見出し画像

人のパーソナリティと環境(職業)とのマッチング、自分を知ることでキャリアを理解する


生まれや身分による差がなくなり
明治に改元して間もない頃、
皆が対等になりましたが、
大変革の後、
“これからどう生きればいいのか”
と戸惑い、不安を感じた状況の中、
進むべき方向を明確な言葉で
指し示した『学問のすゝめ』は
当時、大ベストセラーとなりました。


その福沢諭吉の著書
『学問のすゝめ』の書き出しは
「天は人の上に人を造らず」と
述べたことで有名です。
「天は人の上に人を造らず、
人の下に人を造らず」のところだけ
よく引用されますが、
正しい全文は
「天は人の上に人を造らず、
人の下に人を造らず、と言へり」
つまり、”言われている”です。


<本文抜粋>
「天は人の上に人を造らず、
人の下に人を造らず、と言へり」

「されども今、
廣く此人間世界を見渡すに、
かしこき人あり、おろかなる人あり、
貧しきもあり、富めるもあり、
貴人もあり、下人もありて、
其有樣雲と泥との相違あるに
似たるはなんぞや。
人は生まれながらにして
貴賤賓富の別なし。
ただ学問を勧めて物事を
よく知る者は貴人となり富人となり、
無学なる者は貧人となり下人となるなり」


<現代語訳>
”天は人の上に人を造らず、
人の下に人を造らずと言われている。

しかし、
この人間の世界を見渡してみると、
賢い人も愚かな人もいる。
貧しい人も、金持ちもいる。
また、社会的地位の高い人も、
低い人もいる。こうした 
雲泥の差と呼ぶべき違いは
どうしてできるのだろうか。
人は生まれた時は平等である。
学問をして、物事を知る人は偉く、
お金持ちになる。
無学の者は、卑しくて、貧乏になる。
生まれたときは皆平等かもしれないが、
その後は学問によって人生がわかれる”


福沢諭吉は単に
「人は生まれながらにして
皆平等である」ことを
伝えようとしたのではなく、
人間はもともと平等だが、
学問を勉強するかしないかで
人生が変わる。 
また、ただ勉強すれば
いいわけではなく、生活に役立つ
「実学」を一生懸命勉強すべきである。
すなわち、
人の地位や財産はいかに
学んだかで決まるという
むしろ、厳しい競争原理のほうを
説いたのです。


この言葉は
人間の平等性について
説いたものであり、現在の
慶應義塾大学の教育理念にも
なっていますが、
その教えは、そのまま現代の
私たちにも通じ、学ぶことが
たくさんあります。


一方で、福沢諭吉は
このようにも語っています。
「世の中にむずかしき仕事もあり、
やすき仕事もあり。
そのむずかしき仕事をする者を
身分重き人と名づけ、やすき仕事を
する者を身分軽き人という」

「やすき仕事」というのは
誰でもできる代替可能な仕事であり、
現代でいえば、早晩(そうばん)
AIに取って変わられるような
仕事といえます。
これに対して「むずかしき仕事」は
学問を修めた人だけができる
難しい仕事を指しています。


つまり、社会的地位が高く、
重要であれば、自然とその家も富み、
下のものから見れば到底
手の届かない存在に見える。
しかし、そのもともとを見ていくと、
ただその人に学問の力が
あるかないかによって、
そうした違いができただけであり、 
天が生まれつき定めた違いではない。 


西洋のことわざにも
「天は富貴を人に与えるのではなく、
人の働きに与える」 という言葉が
あるように、
福沢諭吉の勧める「学問」とは、
世の役に立つ西洋の実学を
指しています。


すでにアメリカなどでは
弁護士業務を補助する
パラリーガルの仕事の多くを
AI弁護士が担うように
なっていますが、
その中でコミュニケーションが
重視される仕事や
マネジメントを要する仕事が
生き残る時代になっていくと
考えられます。


