11/1モーサテ プロの眼👀 🇺🇸トランプ関税 ソリブンリスクへの影響
BNPパリバの中空麻奈氏が昨年示した分析で、「トランプ関税」とその波及効果に対する予測が85%の的中率を記録しました。この精度の高い予測力は、トランプ前大統領が推進した関税政策が世界経済に及ぼした影響を捉えたことにあります。以下、各項目の詳細な説明を行います。
1. トランプ関税とソブリンリスク
トランプ政権は中国を中心に関税を引き上げ、これが米国の財政政策や国際関係に影響を与えました。以下の点で問題が指摘されています:
• 減税延長・拡大と財政赤字
トランプ政権は法人税の減税を延長・拡大し、一方で関税を強化する政策を同時に行いました。これにより米国の財政赤字は拡大し、対外的なソブリンリスク(国家信用リスク)への懸念が高まりました。特に、赤字の増大により国際金融市場での米国の信用が疑問視され、結果として米ドルへの信頼に影響を及ぼす可能性がありました。
• パリ協定からの離脱とグリーン分野への圧力
トランプ政権はパリ協定から離脱し、環境政策よりも国内産業の保護を優先しました。これは、グリーンエネルギーへの投資促進を抑制する圧力として作用し、国際的な環境政策と逆行する動きとなりました。この結果、各国との環境政策の整合性が取れず、外交的にも孤立するリスクを抱えました。
2. 関税の直接的および間接的影響
トランプ政権は、世界全体に対して10%の関税、中国に対してはさらに高い60%の関税を課しました。
• 世界全体の10%関税:輸出を通じた直接的影響
この関税政策は、米国との貿易依存度が高い国に対して直接的な悪影響をもたらしました。多くの国が輸出依存度の高さから米国への依存を減らす必要に迫られたため、輸出が停滞し、経済成長が抑制される結果となりました。
• 中国に対する60%の関税:間接的影響(グローバルバリューチェーン)
中国に対する60%の関税は、グローバルバリューチェーン(国際的なサプライチェーン)を通じて世界各国に影響を与えました。多くの製品が中国で生産され、他国に輸出される流れがあったため、これにより各国の企業が間接的に影響を受け、輸出コストが上昇し利益が減少する結果となりました。
3. 関税の直接的な悪影響を受けた国
中空氏の分析では、以下の国々が関税による悪影響を直接的に受けたとされています:
1. ベトナム
2. 台湾
3. タイ
4. シンガポール
5. 韓国
6. マレーシア
7. インド
8. インドネシア
9. フィリピン
これらの国々は米国との貿易依存度が高く、また、中国からの原材料や部品の輸入にも依存しているため、関税の影響が直撃しました。特にアジア諸国は、米国市場への輸出が経済の重要な要素であるため、関税が経済成長に対する抑制要因となり、輸出収益が減少する形で経済に悪影響を与えました。
4. インフレとスタグフレーションのリスク
中空氏は、これらの関税政策がインフレを加速させ、最終的にはスタグフレーション(物価上昇と経済停滞が同時に起こる状態)につながる可能性を指摘しています。関税の影響で輸入品のコストが上昇し、国内での物価が高騰する一方、経済活動の停滞により企業の生産が抑制されることで、物価は上がるが景気は悪化するスタグフレーションのリスクが生じました。
5. 初期のネガティブ効果
この分析によると、関税政策の初期段階で、すでにネガティブな影響が顕在化していました。アジア諸国では特に、輸出収益の減少、グローバルサプライチェーンの混乱、輸入コストの上昇などの要因が同時に発生し、景気に悪影響を及ぼしました。6. 関税政策による長期的な影響
中空氏は、トランプ関税が一時的な措置ではなく、長期にわたる経済の構造的変化を引き起こす可能性があると指摘しています。以下、長期的な影響について詳しく説明します。
• サプライチェーンの再構築
米中貿易摩擦の影響で、各国企業は中国からの依存度を減らし、新たな供給ルートを確保するためにサプライチェーンの再構築を進めています。東南アジア諸国やインドが新たな生産拠点として注目され、製造業の一部がこれらの地域へ移転していますが、移行には多額のコストと時間がかかります。結果として、短期的な生産コストの上昇が避けられず、最終的な製品価格に影響を与える要因となります。
• 保護主義の加速と貿易協定の見直し
トランプ関税を契機に、各国では保護主義的な政策が強化される傾向にあり、国際貿易ルールの見直しが進んでいます。特に、米国が主導する関税政策は、他国にとっても自国産業の保護を考慮する動機となり、自由貿易の促進に逆行する動きが見られました。この影響で、貿易協定の再交渉が増え、多国間の経済協力が縮小するリスクが高まっています。
7. グリーンエネルギー分野への抑制と世界的な反発
パリ協定からの離脱と、従来の産業を保護するトランプ政権の姿勢は、環境対策への国際的な協調において大きな障壁となりました。
• 環境技術の普及遅延と競争力の低下
米国の環境対策への消極的な姿勢により、他国は脱炭素社会に向けた投資を躊躇する傾向が生まれました。これにより、グリーンエネルギー分野の技術革新が遅れる懸念があり、米国企業の競争力低下にもつながりかねません。また、欧州やアジアの国々は、環境基準を独自に強化する動きを見せ、米国との経済的な競争が一層激化しています。
8. 経済政策の限界と国際問題化のリスク
トランプ関税の影響で米国内の経済問題が増幅されるとともに、それが国際的な政治・経済問題に発展するリスクも懸念されています。
• 財政赤字とドルの信頼性への影響
減税と関税政策の併用により、米国の財政赤字は拡大し、ドルの信頼性が揺らぐ事態が生じました。もし米ドルへの信頼が低下すれば、ドルベースの貿易取引に依存する国際経済が大きな影響を受けるため、ドル安が進行し、貿易摩擦が深刻化する可能性があります。
• 米国と他国との外交的摩擦
トランプ関税により、米国と他国との経済的な緊張が高まりました。特に中国との摩擦は深刻で、貿易戦争の激化が国際的な政治的対立を招き、地政学リスクの高まりを引き起こす要因となりました。また、関税政策による圧力が各国の外交戦略に影響を与え、米国の影響力が低下する可能性が懸念されています。
9. 中空氏の分析と的中の背景
中空麻奈氏の85%的中率は、トランプ政権の関税政策がもたらす影響を多角的かつ的確に予測したことに起因します。氏は、財政政策の影響、国際的なサプライチェーンへの波及、グリーンエネルギーへの影響、そしてスタグフレーションのリスクといった多様な要素を包括的に考慮し、分析を行っていました。
10. 経済的影響と未来への展望
今後の展望として、トランプ関税の影響は米国内外に多大な影響を与え続ける可能性が高いです。バイデン政権が今後、関税政策や環境政策においてどういった修正を行うかが注目されていますが、既存の保護主義やサプライチェーンの再構築が進んでいる状況で、元の状態に戻るには相当な時間が必要と考えられます。
また、スタグフレーションのリスクが現実のものとなれば、米国を中心とした先進国経済は長期にわたって景気停滞と物価上昇に直面し、厳しい経済状況が続く可能性も否定できません。
中空氏の予測が示すように、関税政策の影響は一国の問題にとどまらず、グローバルな経済と政治の枠組み全体に広がるリスクであることが再認識される必要があります。