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童話:能も爪もない鷹

昔々、小さな村に「爪を隠す能ある鷹」という伝説が語り継がれていた。その鷹は、自分の力を見せびらかすことなく、必要なときだけ爪を振るい、森を支配していたという。村人たちはその教えを尊び、「強き者ほど控えめであれ」という言葉を何よりも大事にしていた。

村に住む若者、サトシはその教えに心酔していた。彼はなんの取り柄も持ち合わせていなかったが、「鷹のように爪を隠すことが村人としての理想の姿だ」と信じ込んでいた。そして、自分にも鷹のような「隠された爪や能」があると、次第に思い込むようになった。

村の危機
ある日、盗賊団が村を襲撃した。村人たちは恐怖で身をすくませ、誰もが「誰かがこの危機を救ってくれるだろう」と他人任せだった。そのとき、サトシが立ち上がり、大声で言った。

「私がこの村を守る!だが、今はその力を出すべきときではない!」
村人たちは驚き、そして少し安心した。「サトシには隠された爪と能があるのだろう」と期待を抱いたのだ。しかし、サトシには爪も能もなかった。ただ、伝説の鷹のように控えめに見せることで、何かを持っているかのように装っていただけだった。

嘘が暴かれる
盗賊のリーダーが村の中央に現れ、サトシに近づいて冷たく言った。「お前の爪と能とやらを見せてみろ。さあ、今だ!」
サトシはその場で凍りついた。頭の中では「自分は鷹のような力を持っている」と何度も言い聞かせていたが、現実は違った。その瞬間、村人たちの期待もサトシ自身の思い込みも、すべてが崩れ去った。

「爪も能も……最初からなかったんだ……」サトシは消え入りそうな声で告白した。

盗賊たちは大笑いし、村人たちもサトシに幻滅した。村は盗賊たちに荒らされ、サトシは笑い者となった。

後悔と再出発
サトシは盗賊が去った後、自分の行動を振り返り深く後悔した。「謙虚さを装うだけでは何も守れない。本当に必要だったのは、まず実力を磨くことだったんだ」と。
それからサトシは一から努力を始めた。村人たちのために学び、体を鍛え、少しずつ力をつけていった。そして数年後、彼は真の力を身に付け、再び村の前に立つことができた。


この物語のサトシは、「能ある鷹は爪を隠す」という考えを誤解し、自分を鷹のようだと思い込んでしまった若者の象徴です。真の謙虚さとは「実力があってこそ」成り立つものであり、その実力がないままでは、ただの虚飾に過ぎないという教訓を示しています。

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