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23時の軽井沢#15
事件現場を後にした〇〇と和は、旧軽井沢の通りに佇むおしゃれなカフェの前に立っていた。秋の冷たい風が頬を撫で、木々が色づき始めた軽井沢の街は朝の静けさに包まれている。カフェの看板には、洒落た字体で店名が書かれており、周囲に漂う温かいコーヒーの香りが、少しだけ和の緊張を解きほぐした。
〇〇がカフェを見上げながら尋ねる。「ここに池田さんが働いてるの?」
和は少し頷いて答えた。「うん、3ヶ月前に瑛紗と駅でたまたま会ったの。その時、このカフェでバイトしてるって言ってたのよ。あと、描いた絵もここで展示させてもらってるって」
〇〇は興味を引かれた様子で、「そうなんだ。池田さんもアーティストなのか」と言った。
和は微笑みながら答える。「うん、でも瑛紗の方が優秀よ。彼女は東京藝大出身だし、私とはレベルが違う。私は独学だからね」
その言葉に、〇〇は和の横顔をじっと見つめた。彼女が小さな頃から描いてきた絵を知っている彼には、和が自分の才能に自信を持てていないのが不思議でならなかった。〇〇は首をかしげながら、少し冗談めかして言った。「ふーん……まぁ、俺は絵のことはよくわからないけどさ、お前の絵、プロレベルだろ?」
しかし、和は自嘲気味に肩をすくめるだけだった。〇〇は内心、「昔からそうだよな」と思った。和は、どれだけ評価されても、自分の絵に自信を持てていない。アーティストとしての道を進む彼女を、〇〇は心の底で応援していたが、今の彼女の姿には少しだけ心配も感じていた。
〇〇は気を取り直して、「とにかく、早く中に入ろう」と促した。
和も頷き、「そうね」と答え、二人はカフェのドアを押して中に入った。
カフェの中は、朝早くにもかかわらず、静かな空間が広がっていた。壁には、いくつかの絵画が飾られており、その中に池田瑛紗の作品らしきものも見えた。柔らかな木漏れ日が窓から差し込み、絵画たちに穏やかな光を投げかけている。
〇〇は壁の絵を見上げながら、「これ、池田さんの絵か?」と和に尋ねた。
和もその絵を見つめ、静かに頷いた。「そう、瑛紗の絵……」
その時、奥から小柄な女性が現れた。掛橋婦警が連れて来てくれた瑛紗だった。だが、彼女の顔にはどこか怯えたような表情が浮かんでいた。