『地球防衛隊の秘めごと』本編
ーー俺達が地球の平和を守る!!
5人の陰キャラ男子高校生が銘々にポーズを決めた。
眼鏡の男、秋空が鋭い視線を1人の男に向けた。
「太郎!動きにキレがないぞ!」
太郎はみんなに注目を浴び、ぺこぺこしている。
「す……すみません」
「じゃあもう一度だ!」
「「「「「俺達が地球の平和を守る!!」」」」」
もう一度切り替えて5人はポーズを決めた。
今度は皆んなが納得いくポーズだったようで、みんな笑顔になる。
「今日の活動は終わりだな!」
「帰ろー帰ろー」
皆んなが帰り支度を始める。
すると太郎が申し訳なさそうに手を挙げた。
「あの……すみません。なぜ、地球の平和を守るなんですか?」
男は呆れた顔をした。
「お前わかってない!考えてみろ!このクラスの平和は地球の平和に繋がるんだぞ?クラスが平和じゃなければ、地球の平和とは言わんだろ?」
みんなが頷いている。
「な……なるほど!勉強になります」
太郎は、マイノートに今聞いた事をメモっていた。
「まーまー太郎は、最近転校してきたばかりだから知らなくてしょうがないよ」
おかっぱのストレートの男圭が太郎の肩をだき、太郎に微笑む。
みんなもその意見に納得し笑顔に変わった。
私は山田太郎と言う。
実は地球征服する為に送り込まれた宇宙人だ。
UFOで地球に到着し、たまたま飛んできた広告紙に山田太郎と言う名前があった。また写真もその紙に合ったので、そのまま顔をコピーして今に至る。
地球に我々より強いモノはいないし、科学技術も私達が上だと思っている。
しかも、こんな綺麗な惑星は他にはない。
地球に来てすぐ、沢山の人が集まり、凄い音や光に向かって、大衆で奇声をあげているのを見た。ヒカル棒を2本持った集団が激しく身体を動かし、腕を振り回して、奇声を上げていた。
ーー何だあの早い信号は……読み取れない……。
私は焦った。こんなに早く信号を送る人間が沢山いる事を。私の世界は、全て暗号化されており、あんな動きを見た事がない。恐怖だと思った。
この人間達は危険人物だと思い、この中の1人、圭の後をつけ近づく事にした。
圭の小さい頃から仲良しの友達も、またみんなそれぞれの道でオタクをしていた。
その4人は、グループを作り学校で、表面上はオタク同好会の名目で活動し、裏では地球防衛隊として活動していた。
私は要注意人物達の計画を知るべく、太郎として、高校に転入しオタク研究会に潜入中である。
今日もオタク同好会があるらしい。
オタクと言う言葉がわからず、調べてみたら、興味のある分野に傾倒する人だと書いてあった。
今日は叱られないように私は、フォーメーションの練習を船内でしっかり練習してきた。
ーーばっちりだ!
咳払いをした後、秋空が話し出した。
「ちょっと聞いてくれ!問題が起きている!」
みんな目が一瞬輝いたように見えた。
なぜ?問題と言うのに光る……?
もう一度みんなを見たが、光っていなかった。
私の身体のメンテナンスが必要なのかもしれない。
秋空は再び話し出した。
「悠太がイジメられているのは知っているだろう?ついに悠太がキレてしまった。修に殺意を持ち始めた……」
みんな目を大きくして驚いている。
だがまた目が光った。なぜ?
……もう目が光るのは気にしないでおく。
「またみんなのスマホやPCから情報取り出したのね?」
ーーみんなニヤニヤしながらやる気だ。俺にはわかる。
だいたい、秋空は恐ろしく早くキーボードを叩き、さまざまな情報を知る。
私はあの指に密かに、ゴットハンドと名付けている。
「とりあえず、悠太が球根付きのシクラメンをネットで注目した。明日到着予定だ」
「シクラメンて毒になるんだろ?」
「そうだ!球根や花は特にだ。」
「悠太を殺人者にするな!必ずくいとめろ!作戦考えるぞ!」
私は恐る恐る聞いた。
「あの……今日フォーメーションは?」
「そんなの今日はしない!!」
ーー練習してきたのにまた怒られてしまった。
地球人は難しい……。
数日後悠太は、本当に殺人を実行した。
体育の授業前、教室に誰も居なくなった事を確認すると、修の水筒にポケットから取り出した小瓶の毒を入れた。
悠太が人目を気にしながら教室からでていく。
我々はそれを確認した後、修の水筒の中身を捨て、茶に入れ替えた。
体育が終わり、いつものように教室はうるさくなる。
悠太は修を盗み見る。毒を入れたと思っている茶を飲む修は体調不良は見られない。
それを見た悠太は、机にふせて何度も机を叩いて悔しがった。
我々は目を合わせ無事、殺人未遂で任務完了した。
ただ悠太は諦めなかった。
数日後今度は、毒を修の弁当に入れた。
だが我々は、また使用するのを察知していたので、事前に小瓶の中身を下剤へと変更していた。
修は弁当を食べ、トイレに何回も駆け込んでいた。
悠太は自分の思い通りにならず、驚き、辛い顔をしていたが、最後は悲しそうな顔になっていた。
今日の放課後のオタク同好会はみんな機嫌が良かった。皆んな自分達の力で犯罪者をうまなかった事にニヤニヤしている。
何だか私も顔が緩んでしまった。
ーー不思議だ!なぜ私の顔が勝手に緩んだんだ?