年功序列や終身雇用が崩壊し、
流動的で不確定な社会において
一人ひとりのキャリア自律の
重要性が叫ばれるようになりました。
人生の職業を見つけていくという課題から、
人生の職業を創造する方法、
自律的にキャリア形成に
取り組んでいく必要があります。


長いキャリア発達の過程で
職業を選択して
社会に参入するにあたり、
「自分とはどのような
人間であるのか」
「職業は何をどのように
選べばよいのか」
というように、誰もが
自己とそれに照らし合わせた
職業の探索が求められます。


自分に適している仕事に
就くことができれば、
充実した職業生活を
送ることができますが、
天職に巡り合うために
転職を試みる場合もあります。


ロンドン大学の研究では、
多くの人が天職までに
紆余曲折を経ていることが
わかっています。
たとえば、
アナウンサーだったが
弁護士になった、
役者だったが、学者になったなど
そこに至る道はさまざまですが、
キャリアを重ねた結果、
天職にめぐりあう確率が
上がるようです。


人の能力には、
潜在的能力としての
「敵性能(Aptitude)」と
学習により身につく
「技量(Proficiency)」が
あるように


天職という言葉には、
その人の才能にあった職業との
意味だけでなく、
能力の2つの意味、
「現時点」と「将来の側面」を
想定しているということです。

「自分の性質に合った職業」
「天から授かった仕事」を表すときに
用いられ、 給与や待遇、
周りの意見などに関わらず、
心から充実感が得られ、
生涯続けたいと思える仕事のこと。
自分の人生にとって、
いかに深く仕事の意義を位置づけ、
そして統合することができるか、
自分自身を磨いていくことが
大切(鍵)だと思っています。


いわば、
「できること」だけでなく
「したいこと」の観点からも
職業への向き不向きについて
考える、その関心は職業適性
にあると思います。


なぜなら、
人には得意、不得意、
向き、不向きがあるため、
本来持っている能力に気づき、
それを強みにしたやり方や
自分の性格や能力に合った
仕事探しをすることが
それを使いこなしていくための
天職(マッチング)になるからです。


科学的な研究では
「好きを仕事にしてはいけない」
ということがわかっていますし、
やりたいことも見つからないのが
普通です。
「やっているうちに好きになる」
ほうが幸福度が高くなることを
示しているのです。


幸福度の高い人ほど生産性が高く、
お金も稼ぐ傾向にあることも
わかっています。
(創造性は3倍、 生産性は31%、 
売り上げは37%も高い傾向にある)
つまり、「儲かるから幸せ」ではなく、
「幸福だからこそ儲かる、
生産性も高まるということです。


人はこの人間ひとりひとり、
違った特性を持っているという
当たり前に事実を忘れがちです。
本当はすばらしい力を持っている、
でも、その力の存在もわからず、
仕事において損をしている、
という人は大勢いるものです。


このように人間にある心理面の
個人差を「パーソナリティ」
と呼びますが、
心理学では「心理検査」という
特別な方法論を用いて
自分(相手)のパーソナリティを
詳細に理解しようと試みます。


大学などで
専門的に学ぶ「心理検査」とは
個人差を測定するものであり、
回答から現在の情報を分析して
未来を予測しようとする試みです。
そのため、結果の安定性を示す
指標の一つである信頼性と、
ある特性を正確に測定しているかを
示す指標の一つである妥当性が
検証されているものが多いです。


もちろん、
パーソナリティを適切に
理解するためには、
一つの心理検査から判断するのではなく、
複数の心理検査を用いて
パーソナリティを多層的、多面的に
理解しようとする態度が
必要になりますが、
ただ、パーソナリティは
安定性がみられる一方で、
環境(経験)や主体的努力によって
変化するとされています。


アメリカの経営学者
キャリア研究者、心理学者の
「ドナルド・E・スーパー」氏は、
『キャリア』という言葉について
人々が生涯にわたって追求し、
社会的に占めている
地位・業務・職務の系列として、
一時期の職業活動だけに限定しない、
人生の生き方や人間関係、
社会的役割であると考えました。


