🇺🇸政治学者の言葉を引用する。「"自然は真空を嫌う"ように、米国が国際秩序を形作る役割から手を引けば中ロが代わりに出てくる」と。 トランプリスクは、米国有権者だけでなく、世界中を巻き込む。それは任期4年だけの懸念ではない。

アメリカが国際秩序における主導的役割から後退することが、どのように世界情勢に影響を与えるかを考える際、政治学者の言葉「“自然は真空を嫌う”」はその現象を象徴的に表しています。この言葉は、もしアメリカが手を引けば、その影響力が消滅するのではなく、代わりに中国やロシアといった他の大国がその空白を埋めようとする現実を示唆しています。これは単なる理論に留まらず、現実の国際政治における権力の移動として理解することができます。アメリカが果たすべき役割を放棄すれば、その空白は自然に埋められるものであり、その結果、新しい秩序や力のバランスが生まれます。トランプ政権下で顕著に見られた孤立主義的な政策や多国間協調からの脱却は、この真空を生み出し、現代の国際関係に深刻な影響を及ぼす要因とされています。

トランプリスクの本質は、単にアメリカ国内の有権者に留まらず、全世界に波及するものであり、それは彼の政策の影響力がアメリカ国境を越えて広がっているからです。例えば、彼の任期中に行われたパリ協定からの脱退やNATOへの批判的な姿勢、さらには多くの貿易協定の再交渉は、国際社会全体に混乱と不確実性をもたらしました。これらの行動は、アメリカがこれまで築き上げてきた国際秩序や同盟関係を脆弱化させるものであり、それにより新たな秩序を模索する国々の行動が活発化しました。たとえば、中国は「一帯一路」構想を通じて、アジアからヨーロッパに至るまでの多くの国々と経済的な結びつきを強化し、影響力を広げています。また、ロシアも中東や東欧での影響力拡大を狙い、アメリカの後退を利用して自国の権益を追求する姿勢を見せています。

このように、アメリカの国際秩序における役割の縮小は、特定の地域における安全保障上の不安定性を増大させるリスクも孕んでいます。アメリカが抑止力としての役割を果たしてきた地域、特に東アジアや中東においては、その影響力が後退することで地域的な緊張が高まる懸念があります。東アジアでは、中国の軍事的な台頭や台湾海峡での緊張が増す一方、日本や韓国といった同盟国は自国の防衛強化を迫られる状況にあります。また、中東地域においても、アメリカの介入が減少することで、イランやロシアが影響力を拡大し、不安定要因が増大する可能性が指摘されています。

さらに、トランプリスクの影響は、単なる4年間の任期に収まらないという点で深刻です。彼が一度大統領職を去った後も、彼の政策がもたらした影響や、それによって生まれた国際関係の変化は長期にわたって続く可能性があるためです。実際、トランプ政権下で生まれた「アメリカ・ファースト」の考え方や、それに基づく一国主義的なアプローチは、アメリカ国民の間でも一定の支持を集めており、次の大統領がどのような方針を掲げるにせよ、その影響が完全に払拭されるわけではありません。

特に重要なのは、アメリカが従来の同盟関係を軽視する姿勢が広がることで、同盟国が自らの安全保障を自国でまかなう必要に迫られる点です。このような流れが強まれば、世界各国はますます独立した防衛政策を追求することになり、その結果、軍拡競争が激化する可能性が高まります。これは、冷戦時代の「多極化」のような状況を再び生み出し、地域的な衝突が頻発するリスクを内包しています。特に核保有国が増えるリスクも無視できないため、国際社会全体での安定維持がより困難になることが予想されます。

アメリカ国内においても、このようなトランプリスクの影響は国際問題だけにとどまらず、国内の分断を深める結果を招いています。彼の政策は支持者と反対派の間での対立を激化させ、アメリカ社会に深刻な分断をもたらしました。この分断は、国内の政治的安定に影響を与えるだけでなく、その影響が外に漏れ出すことで、アメリカのリーダーシップが揺らぐ原因となり得ます。もしアメリカが国内の統一を保つことができなければ、他国がそれを見逃すことはないでしょう。これは「“自然は真空を嫌う”」現象が、アメリカの国内外で起こり得ることを示唆しています。

トランプ政権が生み出した政治的・社会的影響は、次の政権に引き継がれ、将来的なアメリカの外交政策に長期的な影響を与える可能性があります。

自己責任の時代――その先に構想する、支えあう福祉国家