秋空は、皆んなに声をかけた。
「我々は無事に任務完了し、殺人者を出さずにすんだ。地球平和につながった!」
皆んな拍手をして盛り上がり、お祝いのフォーメーションをする事になった。
今回は文句も言われず上手に決まった。
数日後また問題が起こった。
秋空のハッキング情報によると、悠太はスマホに遺書を書いていた。
皆んな驚愕し、いつもより必死に何をしたらいいのか考えていた。
秋空が神妙な顔で口を開いた。
「殺人が失敗し、憎しみをどこにもぶつけられなかったんだろう……」
圭も頷きながら、皆んなが思っているであろう事を口に出す。
「悠太すごく苦しんで、結局こう考えたんだろな……。俺らも少し責任あるよな……」
皆んな胸が押さえつけられた。
遂にその時が来た。
二手に別れた。隣の校舎の屋上と飛び降りるであろう本館の屋上に。
悠太は予想どうり本館の屋上に来た。
悠太は屋上のフチに立った。悠太の髪は風でなびいていた。早く早くと風は悠太の服や髪をひっぱる。
覚悟を決めた悠太はその場に靴を脱いだ。
俺達は息を呑んだ。
計画どうり隣の校舎の屋上で圭が、眩しいくらい光るように改造したペンライトを両手で持ち、音楽を鳴らしオタ芸を披露する。
ライトの眩しさや人に見られている事で一瞬身体が後に引いた時に準備している太郎が、確保する作戦だった。
悠太はこちらの想像どうり、後に一瞬怯み身体を引いた。俺は確保するはずだったが、体勢を崩し悠太を掴むどころか押してしまった。
悠太の身体はそのまま屋上から真っ逆さまに落ちていく。悠太のおびえた顔が見えた。
皆んなが大声で叫ぶ。
ーー悠太!!
私は腕を伸ばしたが届かず、悠太の怯えながら落ちていく顔を思い出す。私の伸ばした人差し指からキラキラしたビームがでた。
無意識に時間を戻す力を使ってしまった。
ーー失敗は……みんなに怒られる。
巻き戻しになり、皆んなさっきの事を知らない。
私は悠太を捕まえた所で時間を再生した。皆んな悠太が私に確保され無事である事を喜んでいた。
悠太は皆んなが喜んでいるのを見て声を出して泣いていた。
秋空が悠太の肩を軽く叩きながらゆっくり諭す。
「悠太……あんな奴の為に罪を犯したり、お前が命を落とす必要はない!」
それを聞いた悠太は秋空の顔を見た。
秋空は、悠太を見て微笑む。
悠太は、秋空達の仕業で犯行を回避された事を悟り、また涙を流す。
「お前達だったのか……。ありがとう……」
悠太は暫く泣いていたが、屋上を後にする時には、笑顔になっていた。
なぜだか私の胸も温かく感じた。
またも地球防衛隊は、任務を完了した。
数日後、太郎は戦隊モノのオタクの智也に不思議に思っている事を聞いてみた。
「智也……地球防衛隊楽しいですか?」
智也は、満遍の笑みで答えた。
「楽しい……かな。小さい頃にTVみて一度はみんな憧れるだろ?俺は今だに憧れてて、小さい頃からの友達だった皆んなが俺の夢を叶えてくれてるんだ」
智也は昔を思い出しているようで、微笑む。
「太郎も見てみる?俺沢山DVD持ってるから!」
「お願いします」
太郎は潜入捜査でやっとオタク研究会の真髄にたどりつけそうだと、ひっそり心の中で笑った。
日曜日に太郎は智也の部屋にDVD鑑賞に誘われた。
数が数えられないくらいのDVDが、部屋の棚一面に並べられている。そして何百体の戦隊ヒーローのフィギアが飾らせていた。
智也は、自分の好きな名作の順に戦隊ヒーローのDVDを太郎に沢山見せてやった。
太郎は始めは驚愕していたが、段々顔が青ざめてきた。
「こ……こんなに沢山の地球防衛隊がいるのか……。す……凄い人数いる。ロボットまで」