「職業を選ぶということは、
自己概念の実現手段を選ぶと
いうことである」
「個人が仕事から得る満足度は、
その人が自己概念をどれほど
実現できたか(自己実現)の
程度に比例する」とも
スーパーは述べています。


つまり、
ここでいう「自己概念」とは
個人が自分をどのように感じ
考えているか、
自分の価値・興味・能力が
いかなるものかということについて、
”個人が主観的に形成してきた
自己についての概念(主観的自己)”と
”他者からの客観的なフィード・バックに
基づき自己によって形成された
自己についての概念(客観的自己)”
の両者が統合して構築される概念、


すなわち、
自分を対象として
把握(理解)した概念であり、
自分の性格や能力、身体的特徴
などに関する比較的永続した
自分の考えを指しています.。

そういう意味でも職業選択は
非常に重要だと思います。


ただ、人と職業との関係の
ふさわしさを規定する条件として
「職業的適合性」という概念を
示し、その構造を提起した
スーパーですが、
やや個人の能力、パーソナリティ
という側面(心理学的側面)に限って
考えられているため、
今日人間の能力、パーソナリティなどを
把握する内容は、より広範囲、
緻密化、科学的に発展しています。


たとえば、
近年注目されている
「エンプロイアビリティ」は
「雇われる(エンプロイ)」
「能力(アビリティ)」のこと。
特定の能力が優れていることはもちろん、
企業、社会への対応力や問題解決能力、
創造性なども重視される傾向にあるとし、
エンプロイアビリティの高い人材を
雇用したり、既存人材の
エンプロイアビリティを
高めたりすることは、
企業の成長につながっていきます。


このエンプロイアビリティは
構成要素のほかに、
絶対的なものと相対的なもの、
そして外的と内的なものの
4つの分類にできます。

①絶対的エンプロイアビリティ
→弁護士や会計士などの国家資格を
 必要とするような職業に
 就いていることで、高い専門性を持ち、
 時代の変化の影響を受けにくい
 価値やスキルのこと。

②相対的エンプロイアビリティ
→時代の変化の影響によって
 変わる価値やスキルのこと。
 時代に合わせて必要な知識、
 スキルを身につけることが大切。

③内的エンプロイアビリティ
→特定の会社で通用するスキルを
 有していること。
 リストラを回避できる場合がある。

④外的エンプロイアビリティ
→社外でも通用する知識やスキルを
 兼ね備えていること。
 特定の業種でニーズの高い国家資格や
 システムの知識・スキルなどがある。

職業を選択するにあたり、
自身の能力や興味、給与、
職業以外の生活とのバランス等、
考慮する要因は複数あるでしょう。
ある要因をどの程度重視するかは、
個人の主観的な価値づけ、
つまり、価値観が決め、
自身の価値観に合った職業が
高い満足をもたらす可能性は
十分あると思いますが、


日本の大学生を対象に
個人が就業時に何に価値を置くかを
調査したところ、
「自己向上志向」「対人志向」
「上位志向」の3つを見出しました。
この結果、人が働く上で
「自分の能力を伸ばしたい」
「いろいろな人に出会いたい」
「地位や名誉を得たい」という
多様な考え方があることを
示しています。


もちろん、
そこでの内容をヒントに
自身の価値観について考えたり、
他者や職業が重視する価値観を
知ったりすることは、
自分に合う職業を選択するための
手がかりになると思うのですが


スーパーは
「能力」と「興味」
の2つの要素を区別し、
両者を含めて「職業適合性」と
することで「適性」を考えました。

その「興味」について
知ることができる六角形モデルを
紹介します。
アメリカの心理学者
「ジョン・L・ホランド」氏によって
開発された性格タイプに基づく
キャリアと職業選択の理論です。


