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残念ながら大学院は就職予備校です
こんにちは、ゆです。先日、「大学がガチでモラトリアム化している件」というテーマで記事を公開しました。想像を超えるいいねを頂きまして光栄です。
記事はこちらから
そこでは、アカデミア、つまりは大学院の話も少しはしたのですが、「じゃあ大学時代がモラトリアムなのは分かったけど、私を含め大学院生になったら若者たちは急に勉強をし始めるのか?」という疑問が湧いてきそうです。
これについて、答えは半分Yes、半分Noです。
どういうことかというと、「大学生の時よりは、(相対的に)学問に打ち込む時間が長くなる」というのが正しい表現といったところでしょうか。逆に言えば、アカデミアの一員として、すなわち研究者としては端にも棒にもかからないような存在のまま、大学院を卒業していく人が大半であるというのが、現役大学院生が周りを見ていて思うことです。
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ここで、大学院生と書くのは、基本的には修士の学生を表します。
*筆者も執筆現在は、大学院生 (M2) です。勿論業績は乏しいですが、人一倍研究に取り組んでいる自負はあります。
大学院生がどういう存在で、何を考えているのか、それらを現役大学院生の解像度でお届けしようというのが、この記事の内容となります。
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自分も当てはまる気がしますが、子供を大学院とやらに入れたが何をしているかいまいち分からん!という親御さんとかに届いたら嬉しいです:)
大学院生 (修士前期過程) の生態
大学受験時に、理系の学部を選んだ人間のうち、それなりの数は、この大学院生というものになります。勿論文系の大学院生というのも存在しますが、筆者が理系かつマジョリティーは理系なので、この記事では理系メインで書きます。
大学院生は基本的に、研究室に所属し、教授を初めとした教員の指導の下で自身の研究を進めて行くことになります。研究といっても様々ありますが、やはり研究の中心は"実験"にあると言えます。仮説を検証するためには、実験をして、収集した事実を基に考察を生み出していわけです。
ですので、大学院生は日中実験をしていることが大半かと思われます。勿論実験内容はものすごいバラエティに富み、人によって扱う試料や装置がバラバラですが、まあほとんどの学生にとっては「実験してナンボ(=実験すればするほど偉い?)」な状態であると言えるでしょう。
大学院で得られる素養
ただ、実験といっても、手順が決まっているわけではないんですね、というより、手順が決まっていないものをしないと研究の中の実験とは言いませんね。研究をする意義は基本的には新規性があるわけですから、高校時代や学部時代に「授業」として行われるような実験はしません。基本的にはレシピがない実験を自分で組み立てていく必要があります。
というように、「自分で考える」という能力が必要なのはもはや明白でしょう。いわゆる受験勉強では、答えのある問題をいかに正確かつ速く解くか、つまり「情報処理能力」が勝負であったことを考えると、研究ではまた違った「洞察力」や深い「論理的思考力」が求められると感じています。
まあ実際の仕事に近いのはこういった「洞察力」や「論理的思考力」でしょう。このご時世で情報処理が速くても、コンピュータには勝てませんからね。私自身も、手計算なんて全くしないので、筆算とかすごく遅く成っていると思いますね。
あといわゆる「コミュ力(コミュニケーション力)」もつく場であると思っています。研究室自体が、教授を頂点とする10 - 20人程度の閉鎖的なコミュニティですので、その中でうまく対人関係を築かないと確実にぼっちになります。加えて、研究室内で自分の研究内容をPowerpointで他の学生に説明したり、指導教員と方針を決めたりするのに「説明力」が必要になるので、自分の言い分を論理立てて伝える力というのは身についていきます。
ざっとこんな感じで、何かテキトーに引用してとりあえず字数を埋めれば通る卒論と違って、修士の学生は一応研究者のヒナのレベルには達した状態で大学院を出る、というのが一般的です、
本来であれば!
