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友達から聞いた話を小説みたいにしてみた。前編
小学生の頃、夏の日は母親と一緒に里帰りをしていた。
木々に囲まれた家、自然に包まれた人間社会。まるで異世界にでも旅行に行くような、そんな気持ちで毎年が楽しみだったことを覚えている。今では絶対に行きたくないと、口酸っぱく母親に説き伏せているが。
それは小学五年の夏休み、K県S市にある祖父母の家に遊びに行った時だった。
立て付けの悪い玄関を開くと、せせこましい廊下でおばあちゃんがお椀を持って振り返って笑う。
「あらーいらっしゃい!おじいさん!きたわよ!!」
おばあちゃんの嬉しそうな言葉を聴いて、ドタドタ足音がかけてくる。 すると左の廊下から猟銃を持ったハゲ頭が現れた。
「おぉう!ようきたようきた!採れたて、血抜き仕立てのイノシシがとれてよー」
「おじいさん危ないから銃はしまいなさい!」
賑やかさに花が咲く。私の目の前で行われる全ての事が明るく、嬉しくて暖かい。この瞬間まではだ。
畳の上に置かた四角で背の低いテーブルに、おじいさんがとってきた猪肉ステーキとソーメンが並んでいる。
ミスマッチな献立も、おじいちゃんの家に帰ってきた感じがして好きだった。
「そう言えば最近ね…ここら辺で人がよく消えるのよ。」
おもむろに口を開いたのはおばあちゃんだ。こういうタイミングで聞き専に回るおじいちゃんが可愛い。
「よさんね。我が子らが怖がりよる。」
そう思ってたらおじいちゃんが思いのほか、強めに反論した。喧嘩にはならない事は知ってるが、さすがにバツが悪くて母が言葉を添えた。
「お父さん大丈夫よ。ウチの子怖がったりはせんよ。」
「ほなええが…」
「それでね。最近学校でも連絡があって、集団下校とかしてるのよ。怖いわぁこんな小さな田舎でまだ犯人も見つかってないのよ?」
口が閉じられないおばあちゃんは言葉をとめない。そんなことは正直どうでもよかった。なぜなら明日の朝から田中くんと遊ぶ予定なのだから。
冷たく喉越しの好いソーメンをすすって腹を満たせば、厚い布団にそそくさと潜り込んだ
暑い日差しをものともせず、若いくて細い体を晒す2人。毬栗頭で白いダルダルのタンクトップを着る田中くんは私の横でずっと笑ってる。
「いやー!!デカなったなぁ!!」
「1年でそんなかわらんやろ。何言うてんねん。」
「うわっ!関西弁のツッコミじゃ!」
オーバーなリアクションに安心する。各年過ごしても変わらない明るい田中くんの反応が私は好きだ。
「なぁ、ばっちゃからきいたか?」
田中くんは話題を振るのが下手だ。でも伝わった。
「聞いた。行方不明でたんやろ?」
「耳早いなー.…」
すると田中くんは俯いて、小さな口を恐る恐る動かした。
「おめーどうするン?」
「どうするって…早めに帰るとかくらいやないん?」
「ハァッ!!?!」
その瞬間、田中くんが僕を押し倒して叫んだ。
「山ちゃんいなくなってそれか!!この薄情もんが!!!」
「_____え?」
聞いてもない新ワード。山ちゃんとは私達の同い年になる男の子のことで、夏帰ってくればどこかで会って遊ぶ。これが夏の恒例行事なのだが、確かにきょうはみてなかった。
「おめ、しらんかったとや?」
「うん。」
「そら、悪かった…」
それだけ言うと田中くんは、僕を押し倒したまま黙って動かなくなった。
空に見える太陽で顔が影で埋まる。だが手が震えていた。しとしとと頬に落ちてくる水滴が雨じゃないことくらい子供心でもわかった。
「山ちゃんな…最後にコレ使って…助けを求めてた…俺怖くてなんも出来んくて…」
泣きながら手に持っているのは、小さくて黄色い無線機だった。
私達が一生懸命貯めたお年玉で買った本物の無線機だ。遊ぶ時はこれをよく使って鬼ごっこしたりしてる。それがまさか救難信号を拾ってしまうとは。
私はポケットから無線機を取り出して、田中に見せつける。すると田中の鳴き声が止まった。だから言ってやった。
「俺らで、助けに行こう。」
19時を回った。夜の静かな森を前に、僕と田中は棒立している。