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僕の恋人

〜愛しい人よ、泣かないで〜④



ある晩のこと。
美沙子は帰ってこなかった。
どんなに遅くなってもこんな事は一度もなかった。

夕方電話が鳴った。
僕はあの男だとすぐにわかった。
例の年下の男、美沙子が心から愛した。
いったん身を引いたと思ったが、美沙子には想いが断ち切れなかった。


いつも「行ってきます」「ただいま」のキスを
してくれるのにその晩は違った。


「でも、断ったはずよ!うん、うん、、、わかったすぐ行く」と。
美沙子は「すぐ帰ってくるから」と言い、せきをきったように出ていった。


僕はいつものように玄関の扉の前でしばらく待っていた。
でも僕はそのうち諦めた。


美沙子が幸せになってくれるのであれば、僕は、、、、

猫は泣かないなんて誰が決めたのさ。
いつもの夜なのにとてもとても長く感じた。


美沙子が帰ってきたのは、もう東の空がオレンジ色に染まり始めていた。


ベッドの隅で丸くなってる僕をそっと撫でながら、美沙子はつぶやいた。


「ユウタごめんね」


その手のひらは冷え切っている。

そして大きく深呼吸した後にっこりと微笑んで
小さな声で美沙子は言った。

「もう大丈夫だからユウタ、美沙子はもう大丈夫だから」
それはまるで自分に言い聞かせるように。

にっこり微笑んだつもりだろうが、その大きな瞳から温かい水が溢れた。

涙っていうんだろ、、、美沙子無理するな。

「もう大丈夫だから」と美沙子は僕をぎゅーと抱きしめた。
温かい涙の粒をポロポロとこぼしながら、
温かい、温かい涙だった。

もう、大丈夫なんだね。美沙子。
僕も大きく深呼吸して、美沙子の暖かい胸に、
深く身を沈めた。


美沙子はまた僕をぎゅっと抱きしめて大きな声をあげながら泣いた。


美沙子美沙子、、、僕がそばにいるから。


続く。


kaoruko_days

皆様今日もお疲れ様でした。
ゆっくりおやすみください。
また明日お会いしましょう。








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