連載小説 奪われし者の強き刃 第3章4話 「侵入 坤の実験場」
小さな町を発見し、領地調査を始めた悠たち。大和の報告により人間が奴隷のように扱われていたことが発覚した。
悠:
「他2班もわかったことを報告してくれ。」
隊員:
「はい、私たちは大和さんと反対方向に進んでいったところにあった大きな建物を調査してきました。あちらの建物です。」
隊員が指を刺した方向には小さな町には似つかわしくなほど大きな正方形の形をした建物が聳え立っていた。
悠:
「あの建物か。なにかわかったことがあったか?」
隊員:
「はい、どうやらあの建物は食品を加工する工場でした。ですが、それ以外には特に収穫はありませんでした。」
悠:
「そうか、ありがとう。そっちの班は?」
隊員:
「はい、私たちは住宅を調べてきました。恐らく住宅としては使っておらず、牢屋として使っていたと思います。」
悠:
「なぜそう思った?」
隊員:
「外見は普通の住宅でしたが、中に入ると劣悪な環境でした。壁には鎖でつながれた首輪があり、床には少し藁が敷かれているだけでした。そして、表札の所に数字が書かれていました。」
報告を聞いた全員が、容易に想像できる当時の状況に血の気が引いた。
悠:
「報告ありがとう。最後に俺らの報告だな。俺らが調査したのは近くにあるレストランだ。特に変わった感じはなかったが、大和たちの報告を聞いてわかったことがある。」
悠:
「ここでは、人間を奴隷と同時に食料として扱っていた。それに、ここの魔物は人間と同じくらいの知性を持っているということだ。」
大和:
「待ってください!魔物が人間を食べるなんて聞いたことがありません。それに、魔物は物は使えても言語は理解できないはずです。そんな奴らが、人間と同じようだなんて。」
悠:
「大和の言いたいこともわかるが残念ながら事実だ。恐らくここは宿屋街として使われていたのだろう。大きな町に行くまでの経由地点といったところか。この先もっとひどい現実が待ち受けているだろう。覚悟しておけ。」
受け入れがたい真実と当時の状況にその場の空気が一気に重くなった。
悠:
「明るいうちにできるだけ移動しよう。さっき、車を見つけたからそれで先に進むぞ。」
悠が見つけた車に乗り込み、悠たちは町を後にした。しばらく車を走らせると、荒野の中にぽつんとたたずむドーム状の建物が現れた。
大和:
「あの建物は何でしょうか?」
悠:
「わからない。行ってみるか。」
ドーム状によることにした一行は隊員2名を車に残して建物に入っていった。建物に入ると、一本の廊下にいくつかの扉があるだけだった。電気は通っているようで廊下の電気は全てついていた。
愛奈:
「なにここ?なんだか研究所みたい。」
悠:
「それぞれ部屋を調べよう。何かわかるかもしれない。」
愛奈:
「わかりました。」
それぞれが扉に入り、部屋の中を調べ始めた。数分後、部屋から出てきた隊員たちが情報を共有を始めた。
大和:
「そっちはどうだった?」
隊員:
「だめです。これといった情報はありませんでした。」
大和:
「そっちもか俺もなんだよ。愛奈は?」
愛奈:
「私もよ。何の情報もなかったわ。」
大和:
「そういえば師団長は?」
愛奈:
「いないわね。まだ調べているのかしら?」
団員全員で悠が入っていった部屋に入ると、そこにはある資料を読み込む悠の姿があった。
愛奈:
「団長、何かわかりましたか?」
悠:
「ん?あぁみんなか。そっちはどうだった?」
大和:
「だめっす。これといった情報はありませんでした。団長の方はどうっすか?」
悠:
「あぁ、ここのことが少しわかったよ。」
大和:
「本当っすか。」
悠:
「あぁ、少し進みながら説明しよう。」
悠たちは部屋を出た後、さらに建物の奥へ進んでいった。
悠:
「ここはどうやら坤の研究施設の1つらしい。あいつはいくつかの研究施設を持っていて、それぞれ別の研究をしていたそうだ。そして、ここでの研究は絶望。人間はどの状況下が一番絶望するかを実験していたようだ。」
悠が説明しているうちに一行はある部屋にたどり着いた。その部屋は見渡す限り木々が生い茂っており、まるで本当に森の中にいる様であった。
愛奈:
「何なの?この部屋は。」
悠:
「ここが主に実験を行っていた部屋だな。入ってみよう。」
?:
「おやおや、困りますね勝手に入られるのは。」
悠たちが部屋に入ろうとした瞬間、背後から声が聞こえた。振り返るとそこには本来は話すことはできないはずの人型の魔物が数体立っていた。