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23時軽井沢#1
夜の軽井沢は静寂に包まれていた。23時を過ぎると、まるで街全体が一斉に息をひそめるように、すべての店が閉じ、人気が消える。この静寂の中、井上和(なぎ)はまだ一人、旧軽井沢のギャラリーで作業を続けていた。彼女は念願だった個展を開いたばかりだ。
「こんな時間になっちゃったよ〜」和は時計を見ながら、疲れた声でつぶやく。時計の針はすでに23時を回っていた。「今日はこの辺で片付けて帰ろう。お父さんが心配しちゃう」そう言いながらも、彼女はふと噂を思い出した。
「23時以降に事件が起きる? 絶対嘘だよ、都市伝説だ、都市伝説…」自分に言い聞かせるように声に出す。ここ数ヶ月、23時の軽井沢で起きている謎めいた事件の噂が広がっていた。誘拐、殺人、放火、強盗。どの事件も共通しているのは「23時」という時間だけ。目撃者はおらず、すべてが謎に包まれていた。
その瞬間――
「バチン!」
ギャラリーの電気が突然消えた。
「きゃあ!」驚きに声を上げ、和は一瞬で冷や汗をかいた。暗闇の中で、心臓の鼓動が耳に響く。「何これ……ブレーカー落ちたのかな? でも今この建物に残っているのは私だけなのに…」
和は恐怖心にかられ、その場にしゃがみ込む。暗闇の中で、小さな音が響いた。
――コツ、コツ、コツ……
足音が近づいてくる。和の恐怖は頂点に達した。