言葉には
明確な違いがあります。
たとえば、
「ストーリー」は
物語の道筋や筋書、流れのことを指し、
登場人物の中に主人公がいて
その主人公が中心となり
スタートからゴールに向かって
起承転結が展開されるのが特徴です。
一方、
「ナラティブ」は語り手である
自分自身が主人公となり、話が
展開されていき、その物語は完結せず、
語り手によって変化し続けることが
特徴です。
つまり、この2つの「物語」を
主軸としたマーケティング手法は、
「ストーリー」→主人公は企業。
「物語の内容・筋書き」のこと、
「ナラティブ」→ 顧客一人ひとりを主役。
「語り手が作る物語」
とした違いです。
物があふれ、流通経路が
多岐に渡ってきた今だからこそ、
「独自性」がより求められる
時代になってきました。
なぜなら、独自性の本質は、
この「ストーリー」にあるからです。
良いものがあふれると
「なぜそのサービスができたのか」
「どんな想いでこの商品は作られたのか」
という「感情」で物を購入する人が
増えてきています。
その商品にしかない、
「らしさ」や「独自性」が加わり、
差別化に繋がります。
大きく成功していった先駆者の中には、
必ずと言っていいほど伝説となるような
「ストーリー」があるものです。
自宅ガレージからスタートした
スティーブ・ジョブス氏は有名です。
ストーリーブランディングは
フィクションではない、
個人・商品・店舗・企業に
まつわるエピソードや
ビジョンであるストーリーを
消費者や取引先、ステークホルダー、
社員などに対して発信することで
想像力を刺激し共感を呼ぶことを促す
ブランディングです。
商品ができるまでの過程や
込めた想いなどを企業全体で
伝えます。
一方、
ナラティブマーケティングは
顧客自身を主役とした物語に
アプローチする企業と顧客の
コミュニケーション方法です。
企業側が顧客に対して
「顧客が何を求めているか」を分析し、
複数の選択肢や体験を提供することで
顧客自身が主役となって
自らの判断で商品・サービスを選ぶ
というのが一般的です。
その企業や商品、サービスと
接した顧客自身が創造する物語に
アプローチすることで、今までは
企業全体で発信するのみであった
一方通行のコミュニケーションを
顧客一人ひとりを主役にした
コミュニケーションに置き換えることで
共感を増幅させることができ、
”この商品を取り入れることで
どんな未来の可能性が広がるのか”
その商品を購入した後の
未来の物語へアプローチします。
たとえば、
味の素冷凍食品(株)では、
冷凍餃子は「手抜き」である
という社会的なネガティブ認識を
「手間抜き」することで
有意義な時間を生み出す
ソリューションとして
ポジティブに変容させています。
自動車メーカーのSUBARUでは
「Your story with」という
視聴者が共感しやすい
ストーリー性の高いCMを
展開しています。
”あなたと車にはどのような物語が
ありますか”という語りを
CMに入れることで、
視聴者に自分の車に関する物語を
イメージしてもらうもの
となっています。
現実の捉え方は
育った環境や職業、立場によって
変わってきますし、物ごとに対する
私たち個々人の解釈は、
主観的体験にそれまでの
バックグラウンドなどが
反映されることからも、
「現実は社会的に構成され、
語ることで世界がつくられる」
という考えからナラティブは
生まれています。
それぞれの「個人」の認識の中で
世界のあり方そのものを規定し、
社会の中でどう行動することが
望ましいのかという価値そのものを
決めているわけですが、
人々が創り上げ、
人々の理解をしばる物語で
あるからこそ、
また自分たちで考え、
自分たちが考える中で
別な「ナラティブ」を生み出して
いくこともできます。
臨床心理学の領域では、
思い込みを解除する
「オルタナティブ」な物語を
対話の中で探ろうとします。
「ナラティブ」とは、
まさにそうした実践そのものだと
いえると思います。
表現は少し難解ですが、
人々の理解をしばる物語=
ドミナント(支配的)なナラティブ
といわれるものは、
ストーリーの力を応用すれば、
新しい「ナラティブ」で
書き換えていくことができます。
なぜなら「未来」は「今」にとって
常にフィクションだからです。
過去にとらわれることなく、
新しい発想でビジネスを
生み出す手法として
「SF」に注目が集まっています。
フィクション、特に、
サイエンスフィクション(SF)の
もたらす想像力は、今や私たちの
現代社会の重要な構成要素であり、
将来像を駆動させる要因となっていて
多くのSF作家は、テクノロジー、
科学、遺伝子工学、医学、
ロケット工学などの知識を持ち、
それをベースとして考えうる
未来を創造しています。
「SF」という文学ジャンルの持つ力を借りて
新しい価値観や目標、今までになかった
製品やサービスを考える手法は
「SFプロトタイピング」と呼ばれており、
Intel社の研究機関の未来学者
ブライアン・デビッド・ジョンソン氏
によって提唱され、近年日本でも
注目が集まっています。
わかりやすくいうと
「SFプロトタイピング」とは、
企業が持つ、実現可能なテクノロジー
を作家らと共有し、それに基づいた
物語を作ってもらうということです。
SF作家の想像力により、近い将来に
実現可能なテクノロジーが社会の中で
どのような役割を果たし、
人間の暮らしにどのような影響を
与えるのかなどを実証していくのが
目的です。
飛躍や自由な発想が積極的に許容され、
その点が、既知のデータをもとにした
シミュレーションや未来予測とは
異なっています。
プロトタイプ(試作)が示すように、
漫画「ドラえもん」や映画、
SF小説やゲームなどの形で
「もしもの世界」を想像することで
未来の展開を考えていこう
というものです。
(実際に、現在社会に浸透している
プロダクトやサービス、
概念の中には過去のSF作品から
影響を受けてつくられたものも
数多くあるそうです。)
SF小説や映画などのストーリーで
