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ガード下の総理大臣

 オイラがガード下の穴から出ると日はとっくに暮れていた。相変わらず騒々しい人間どもはオイラに気付くことはない。今夜はラーメン屋にするか居酒屋にするか考えていると、ツーンと鼻につく匂いが近づいてきた。仲間かと思ったがいつもの「親父」だ。

 「おい、チュー公。どうした、腹が減ったか。まあ、一杯つきあってくれや。」「親父」はプーンと匂う液体を空き缶に注ぎ、顔面をくしゃくしゃにしてオイラに突き出した。

 「チュー公よお。お前はいい奴だ。きっといい奴だ、違いねえ。今日も俺は働いた。くたびれたよ、くたびれた。近頃、不景気らしいがなんの、ゴミ捨て場には食べ物がたくさん。間違ってらあなあ、わかるだろう。

 俺が総理大臣になったら、まずここいらのアスファルトをひっぺ替えして森の公園にするんだ。気持ちいいぞう、お前もその方がいいだろう。チュー公。花が咲き蝶々がふわりふわり。
 畑でも耕してもいい。水辺があって、そこに鳥が集まる。夜には草むらに寝転んで星を眺めて、それから、、それから、、お前の家を作ってやろう。大きな森の公園に親父とねずみが暮らしている。
 俺が総理大臣になったら楽しいぞ。なあ」

 「親父」のくれた液体で気持ち良く目が回って来た。なんだか眠くなってきた、今夜はもう眠ってしまおう。

 翌朝、起きると「親父」はすでに出かけているようだった。背広を着た人間が二人「親父」の寝床の前で話し込んでいた。夕べは何も食べていない。食べ物を探しに行こう。今日も暑くなりそうだ。

おわり


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