てことは、実情では研究者のヒナにも達していない修士卒が世の中に大量にいることになります。そうです。いるんです。
その理由をみていきましょう。。それは
修士として実験する期間は1年あるかないか
ということが大きいです、本来は大学(学部)を卒業して2年あるはずの修士前期課程、しかし修士で卒業を考えている学生にとって、この2年は1年なのです、その理由は「M1 (修士1年) の1年間は、就職活動でそれどころではないから」です。
現代の就活状況を知らない人からしたら意外でしかないと思うのですが、少子化の現代なら、国立大や名門私立大の大学院生は就活で無双できる、という認識はある意味正しく、ある意味誤りです。それは彼らの志望する会社のハードルがどんどん上昇しているからです。
ある意味、当然かもしれません。特に学歴の中に「私立」が沢山ある学生なんかは、これまでの学費だけで家が建つレベルの額になることもザラです。かかったコストに見合うだけ稼がないと、的な思想にもなりますし、そもそも東大生とかだったら、上や上、最上級の給料、WLB (ワークライフバランス) を求めて当然ではあります。勿論、国内全ての会社が対象ならば、彼らの人財価値は非常に高く貴重なものになりますが、例えば日経225の中の会社だけに絞った途端に、「早慶?だから何?それ以外のすごいところは?」状態になるわけです。
*気になった方はこちらもどうぞ(私の就活体験記です)
そんな自身の学歴とプライドにかけて、理系大学院生は就活において「成功が約束された人種」というよりむしろ「就活失敗が許されない十字架(学歴)を背負った人種」に感じるときがあります。だからこそ必然的に就活対策に割かなければならない時間が増え、まともに実験できない期間が人によっては1年できてしまうのです。
「大学院生」という存在をどう捉えるかは人それぞれだけど…他人に迷惑はかけるな
私が生きる上で信条としていることの一つに、「自由に生きる、でも決して他人に迷惑はかけるな」のがあります。これはまさに大学院という場所に当てはめて言えるのではないでしょうか。研究室によっては、「コアタイム制度(何時から何時は用事がなくても研究室にいなさい的なルール)」を設けているところもありますが、多くの研究室では、その日どういう実験をするか、とかそれをいつするか、いつまでにやるかなど、事細かくは指定されていないことが多いです。実際私も、アルバイトしたいので夕方早めに研究室を出て、バイト後に少しだけ実験再開、というムーブをよくします。自分の裁量で時間が使えるという点は、ある意味学生の特権ですよね。
ただだからといって就活100%研究0%でM1の1年を終えるのは、私は絶対に違うと思います。教員に考えてもらったテーマで、教員がとってきた予算でやっている研究です。教員としても学生の進捗を管理するという義務もありますし、卒業させなければなりません。あまりに自己管理ができないのは、指導して頂いている教員に迷惑をかけていると思います。
後、他の学生にも迷惑をかけることにも繋がります。修士の先輩や博士の学生の中には、教員から頼まれて後輩学生の指導に当たっている人もいます。有償の人もいますが、大半はボランティアだと思います。先輩がついてくれるのって、すごく心強いし研究の進捗も生まれやすいです。そんな中で、就活をしまくって全く実験をしないのはどうでしょうか、ルール的には問題なくても、マナー違反ではないでしょうか。
少し熱が入ってしまいましたが、実際に私の所属する研究室でもこういうことが最近あります。1週間に1-2回しか来ていない人とか、M1なのに進捗報告で教員からの質問に全く言葉が出ない人とか、教員とのミーティングで博士の先輩と一緒じゃないとミーティングとして成立しない人とか、心の中では修士なんだから自分のテーマくらい自立してやれよ!って思ってしまいます。
博士課程以降は人不足、でも修士は就職予備校
かくいう私も、アカデミアに残る人間から見たら、どちらかというと修士の2年間を「就職予備校」的に使った人間かもしれません。私自身ももうすぐ卒業ですが、研究テーマを大きく進めるのに、修士の2年は少なすぎるな、と現在進行形で考えてしまいます。国の奨学金の給付動向を見ると、博士進学を増やそうという意思が見られます。私自身も博士を諦めた大きな要因の一つに「お金」はありました。研究室は、純粋に研究で真理を追求する場所になって欲しいものです。
ですが、少なくともあと10年ほどは、就職予備校化は加速の一途をたどると私は予想しています。というか、近年は学歴偏重主義が発展して内定先/勤務先偏重主義になっていると思っています。最近巷では「就活塾」なるものがでてきたり、インターネットでは就活のライフハックが書かれていたりと、就活戦争が激化する方で動いている気がします。要因は様々ありそうですが、SNSの発達と日本景気が悪いことが主な理由だと思います。詳細に言うと、SNSの発達によって、企業の年収や待遇を気軽に知れるようになったこと、そういった成功者の生活を身近に知れるようになったこと、景気が良くないから、とにかく年収や待遇を重視して会社選びをするようになった人が増えたこと、なんかでしょうか。
そんな中で、就活強者に手っとり早くなれるのが大学院進学なんですよね、特に東大京大とかは学部から入るのは大変でも院からだとロンダリングしやすいんですよね。多分、研究室にはこれからもっと実験しない修士の学生が入ってくると思います。教員も人手不足ですが、どうなってしまうのでしょうか。。。