幼稚園の年長さんから出された難問「心ってなに?」
2019/04/28
みかさんから質問いただきました。
Q:保育士をしている20代女です。
年長クラスを担当しているのですが
この間とある女の子から唐突に
「みか先生
『こころ』
ってなあに?」
と聞かれました。
その時私は
一生懸命考えたんですけど
結局答えが出ず
「逆になんだと思う?」
と
年端もいかない女の子に対して
質問に質問で返すという
なんとも大人気ない事をしてしまい
大変な後悔をしています。
ネットで調べてみても
なかなか年長の女の子に
スッと答えられるような内容が
見つからなくて困ってます。
いちかわさんだったら
なんて答えますか?
めんどくさい質問でごめんなさい。
A:みかさんこんにちは。
なんともホッコリする
情景ですね。
かわいくて
子供らしい純粋無垢な
質問ではありますが
確かにみかさんの仰る通り
答えるのが難しい質問だなと
僕も思います。
年長さんというと
おそらくどんなことも
ぐんぐん吸収していく
時期でもありますので
そうなると余計に
中途半端な答えは
できませんよね。
かといって年長さんに
「心とはなにか」
をわかりやすく伝えるのも
これまた難しい問題です。
哲学者ですら
答えに悩む内容ではありますが
今回は僕が昔
知り合いから聞いた実話を
小説風にアレンジした物語を
ご紹介したいと思います。
参考になるかはわかりませんが
「心とはなにか」
を考える上で
非常に大切なエッセンスが
ちりばめられていると思いますので
少し長いですが
最後まで読んで下さると嬉しいです。
「大事な大事なあなたのために」
あるところに、一組の母子家庭がありました。お母さんには6歳になるくみちゃん(仮名)という娘さんがいて、そのくみちゃんのことをお母さんはとても大切に育てていました。
お母さんはくみちゃんを立派に育てるために、近くのスーパーでパートをしているのですが、お金をたくさん稼ごうと思っても、お母さんはもともと病弱なためあまり長時間働くことができません。
そのせいか食卓に豪華なごちそうを並べることができず、いつも食パンのみの朝ごはんと、夕ご飯はお味噌汁に漬け物とごはん、たまにたまご焼きが数切れ並ぶだけでした。
それでもくみちゃんはお母さんが大好きだったので、どんなに質素なごはんでもお母さんと一緒に食べられるだけで幸せでした。
そしていつもくみちゃんは幼稚園の帰りに、いつも頑張ってくれてるお母さんのために道端に咲いているお花を摘んで持って帰り、お母さんいつもありがとうと一言添えてお花をプレゼントしていました。
その度にお母さんは胸が熱くなって、感動の涙をこぼしながらくみちゃんを抱きしめ、どんなに私が病弱でも、この子のことは一生守りきるんだと心に誓うのでした。
しかしそんなお母さんも無理がたたったせいか、仕事中にフラフラと貧血をおこして倒れてしまいました。
お医者さんに見てもらったところ、栄養失調が原因とのことです。
というのもお母さんは、不憫な思いをさせてしまっているくみちゃんにせめてご飯だけはたくさん食べてもらおうと、自分の分を減らしてくみちゃんに多くごはんをよそっていたのです。
そしてもう一つ、お母さんには自分のごはんを減らしている理由がありました。
それは数日後にくみちゃんが通う幼稚園で遠足があるのですが、その遠足をくみちゃんにめいっぱい楽しんでもらおうと、この日だけは持っていくお弁当のおかずも豪華なものにしてあげたいと思い、そのおかずを買うためにお母さんは一生懸命節約をしていたのです。
職場で倒れた後、しばらく家で安静にしていたお母さんでしたが、よほどひどい状態なのかなかなか体力が戻りません。
そうこうしているうちにくみちゃんの遠足は明日に迫っていました。
こうしてはいられない、とお母さんはふらつく足で自分が働いているスーパーまで買い物に行きました。
お母さんが買い物をしていると、仕事終わりに買い物をしていたパートの先輩に偶然会いました。
「あら、顔色はまだ悪そうだけどもう体調は大丈夫なの?」
と心配した先輩はお母さんにそう声をかけます。その先輩にお母さんは
「まだ本調子ではないんですけど、明日は娘が遠足なので、せっかくだから美味しいものを食べさせてあげたくて買い物に来たんです。本当は手作りが良かったんですけど…」
そう言いつつ買い物かごに視線を落とすと、そこには冷凍食品のハンバーグとコロッケが入っていました。
それを見た先輩は
「あら、そうだったのね」
と言ってお母さんの買い物かごにあったハンバーグとコロッケをとり、そのままレジで精算をして、お会計が済んだ冷凍食品のおかずをわざわざ袋に入れてお母さんに渡してくれたのです。