人のパーソナリティと環境(職業)は
それぞれ6つの領域に分けられ、
そして本人の興味と、環境(職業)が
個人に求める特性とが一致するとき、
すなわち、
同じ類型で職業選択する時に
成功の度合いが高まるというものです。
このような適材適所(マッチング)の
考え方は、今日まで
根強く支持されています。


160個の職業名に対する
興味の有無を回答することで
6つの領域への興味の程度を
測定すると同時に、
その人なりの考え方や
選択の傾向を示す5つの傾向
(自己統制、男性ー女性、
地位傾向、稀有反応、黙従反応)
をプロフィールで表示できますが、
分類された6つの
パーソナリティタイプの特徴を
見ていきます。


(R: 現実的 Realistic)
「モノ」を扱うことが好きで、
自己主張が強く、競争心が強く、
作業、技術、体力を必要とする
活動に興味がある。

問題解決にあたっては
それについて話したり、
深く考えるよりも、
何かをすることによって
アプローチを行う。

抽象的な理論よりも、
問題解決への具体的なアプローチ
を好む。
また、文化的、美的な分野よりも、
むしろ科学的、機械的な分野に
興味がある。


(I: 研究的 Investigative)
「データ」を使って仕事をする
ことを好み、行動するよりも
考えて観察し、説得するよりも
情報を整理して理解することに
興味がある。

数学・物理といった学問などの
抽象的なものや論理的思考を
必要とする仕事に対して
関心を持っている。
また、人を中心とした活動よりも、
個人を中心とした活動を好む
傾向がある。


(A: 芸術的 Artistic)
「アイデアやモノ」を
扱うことを好み、
創造的、オープン的、創意工夫、
独創的、知覚的、敏感、独立的、
感情的な傾向が見られる。

独創的であることを重視し、
型にはめられることや自由を
制限されることを嫌う。

また、「体制やルール」に
反抗する傾向があるが、
人物や身体的な才腕を必要とする
タスクを楽しむ傾向がある。

そして、他のタイプよりも
感情的になる傾向が見られる。


(S: 社会的 Social)
「人」と一緒に仕事をすることが
好きで、教えたり助けたり
する場面で、自分の満足感を
得るように見える人たちである。

また、人との親密な関係を
求めることに惹かれ、本当に
知的な人たちで身体的なことを
望む傾向が少ない傾向が見られる。

人の役に立つことや直接、感謝
されることに対して喜びを感じ、
他人の気持ちを理解して
良好な人間関係を構築することを
得意としている。


(E: 企業的 Enterprising)
「人とデータ」を扱う仕事が好きで、
話し上手、自身のスキルを使って
人をリードしたり、説得したりする
傾向が見られる。

また、評判、権力、お金、
ステータスを重視する。

リーダーシップを発揮して
組織を動かし、設定した目標を
達成する仕事に対して
関心を持っている。

エネルギーにあふれており、
社交性・積極性に優れているが、
他人に従うことは好まない。


(C: 慣習的 Conventional)
「データ」を扱う仕事を好み、
ルールや規則を好み、
自制心を重視し、構造や秩序を好む、
構造化されていない、あるいは
不明確な仕事や対人関係を嫌う
傾向にある。

資料を体系的に整理することや
反復する作業を正確に行うような
仕事に関心を持っている。

几帳面で根気強く、協調性に
優れているが、組織を主導するよりも
上の者に従うことのほうを好んでいる。
また、評判、権力、ステータスに
価値を置いている。



もちろん、判断するための
一つのツールであり、絶対的な
ものではないことを知っておく
必要はありますが、
もともと持っている潜在的能力を知り、
そのスキルを磨いていく自己研鑽は、
ふさわしい壁の乗り越え方、
仕事や勉強の仕方、人間関係、
周囲への効果的なアピール方法を
教えてくれると思います。


あなたをいつでも応援しています!
ありがとうございます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?