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Halloween World 其の肆

 レイに計画のあらましを話し終える頃には、すべての者が眠りにつく丑三つ時になっていた。
 レイは深刻な表情で、私の領から届いた報告書を読んでいる。彼女や茉莉と違って、私の領地では悪霊問題が上に挙がることは滅多にない。
 墓場の様子や茉莉の仕事量を見るに、これまでにない異常だ。
「この報告書、茉莉には?」
「まだ見せてない。最初は、墓場に入った莫迦を送り届けて、ついでに書類を見せようとしてただけだったんだけどさ、思った以上に悪霊が多かったからねー。そのことも、ついでに報告に行ったんだけど……」
「茉莉の体調が、かなり悪かった、と」
「そゆこと。だから、いつも通り事後報告でもいいかなって思い始めてる」
 呆れたようにため息をつくレイだが、私はこの子が腹の中でマムシを飼っているのを知っている。
 絶対に心の内では嫌らしく笑っているだろう。
「また? 怒られても知らないわよ」
「大丈夫だって。君と共謀してやることは、そんなに怒らないし」
「……」
 事実である。
 私一人でやらかすと、茉莉はすぐキレる。なのにレイと二人でやらかした時は、説教がかなり少ない。
(扱いが雑なの、何とかしてほしいんだけどなぁ……)
 なんて、口にはできない。
「別にいいじゃん? 茉莉にとっても利になる話だし、仕事もストレス源も減るんだよ?」
「だからと言って、自分の知らぬところで事を起こされては、説教が増えるだけ。軽く伝えておけばいいし、近々話に行くわよ」
「えぇー……。絶対私が怒られるヤツだし。言いたくない」
「そういうところが、茉莉の気に触るのよ。きっと」
 渋々ながらも同意し、手筈を整えてから報告に行こう、という運びとなった。



 サラと悪巧みをしてから三日後。私たち二人は、正式に吸血鬼領へ訪問した。
 二人でやれることを済ませ、駄々を捏ねるサラを引っ張ってきた。なのにどうしても、報告に気が進まない。私もサラに影響されているのだろうか。
 馬車の中で、私は密かにため息をついた。
「ねぇ〜レイ〜」
「何? 今更、駄々を捏ねても無駄よ」
「そういうんじゃなくてさぁー……」
 未だにブスくれるサラを見遣ると、その手元には調査資料があった。
コレ・・……茉莉に見せたくなくてさ……」
「……見せなきゃ、始まらないわ。怒られる覚悟で行くんだから」
「だけど、これ実行したの茉莉だし? 絶対に責任感じちゃうでしょ」
 サラは茉莉や私のことになると、少々盲目になるところがある。彼女の過去を考えれば、そうなるのも仕方のないこと。だが、領主となったのだから、もう少し俯瞰的な視点を持ってほしいことだ。
「そこは、私たちでフォローするのよ。幸い、次の会談は三ヶ月後。そこでまた、三人で戦えばいい」
 サラはキョトンとしていたが、すぐに思い至ったのかまた嫌そうな顔をする。
「アイツら嫌いなんだよ……めんどくさい」
「はいはい」
 そんな話をしていると、早々に茉莉の館に到着した。

 大抵は茉莉かアランの出迎えがあるのだが、なぜか入り口には誰もいない。
「珍しいわね」
「勝手知ったる、なんだからいいでしょ? 入っちゃおうよ」
 ケロッとして言うサラに、本日二度目の呆れた視線を向けた。
「あなた……いつも勝手に入ってるの? いい加減、その態度を改めたら?」
「私の本性、知ってるでしょ。この方が都合がいい」
「……そう」
 この子の真っ黒な腹の中で、一体、どんなことが渦巻いているのかなど、欠片も分からない。
 ただ、無邪気の裏に隠された冷たい表情が、久々に垣間見えたような気がした。

 二人で館に入ると、中はずいぶんと荒れていた。
「治療薬はまだか!」
「今、他領に手配してる!」
「とにかく、治癒能力があるやつ、片っ端から呼んで来い!」
「墓場から、さらに二名の重傷者確認! 一人は内臓がぐちゃぐちゃに――」
「やめろ! 分かったから、そういう表現はやめろ……」
 吸血鬼領の医局員が全員揃っているのではないか、そう言えるほどの騒ぎだった。
 私やサラの訪問にも気づかないなど、初めてのことだ。
「何……?」
「とりあえず、アラン君のこと探そう。あの子なら、何かしら知ってるでしょ」
 キョロキョロと辺りを見回していると、すごい勢いで全力疾走してくるアランの姿があった。
「お二人とも! 放置してしまい、申し訳ありません!」
 深く頭を下げ、息を切らすアラン。彼が取り乱す姿は、かなり珍しかった。
 しかし今は、そんなことを気にしている暇はない。
「私たちのことはどうでもいいわ。とにかく、何があったのか説明を――」
「アラン君。墓場で何があった」
 隣の、低く荒々しい感情の灯った冷たい声は、サラのそれとは思えないものだった。しかも、言霊まで使っている。これでは、茉莉や私以外では従うほかない。
「そ、れは、」
「何があったのかと、聞いている。アラン君、茉莉はどこにいる。――ここに来てからずっと、彼女の時計の反応がない・・
 彼女が取り出した首飾りについているぎょくには、他の宝物ほうもつを探知する力がある。無論、私が持つ根付けや茉莉が持つ時計も、同じ機能を持っている。
 ハッとして自分のものを取り出すと、確かに彼女の時計の反応だけがない。
 これは私たち三人が、それぞれ肌身離さず身に着けているもの。
 この宝物の反応がないのは、本人が近くにいないか、持ち主が死んだ・・・か。
「……」
「答えろ」
 こうなっては、もう止まらない。
 呆然と立ち尽くす私を放って、サラはアランの胸倉を思い切り掴んで引き寄せる。
 彼女は身内が荒事に巻き込まれたとき、他のことに目が向かなくなる。
「あの子は……茉莉は、どこにいる」
 目的の人物を、探し当てるまで。


  ~続く~




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