「そんな、悪いです」
とお母さんは代金を支払おうとするのですが、先輩は
「いいのいいの。いつも頑張ってくれてるし。娘さんの遠足、これで楽しんでもらえるといいわね。浮いたお金でなにか栄養になるもの食べてちょうだい」
と言ってその場から立ち去っていきました。
見送る先輩の背中に向かって「ありがとうございます」と小さく言って、お母さんは帰路についたのでした。
家に帰ってきたお母さんはお弁当作りと夕食の準備にとりかかります。
ですが本調子ではないまま買い物に行ったせいか、だんだんと具合が悪くなってきました。
目眩で足元もおぼつかず、頭は首で支えるのがやっとな程重く、まるでボーリングの玉のようです。
それでもお母さんはなんとか頑張ってお弁当と夕食を作り終えることができました。
しばらくすると、遊びに行っていたくみちゃんがいつものように外で摘んできたお花を持って帰ってきました。
「おかえり」
「ただいまー」
返事をしながらも、くみちゃんはお母さんの声にわずかばかりの異変を感じました。
「お母さん、具合悪いの?」
「ううん、大丈夫よ。さ、ご飯にしましょう」
娘に心配をかけさせてはいけない。フラフラな身体をなんとか抑えてお母さんは気丈に振る舞います。
しっかりしなきゃ。この子を守ってあげられるのは私だけなんだから。
そう心の中で固い決意をしながらお母さんがごはんをよそっていると、背後から小さい手が伸びてきて
「お母さん、いつもありがとう」
と言いながらお母さんの頭を撫で始めました。
「くみちゃん、こちらこそいつもありがとうね」
涙で声が震えているお母さんの頭を、くみちゃんはいつまでも撫でていました。
そして遠足当日の朝。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
元気に家を出るくみちゃんを笑顔で送り出したお母さんでしたが、実は昨日から体調が回復していません。
くみちゃんに心配をかけないように頑張って笑顔をつくっていましたが、本当は立っているだけでもやっとの状態。
そしてとうとう、お母さんはくみちゃんを見送った後そのまま玄関で意識を失ってしまったのです。
お母さんが倒れてしまったことなど知らないくみちゃんは、近所の大きい自然公園で遠足を楽しんでいました。
そしてお昼時。
風が心地よく通り抜ける広場で、くみちゃんたちはお弁当を食べることにしました。
園児たちが各々持ってきたレジャーシートを広げ、みんな美味しそうにお母さんがつくってくれたお弁当を食べています。
しかし、その中でひとりだけぽつんと隅っこの方でお弁当を食べずに遊んでいる女の子がいました。
どうやらその女の子の家庭も貧しいらしく、お弁当が用意できなかったみたいなのです。
その女の子の様子が少し寂しそうだなと思ったくみちゃんは
「一緒に食べよう?」
と声をかけました。
でもその女の子は
「わたしお弁当ないからいいよ…」
と小さい声で遠慮します。
それを聞いたくみちゃんは
「だったらわたしのを半分あげる!」
と優しく手を引っ張ってその女の子をくみちゃんの仲良しグループの輪に連れていきました。
お弁当の中からハンバーグとコロッケと玉子焼きを一切れずつおすそわけしているくみちゃんを見ていた他の子たちも
「お弁当ないならわたしのもあげるよ!」
「僕のもあげる!」
「わたしのも!」
「僕のも!」
と、みんな自分のお弁当からタコさんウインナーやから揚げ、おにぎりなどを少しづつわけはじめたのです。
そうやってお弁当がなかった女の子の手元には、あっという間にたくさんのおかずやおにぎりが集まりました。
その女の子は目をうるうるさせて「みんなありがとう」と言い、お弁当を口に運びます。
くみちゃんは「美味しい美味しい」と言いながらお弁当を食べるその女の子の笑顔を見て、なんだかとても胸があったかくなるのを感じました。
お弁当を食べ終わったあと、くみちゃんがいつものようにお母さんへのお礼としてお花を摘んでいると、さっきお弁当をおすそ分けした女の子がやってきて
「さっきはありがとう。すごく美味しかった!ごちそうさま!」
と言いながらくみちゃんにちっちゃな花束をプレゼントしてくれたのです。
それはその女の子が、お弁当をわけてくれたくみちゃんにお礼として摘んできてくれたものでした。
くみちゃんは「ありがとう」と言って、いつもよりもちょっと大きい花束を持って、自分とこの女の子の二人分のありがとうをお母さんに届けようと思いました。
遠足が終わったくみちゃんは、お母さんがつくってくれたお弁当がきっかけでみんなを笑顔にできた今日のお話を早くしたくて、幼稚園のバスを降りた後、一目散にお家に向かって走り出しました。
