連載小説 奪われし者の強き刃 第2章16話 「南部の戦い 迫るタイムリミット」
悠と氷室が薬により魔獣の力を手に入れた艮と坤と対峙していた頃、スタークとソフィアは巽のある技に苦戦をしていた。
巽：
「どう？私の毒は。私のもう1つの能力『毒生成』、ありとあらゆる毒を作れるのよ。どこまで耐えられるかしら。」
ソフィア：
「スターク大丈夫？これつけて。」
ソフィアはすぐにガスマスクを錬成してスタークに渡した。
スターク：
「あぁ大丈夫だ、ありがとう。『再生』のほかに『毒』まで作れるのかよ。」
巽：
「へぇ対策が早いのね。流石に実戦慣れしているだけのことはあるわね。でも、今まいたのは麻痺毒、そんな状態でまともに戦えるのかしら。」
スターク：
「ソフィア、これ以上毒が広がらないように俺らを壁で囲い込め。この毒はかなり危険だ。市街地まで距離が開いているとはいえ、かなり広がるのが早い。」
ソフィア：
「わかった。」
ソフィアはすぐさま大きな壁をいくつも生成し、巽とスタークを囲い込んだ。それにより、辺りは真っ暗になった。
巽：
「あの女と一緒じゃなくても良かったのか？それともお前ひとりでも勝てるとでも。」
スターク：
「これだけ真っ暗だからあいつを巻き込まないっていう保証がないからな。」
そう言って、影移動を繰り返し接近戦を仕掛けた。しかし、巽にはまるですべて見えてるかのように避けられた。
巽：
「無駄よ。どんだけ暗くても私はあなたの居場所は手に取るようにわかる。」
スターク：
「まさか、ピット器官か！」
ピット器官とは蛇が持つ器官で獲物の熱を感知することができる器官のことである。
巽：
「あら賢いのね。そう、私はピット器官で相手の熱を感知して居場所を知ることができるの。だから、あなたがどれだけ早く移動しようが死角から攻撃しようが丸わかり。」
すると、巽は生成した毒を腕に浸透させその腕でスタークを殴った。スタークはなんとか踏ん張ったが殴られた腹部が毒により激痛が走った。
巽：
「その毒は打ち込まれた部分からゆっくり侵されて行って最後は壊死していく。時間は大体２０分っていったところかしら。」
スターク：
「上等だ。やってやるよ２０分。」
巽：
「意外と頑張るのね。」
スターク：
「俺より年下のチビどもが命を懸けて毎日戦ってるんだ。ここで踏ん張れなかったらあいつらに合わせる顔がねぇ。」
スターク：
『影狼・天狼孤影』
スタークは影の剣を作り出し、伸びる斬撃で攻撃した。巽はその攻撃をいとも簡単によけて再びスタークの懐に入り込み、接近戦に持ち込もうとした。
巽：
「伸びる斬撃は見事だけど近づかれたくないことがバレバレよ。」
そして、巽がスタークに向かって毒の拳を再び降った瞬間
スターク：
『影坊主』
スタークは影に溶けるように巽の拳をよけた。
巽：
「そんなことができるのね。」
スターク：
「ここは真っ暗な影の世界。いろいろ試さないと損だよな。」
スタークは一呼吸置き、自身の影に手をついて
スターク：
『伏魔殿・魔窟（ふくまでん・まくつ）』
すると、スタークのうしろに影でできた宮殿のようなものが現れた。
スターク：
「この技はまだ未完成だ。だが、お前を倒すためならやってやる。来い『スコル・ハティ』。」
そういうと、後ろの宮殿の扉から３ｍ近くある赤色の目を青色の目をした２匹の狼が出てきた。
巽：
「なんなのこの狼は？見たことない。」
スターク：
「この狼は昔の文献に出てきた太陽と月を追いかける狼だ。『伏魔殿・魔窟』は俺がイメージした動物・魔物・魔獣・神獣を作り出すことができる。だが、影の量や俺の体の状態で左右されるからあまり安定しない。今もギリギリだ。」
スタークの体はすでに毒で限界な状態であり、意識を保つのもやっとな状態であった。
巽：
「以外にギャンブラーね。でも、限界なあなたで何ができるのかしら。」
そう言って巽は２匹の狼に殴りかかったが狼もスターク同様影に溶けるように拳を交わした。
巽：
「！」
スターク：
「無駄だ、スコルもハティも影が媒体となってるお前がどんな物理攻撃をしようとすり抜けて反撃をくらわす。」
すぐに実体化した２匹の尻尾による攻撃が巽に命中した。
スターク：
「やっと、まともな攻撃が当たったな。そいつらは俺と違い熱を持たないからなお前のピット器官は反応しない。」
巽：
「やってくれたわね。」
巽が再び攻撃しようとした時、巽は一瞬動きが止まった。
巽：
「何？」
スターク：
「『影踏み』。今状態だと一瞬しか止められなけどそれでいい。」
すると、スコルとハティが巽に向かって一直線に走っていき、
スターク：
「決めろスコル・ハティ。『大禍時・日月食（おおまがとき・にちげっしょく）』」
そして、2匹の狼は巽の両脇腹を喰いちぎった。
巽：
「はぁはぁ再生できない、まさかここまでやられるとわね。これは使いたくなかったけど仕方がない。」
そう言って、巽は艮たち同様注射器を取り出し、最後の力を振り絞って自身のクビに刺した。
スターク：
「あれは悠の言ってた最後の手段？」
巽も蛹のようなものに包まれ、鱗に覆われた大きな蛇となって出てきて囲っていた壁を破壊した。
ソフィア：
「スターク！あれは？」
スターク：「巽だ。悠の言っていた最後の手段を使いやがった。デカすぎだろ。」
巽：
「これが毒蛇『ヨルムンガンド』の力。」
ヨルムンガンドは魔界にも一匹しかいない幻の大蛇でありとあらゆる毒を操り、ヨルムンガンドにあったものは死を悟ると言われている。
スターク：
「いけるか？」
ソフィア：
「何言ってんの。スタークは休んでいなさい、どうせ毒にやられてるんでしょ。」
そう言ってソフィアは、スタークに解毒剤を渡した。
スターク：
「これは？」
ソフィア：
「解毒剤。あなたが戦っている間に医療班のみんなに作ってもらったの。中和できるはずよ。」
スターク：
「まさか、1人で戦うのか？無理だ俺も戦う。」
ソフィア：
「そんな体で戦えるわけないでしょ。薬を使わせるまではやってもらったんだからここからはバトンタッチよ。」
その時のソフィアの背中はとてもたくましく、自身に満ち溢れていた。