バスの運転手さん
ひとりで暮らす母のところに行った。
いつもだとバスと電車を乗り継いで行くのだけれど、今日は運良く、最寄駅まで直通で着くバスに乗ることができた。
終点の最寄駅まで約40分、おととい買った文庫本を読みながらバスに揺られることにした。
ふと、運転手さんのアナウンスが耳に入る。
「お座りになってからバスを発車します」
この運転手さんは優しいな、と感じた。
乗客がバスに乗り込んで席に座るまでの間に「バスが動きますからお座りください」という様な言い方のアナウンスはよく耳にするけれど、「お座りになってから」は初めて聞いたかも。お客さんファーストだ、と思った。
その後もバスの運転手さんのアナウンスが気になっていると、「信号なので止まります」「動きます」とアナウンスが細かくて丁寧。声のトーンも明るく柔らかくてホッとする。
申し訳ないけれど、「お座りください」とアナウンスをする運転手さんは声が高圧的な人もいて、正直怖い。
途中のバス停で時間調整のため数分停車した。するとバスの運転手さんは運転席から乗客のいる方に身体を捻り笑顔で「◯◯の理由で3分停車しますね」と、伝えてくれた。
とても気持ちの良い運転手さんだなぁ、と感じた。なんだかこちらまで清々しい気分になった。
その後もお客さんが乗っては「お座りになってから動きます」と、降りる時も「ゆっくりで大丈夫ですよ、お気をつけて」と言葉を添える。
ある停車駅で、お婆さんがコンパクトなシルバーカートと共に乗ってこられた。
運転手さんは「あ、お母さんちょっと待って」とそのお婆さんに声をかけていた。
そして、運転席を出て、シルバーカートを先に座席まで運んであげていた。
さらに「どちらで降りますか?」と聞き、その停車駅に着くと、また運転席を出てバスの外へ行き、先にシルバーカートを下ろしてあげていた。
「どちらに向かわれます?」と、シルバーカートの進行方向を確認し、その方向を前になるようにシルバーカートの向きを直し、「お気をつけていってらっしゃい」と声をかけていた。
高齢の女性も「ありがとうございます」と伝えていて。それに対して運転手さんは「大丈夫、大丈夫よ」とにこやかに答えていた。思いやりが深い。深くて広くて温かい。
きっと、このバスの運転手さんは「バスの運転手」という仕事が大好きなのだろう。バスに乗ってくるお客さんが気持ちよく乗ってくれることが、この運転手さんにとって嬉しいことなのだろうな。自分の嬉しいに繋がるように仕事をちゃんとしているから、乗っている側も心地良いのだろうな。
こんなにも心地良い気分でバスに乗ったのは久しぶりだ。バスの中の空気が清らかだったように感じたのは、私だけでなく、多分、他の乗客の人たちも感じていたに違いない。
それは、終点で降りる時に、多くの乗客の人たちが「ありがとうございました」と明るい声で伝えていたので、多分そうだろう。
私も降りる時に「ありがとうございましたーー!」とにこやかに伝えた。
また、あなたの運転するバスに乗れますようにー!