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乾燥した、右足の掻痒感のあるがままに、しゃにむに掻きむしっていると、当然、爪の先端に、垢が詰まったり、避けた皮膚の血漿が詰まったりする。詰まっている、ということが、今の私にとっては、抗い難い、実存の一つだった。存在の耐えられなさに苦しんでいる人間にとっては、もはやそんな生理的な肉体でしか、私というものが存えすらしない。人はもっと自由だったはずだ。生理的な肉体の、代謝や、傷を埋め合わせてしまうこと、治すということは、私たちの紛れもない、本能の一種であったはずだ。私が存える道理。人が存える道理。日を追うごとに、「形造られたもの」でしか、私たりえなくなる。

後藤憲一『プラズマ物理学』

軽薄なプラスチックも、私の血漿も、同じくらいの実存だ。実存が価値を決めてくれる。それに基づいて兌換されたら、平等な世の中が、やってくるはずだと思う。そうすれば、いちいち死んだ鯨のガスを抜くことや、小児病棟に着弾したミサイルなんて、報道されなくなる。煩わしさも何もない、深い平等の水底に、あらゆる全てが堆積していく。

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