未来の世界を描くことにより、
企業が新製品や新事業を展開する際に
「空想と現実」「技術と人間」を
結び付けながら、小説などの形にして
仮説を立て、「今あるもの」から
「今ないもの」へ発想を飛躍させ、
科学技術が社会へもたらす
影響や変化を考え、
「今、私たちが何をしていけるのか」
「今、これから何をすべきか」
を考察します。
特定分野における未来予測から
インスピレーションを得て
現在に活かすことを得意としています。
ジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、
スティーブ・ジョブズなどは
SFのファンであると同時にSF小説から
数多くのインスピレーションを
得たといいます。
メディアリテラシーが
(情報を主体的に活用する能力)
求められる時代です。
情報の「量」という面において
現代では誰もが平等ですが、
そこから頭一つ抜け出す独自性は
入手する情報の「質」を高めること、
つまり、玉石混交の情報から
有益なものをより分け、
自分の糧とすることが肝心です。
そのとき、正確さが求められるのは
当然でしょう。
自分の理想の未来をつくるには、
正しいときに正しい場所に
いなければなりませんし、
目標を実現したければ、
間違った場所を離れ、その物語を
始めるための最適な場所にいるように
することから始まるもの。
望む未来が最も実現しそうな場所を考え、
その場所に行くために必要な行動をとる
ようにするということです。
自分に対して語る未来の物語を
変えることができれば、
自分のネットワークや行動、
出会う人、決断を変えられるように
なると思います。
今わかっている既知の情報から
想像できる未来ではプレーヤーも多く、
突出したゲームチェンジは難しい、
そのような状況下、斜め上の未来を
予測する手法の一つが
「SFプロトタイピング」です。
この考え方を使って
ビジネスに応用することで
無難な商品企画、企画開発ではなく、
世の中を変えるような技術や商品を
生み出すことができるのではないか
という考えです。
データを駆使する
現代の未来学者
「エイミー・ウェブ」氏は
著書『シグナル:
未来学者が教える予測の技術』の中で
”未来学者(フューチャリスト)の仕事は、
予言を語ることではなく、
データを集め、台頭しつつある
トレンドを見つけ、戦略を考え、
未来におけるさまざまなシナリオの
発生確率を計算することだ。
こうした予測は、
組織が破壊的変化に直面する中でも
リーダー、チーム、そして個人が
「質」の高い情報に基づいて
判断を下す一助として使われる”
”未来洞察を武器に時代の流れを捉え、
事業を成長させていくには、
経営陣(者)は未来学者のように
物事を見ながら、未来を好機に
変えるよう予測ツールを使いこなして
いかなければならない、
次の時代のシグナルやトレンドを
読み取り、自組織の未来の姿を
深く理解することがこれまで以上に
重要になっているため、
経営者はみな、ビジネススキルとともに
未来学者の素養を持つ必要がある”
つまり、
「当たる当たらない」よりも
「多様な可能性について考える」
のが未来学のポイントです。
また、
”「未来はある日突然、完璧な形で
立ち現れるわけではない」
「少しずつ、姿を見せる。
最初は社会の端っこに、
ぽつぽつと出現する。初めから
主流であることは決してない。」
しかし、周辺にあったシグナルは
徐々に方向性を示すトレンドに収斂し、
「何らかの人間のニーズと
それを実現する新たなテクノロジー
を組み合わせ、未来を形づくる力となる」”
と「エイミー・ウェブ」氏はいいます。
「フューチャリスト」というのは
未来を予見するのではなく、
あるべき未来に向けて企業が
進んでいくための道筋をつくること。
現在の技術の10年後の姿を予測し、
それをポジティブとネガティブの
両方の見方からモデル化する
というのが主な仕事です。
理想の未来の物語をつくったら、
次の課題はその物語を実現するための
力を見つけること。
力は、
「人」「ツール」「専門家」の
3つのカテゴリーに分けられます。
①人: 人が未来を作ると考え、
よいチームをつくるようにする。
②ツール:前に進むためのリソースを集める。
(本を読む。勉強会に参加する)
(テクノロジーを利用する)
③専門家:あなたが目指す未来を
すでに実現した人を探す。
サポートしてくれるプロがいれば、
実現のスピードが早まる。
米国キャリア心理学会で
もっとも有名なキャリアの理論家
「サビカス」のキャリア構築理論は
21世紀のキャリア構築理論と言われ、
変化の激しい今を自分らしく
生きていくために重要な考え方を
提唱しています。
特にグローバル化が進む
変化の激しいキャリア環境に
適合するように、キャリア発達理論を
アップデートするにあたって
構成主義、構築主義、文脈主義などの
考え方を取り入れ、
意味や解釈、物語といった
概念を重視しています。
現在、職業や仕事の側に
外的・客観的な意味を求めても
それが適切に与えられない場合が
多くなっているため、
人は自らの人生を一連の
ストーリーとして解釈し、
自分の中に内的に意味や価値を認め、
そこに安定性を見出す必要があります。
したがって、キャリア構築理論は、
最も端的には、職業行動に
「意味」を挿むことで
キャリアを作り上げるという
主張と説明されています。
私たちが変わりたいという
気持ちを持ったとき、
何らかの答えを求めて
動機づけられた状態の中で生活し、
さまざまな出来事に
出会うことになります。
そして
変わりたいと思うことで
変わるきっかけになる出来事を
無意識に探し求めるような
状態におかれ、
「変わるための準備状態」に
自らを置くことになります。
その出来事を中心にして
一連のプロセスを経て
変わったという転機の物語を
作ります。
その結果、自分が変わりたいと
思ったことこそが変わるという
ことになると思います。
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