そして玄関を開けて大きな声で
「お母さんただいまー!」
と叫びますが、返ってくるはずのお母さんの声が聞こえません。
「おかあさん…?」
くみちゃんは不思議に思って家の中を探しますがお母さんはどこにも見当たりません。
すると、お隣に住む顔なじみのおばさんがやってきて、くみちゃんのお母さんは病院に運ばれたと言いました。
どうやらお隣のおばさんが回覧板を届けに来たところ、お母さんからの返事が全くなかったので、心配になって玄関を開けたらお母さんが倒れていたからすぐに救急車で病院に連れて行ってもらったとのことでした。
幸い命に別状はなく、数日入院して休養をとればすぐに退院できるようです。
それでもお母さんが心配なくみちゃんは、そのおばさんと一緒にお母さんが入院している病院にお見舞いに行きました。
病室に入るなり
「お母さん大丈夫?」
と言いながらくみちゃんはお母さんに向かって飛んで行きました。そんなくみちゃんを抱きしめながらお母さんはお隣のおばさんに何度も頭を下げながら
「この度はなんとお礼をいったらいいか…」
お母さんが丁重にお礼を言っているとお隣のおばさんは
「いいのよ気にしないで。それより何事もなかったみたいで本当に良かったわ。入院している間くみちゃんは私が面倒見るから、これを機にゆっくり休みなさい」
と言ってくれたのです。
「しかしそこまでご迷惑をおかけするわけには…」
お母さんはおばさんからの厚意に恐縮至極といった様子だったのですが、おばさんはそんなお母さんの肩に両手をあてて
「大丈夫だよ」
と言うように軽くポンポンと両肩を叩き
「お茶淹れてくるわね」
と病院の給湯室に行ってしまいました。
数分後、三人分のお茶をお盆に乗せて戻ってきたおばさんは、一口お茶をすすったあと、自身の子供の頃の話を始めました。
「実は私も母子家庭でね。遅くまで働いてる母親を見ながら育ったからあなたの苦労はとてもよくわかるのよ。それで、私が小学生の頃だったかな、母親がケガをして入院したことがあったの。その時もこうしてお隣さんがひとりになったわたしの面倒を見てくれて、一緒に遊んでくれたりもした。そして後日退院した母親が菓子折り持ってそのお隣さんにお礼に行ったらそのお隣さんがね、『お礼は気持ちだけで十分。でもその代わりもし今後あなたのまわりで困ってる人がいたら、今回と同じようにあなたもその人のことを助けてあげてほしいの』って言ってくれたんですって。私は母親からその話を聞いて、それを今日行動に移してるだけなの」
胸を打つ温かいお話にお母さんは終始涙を浮かべ、お隣のおばさんに何度も頭を下げながら「ありがとうございます」と「すみません」を繰り返していました。
~二十年後~
その後くみちゃんは立派な大人に成長し、今ではシングルマザーを支援する団体で一生懸命仕事をしています。
子供のころから「お母さんのために」という気持ちを持っていたくみちゃんは、お母さんを病気で亡くした後も「世の中の頑張っている全てのお母さんのために」という強いポリシーのもと、様々な事情で辛い思いをしているお母さんたちに今日も全力で向き合っています。
「支え合い」「助け合い」「人を想う気持ち」
一見とても
ハートフルな親子愛を描いた
物語のように思えますが
僕がこの話を聞いた時は
「温かい人の心」
が随所に見られる
とても素敵なお話だなと
思いました。
くみちゃんを立派に育てたい
というお母さんの想い。
そのお母さんに
いつもありがとうと
お花を摘んでくるくみちゃん。
お母さんに
冷凍食品を買ってあげた
パートの先輩。
最悪な体調なのをおして
くみちゃんに
遠足を楽しんでもらうために
頑張ってお弁当をつくったお母さん。
遠足でお弁当がない女の子に
躊躇なくおかずやおにぎりを
おすそわけした
くみちゃんとそのお友達。
倒れていたお母さんを助け
入院している間も
くみちゃんの面倒を見てくれた
お隣のおばさん。
みんなが
誰かのことを想っていて
困っている人がいれば
当たり前のように
支え助ける。
こうした
「支え合う気持ち」
「助け合う気持ち」
「人を想う気持ち」
これらを生み出す
原動力になっているのが
「その人の心」
ではないかなと僕は思います。
なのでみかさんも
その女の子が
まわりのお友達に対して
優しくしてあげてたり
親切にしてあげてる場面を
見かけた際は
「それが『人の心』だよ」
「その心をずっと大事に
持ち続けていてね」
と教えてあげてみてください。
きっと素敵な女性に
成長してくれるはずです。
おしまい。
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