C’est très bon !#1
静寂に包まれた厨房で、○○は新作料理の仕上げに集中していた。気配すら忘れるほどに没頭する彼に、気づかぬ足音が近づいてくる。
「おーい…」か細い声で夏鈴が○○を呼んだが、彼は全く気づいていない。怒りを覚えた夏鈴は思い切ってドアを開け、静かな朝の空気を一気に破るように家に入ってきた。そして、○○の横に立ち、満を持して声を張り上げた。
「○○!来たよ!」
「うわ!びっくりした。」彼は大きく振り返り、驚いた顔を見せた。「なんだよ夏鈴、びっくりするじゃん。入ってくるときはノックしろよ。不法侵入で通報するぞ?」冗談交じりに笑う。
「ノックもしたし、名前も呼んだもん。無視されたんだもん。」夏鈴はむくれたように言い返した。
「そんな怒るなよ。」彼は笑いながら手を動かし、皿に料理を盛り付け始めた。「ちょうど新作できたから、食べるだろ?」
夏鈴は目を輝かせ、「当たり前じゃん。そのために朝ごはん食べずに早起きしてここまで来たんだから」と答え、待ちきれない様子で足をパタパタさせる。
「はい、お待たせしました。」○○は、彼女の前に丁寧に盛り付けた料理を差し出した。「鹿肉のロースト、セミドライピオーネのソースです。丁寧に火を通した鹿肉と、うちで作ったセミドライの葡萄をソースとして一緒にどうぞ。」
「いただきま~す!」夏鈴はナイフとフォークを持ち、真剣な表情で一口食べた。
○○は期待に満ちた目で尋ねた。「どう?」
夏鈴は少し考え込んでから、「うん。おいしいよ。この料理のポイントは?」と尋ねた。
「鹿のローストに添えるソースに、うちで取れた房ごとの種無しピオーネを使ってるんだ。オーブンで80度にして8時間かけてドライにするだけでこの風味が出せる。」
「8時間!?私のために8時間も?」夏鈴は目を丸くして驚いた。
「うん、そうだよ。」○○はあっさりと答えた。
夏鈴は少し照れながら、「へへへ。じゃあ、その気持ちも含めて100点です」と言って笑った。「セ・トレス・ボン!」
「なにそれ?」○○が不思議そうに尋ねる。
「フランス語で『おいしい』って意味だよ。」と夏鈴は答えた。
「じゃあ、気持ち抜きで料理だけの評価は?」
「85点かな。」彼女はいたずらっぽく笑った。
「その心は?」
「すっごくおいしかったし、葡萄を使うっていうのも○○らしくて面白かった。ただ、朝ごはんに鹿肉はちょっとヘビーかも。」
「なるほどな、女性が朝から鹿肉食べるのはなかなか珍しいよな。」○○は真剣にうなずく。「研究してみるよ、ありがとう。」
「でも、本当においしかったし、気持ちはすごくうれしかったよ。」
「ありがとう。でも、夏鈴にはもっとおいしいものを食べてもらいたいんだ。」
「うん、楽しみにしてる。」彼女が優しく微笑むと、ふと時計を見て顔色が変わった。「やばい!早く出ないと遅刻しちゃう!」
「ほんとだ!」○○はあわててエプロンを脱ぎ捨てた。「急いで行こう!」
二人は急いで自転車に飛び乗り、朝の涼しい空気の中を並んで学校へと向かっていった。