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物語:餓鬼道

吉村悠人は、小学生の頃から「成功者になりたい」という夢を抱いていた。テレビや雑誌に映る成功者たちは皆、高級車や大邸宅、美しいパートナーを持ち、輝いて見えた。彼の中では「お金」がその輝きの鍵だった。

「お金さえ手に入れれば、僕の人生は完璧になる」と信じ、悠人は地道に努力を重ねた。大学では奨学金を得ながら必死に勉強し、卒業後は有名な外資系企業に就職。激務の日々を耐え抜き、30代半ばには念願の高収入を得るポジションについた。

ようやく、夢見た「お金」を手に入れた悠人は、長年の努力が報われたと感じた。そして、ずっと憧れていたスポーツカーを購入し、都心の高級マンションに引っ越し、海外旅行に行く生活を始めた。しかし、数ヶ月もしないうちに、彼の心は奇妙な空虚感に包まれるようになった。

金銭的な成功を手に入れたはずなのに、期待していた幸福感が訪れない。むしろ、以前より孤独を感じる瞬間が増えた。マンションの広いリビングで一人テレビを見ながら、彼は思った。

「お金を手に入れたはずなのに、どうして心が満たされないんだろう?」

悠人はその後も、満たされない理由を探し続けた。もっと高級な車を買えば変わるのではないか、高級クラブで人脈を広げれば何かが変わるのではないか、と。しかし、どれも一時的な満足しかもたらさなかった。

そんなある日、大学時代の友人、佐藤亮太からの連絡があった。彼は地方で小さな工房を営み、手作りの家具を販売している。収入は多くないが、彼の声はどこか温かく、落ち着いていた。久しぶりに再会した亮太は笑顔で言った。

「悠人、お前は相変わらず忙しそうだな。でも、なんだか少し疲れてるように見えるよ。俺たち、大学の頃はもっとしょうもないことで笑ってたよな。」

亮太との再会をきっかけに、悠人はようやく気づく。「自分が本当に欲しかったのは、お金や物ではなく、充実した人間関係や心の豊かさだった」と。そして、それを手に入れるには、もっと早い段階で自分の価値観を見直す必要があったのだ。

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