ーー映像では、ロボットで戦っていた。我々が考えていたより地球人ははるかに強い……。しかも、誰一人として、地球防衛隊に勝つ事ができないのだ。何だこの連携プレイ。
太郎は息を呑んだ。私はとうとう真相を聞いた。
「この地球防衛隊は、負ける事はないのか?」
智也は身を乗り出し、信じられないと言う目で太郎を見た。
「負ける訳ないだろ!地球防衛隊は絶対勝つ!負けるDVDなんてないよ!」
太郎は智也の言葉に膝まづく。
ーー何て事だ!我々は地球人を甘く見ていた!色んな怪獣が戦いにきているが、負けた事ないなんて想像つかなかった。
私は智也から見せてもらったDVDで、地球防衛隊の強さを理解した。
太郎は地球防衛隊の強さを知り、これまでの地球での情報をどう報告しようか悩んでいた。
ーーこれは地球征服は諦めるべきか……。
このオタクと言うすごい集団は、いろんな嗜好のものにいて、数が集まるとまた凄い威力を発揮する。
そして、我々みたいに自由自在に色んなモノを動かすチカラもないのに、色んなネットワークを使ってくる。
我々は、声に出したり顔に出したりしない。頭に話しかけ理解でき、頭の中のみ感情表現をする。
地球人は、感情を声にだしたり顔に出す事は知っていたが、何も話さなくとも、心に打ったえかけ、動かす事ができるのだ。
私も胸が温かくなったり、胸に痛みが走ったりしていた。人の心を操る。
ーー不安になってきた。逆に我々の星が征服されるんじゃないか?
太郎は、頭を悩ませていた。
そうするうちに、遂に転校と称して別れの時がきた。
智也が私に選別に戦隊ヒーローのDVDをもってきた。
「これ見て地球防衛隊思い出せよ!」
「これは……いいのですか?」
太郎は跳び上がり喜んだ。
「ありがとうございます。これで研究できます」
鼻が何だかツンとする。目が潤んで見えにくい。
目から水もでてきた。
ーーこれは何だ?胸も苦しい。
智也に肩を叩かれる。
「太郎悲しくても、涙流すな!」
太郎は智也の言葉に驚く。智也も目の奥には光ものが見えている。
ーーこれが涙?私は悲しんでいるのか?
太郎は、人間の感情表現を体験した事に感動する。
ーーこんな気持ち初めてだ。
次に圭がオタ芸に使うペンライトをくれた。
太郎はまた泣きそうになっている。
「これ使って踊ればオタ活できるから!」
「ありがとうございます」
圭に習ったオタ芸の思い出がよぎる。
ーー私に奇声があげれるだろうか……
太郎は想像するとおかしくなった。
「何笑ってんだ。たまには大きい声だして、身体激しく動かして踊ればストレス発散できるぞ!」
ーーストレス?そんなもの我々にはないが、快適になれるらしいから帰ってやってみよう。
圭に言われ太郎は、涙目で頷く。
最後に秋空が、太郎の肩に手を置き話しかけた。
「お前は俺らの仲間だ!オタクはバカにされたりするが、弱くない!喧嘩が弱くても強い奴が1番強いんじゃない。偉いんじゃない。皆んなネットワークで繋がっていて、1番弱い奴が強い!進化論だ。覚えておけよ」
ーーゴットハンドだけじゃなくゴットマウスだな。
秋空の言葉は私に響いた。
太郎は自分の惑星に帰り地球の報告をした。
戦隊モノDVDやオタ芸を見せると、みんな地球人を怖がった。
我々ではチカラ不足だと結論にいたり、地球征服計画は消滅した。
そして、オタ芸と戦隊モノは、我々の惑星で大流行した。
オタク同好会は、本当に地球防衛をしていた。
私は地球を後にした今でもまだ、奴らに心を奪われている。
「ナカマ……」
この言葉は胸が温かくなる。
ーー私の心は地球人に征服された。