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C’est très bon !#3
放課後の鐘が鳴り響くと、教室内が急に活気づき、友達と話す声があちこちから聞こえてきた。
「やっと授業おわったー!」と天が大きな声で叫び、のびをしながら机に突っ伏す。「今日もさっぱり分からなかった!」
「そんなこと、あんまり大きな声で言わないの(笑)」と夏鈴が苦笑いでツッコむ。
その横で○○はそそくさと片づけをしているのを見て、天が怪訝そうに眉をひそめる。「○○、もう帰るの?今日は夏鈴のこと待たないの?」
夏鈴は吹奏楽部に所属していて、部活が終わる時間も遅い。それに対して○○は帰宅部だが、帰り道が同じため、毎日部活が終わるまで夏鈴を待って一緒に帰っている。しかし今日の○○は、いつもの様子と少し違っていた。
夏鈴も不思議そうに聞いた。「帰っちゃうの?」
「今日は麗奈に誘われたから家庭科部にお菓子作りに行くんだ」
その言葉に、夏鈴は表情を曇らせる。「…」
天が笑って○○を茶化す。「いけいけ!さっさとクッキーでもなんでも焼いて来い!」
○○も笑いながら、「なんだよ冷たいな~」と返し、ふと夏鈴の方に視線を向けて言った。「夏鈴、終わる時間が近かったら一緒に帰ろう?駐輪場で待ってるよ!」
「うん!」夏鈴の顔がぱっと明るくなると、天がその様子を見て微笑んだ。「夏鈴は分かりやすくてかわいいな」
その後、○○は家庭科室に向かい、ドアを開けて明るい声で挨拶する。「おじゃましまーす」
すると、家庭科部の女子部員たちが温かく迎えてくれた。リーダー格の麗奈が目を細めながら口をとがらせて言う。「もう~遅いよ~!忘れられたと思った」
「ごめん、片づけに時間かかっちゃってさ。で、今日は何作るの?」○○が笑顔で尋ねる。
「今日は甘ーいお菓子作りだよ♪」麗奈が目を輝かせて告げた。「私は○○のために作るけど、○○は?」
○○は少し考えてから答える。「そうだな、このあと夏鈴に会うから、夏鈴のために作ろうかな。部活終わりでお腹すいてるだろうし、できるだけお腹にたまるものがいいな」
麗奈は唇を軽く尖らせて、「もぅ!そんなこと聞いちゃうとヤキモチ焼いちゃうな~!」と冗談めかしながらも、すぐに思い直したように提案した。「じゃあ、マフィンとかどう?食べ応えあるし、甘さも調節できるよ」
「いいね、それでいこう!できるだけ大きめで作るよ。材料見せて」
「じゃーん、今日はたっぷり用意してあるんだよ~!」麗奈が誇らしげに手を広げて見せたそこには、チョコレートや果物、砂糖、粉類など、材料がたくさん並んでいた。
○○は、棚の奥からチェリーを見つけて手に取った。「これ使おうかな」
麗奈が首を傾げながら尋ねる。「チェリーマフィンにするの?」
「うん。部活終わりだし、甘すぎるより少し酸味があった方が食べやすいだろう」
「さすが○○、考えがちゃんとしてるなぁ!でも時間は2時間しかないから、急ぐよ!」
麗奈と他の部員たちと一緒に、○○はさっそく調理に取りかかる。
調理に集中して約1時間が経ち、○○のチェリーマフィンがようやく焼き上がった。
「できた!!チェリーマフィン!」と○○が満足げに焼きたてのマフィンを見つめると、麗奈がすかさず近づいてきた。
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「美味しそう!一口食べさせて!」と期待に満ちた声を上げるが、○○はそれをさらりとかわす。
「ダメだよ(笑)これは夏鈴のために作ったんだから」
麗奈は口を尖らせて、「ちぇ〜、けち〜!じゃあ、私が作ったお菓子を食べてよ」と、今度は少し拗ねた声で提案してきた。
「食べたい!」と○○がすぐに応えると、麗奈は笑顔で「座って待ってて」と言って準備に取り掛かった。間もなく麗奈はお皿を持って戻ってきた。
「お待たせしました〜、『カヌレ・オ・ミエル』で〜す。伝統的な本場の味を大切にして、ヴァニラビーンズとラム酒の香りを活かした、香り高い大人のフランス菓子を目指してみたの」と誇らしげに説明する麗奈の顔が輝いている。
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「おお〜!美味しそう!いただきます!」と○○は大きく口を開けてカヌレにかぶりついた。
「どう??」麗奈が期待に満ちた表情で聞くと、○○は満足そうに頷き、「うまいよ!甘味に蜂蜜を使ったんだね」
「そうなの!さすが○○、気づくね〜!」と麗奈が嬉しそうに笑う。「ズバリ点数つけるなら?」
「うーん、89点かな」
「ええー、なんで?」と少し不満そうに麗奈が聞き返すと、○○は慎重に答えた。「味は本当に美味しかったし、蜂蜜のまろやかさも出ててコクがあったと思う。でも…ラム酒の香りが強すぎて、高校生の俺には少し大人の味がしすぎたかな。実は今日の朝、俺も夏鈴に似たような理由で減点されたばっかりなんだよ(笑)」
「は〜い」と、麗奈は口を尖らせて不満を表しつつも納得している様子だった。
ふと○○は時計を見て、「あ、やばい!夏鈴の部活がもうすぐ終わる時間だ!」と急に立ち上がった。「お邪魔しました!ありがとう!チェリーマフィンも多めに焼いたから、ぜひ食べて!」
慌ただしく家庭科室を後にする○○を見送りながら、麗奈はふと机の上に置かれた別皿に気づいた。そこには一口サイズのチェリーマフィンがいくつか盛り付けられていた。
「作ってくれるなら、最初からそう言えばいいのに(笑)」と、麗奈はくすっと笑いながら、ミニサイズのチェリーマフィンをひとつ手に取り、口に運ぶ。
「美味しい!しかも一口サイズだから、文化部の私たちにはちょうどいい…さすがだな、そういうことか…」と呟き、ほんのり赤いチェリーの甘酸っぱさに満足げな表情を浮かべる麗奈であった。