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1999年から2003年までの阪神タイガース その㊵

はぁ、またか。
一本遅いのに乗れば良かったなぁ。

サラリーマンが大きくため息をついた。

車内がざわつく。
おばちゃんが笑う。
青年は呆気に取られる。
若者が笑いながらこちらを指差している。


タイガースファンの風物詩。

電車のドアが閉まった瞬間。
それはスタートする。

さっきまでホームで駅員の監視を遮り、
「いい子」を演じていた阪神ファンのスイッチが再びオンとなった。

タイガーがマントを靡かせ、鉄柵に登る。
集団の黄色と白のメガホンが揺れた。

「一般のお客さん!ごめんなさい!!」

「今日もお勤めご苦労さん!!!」

スリーコールが車内に響き渡る。
大合唱。耳が痛い。
物凄い声量だ。


やった。今日も始まった!!

僅か18分。
僅か18分だ。

アドレナリンが爆発する。
僕たちタイガースファンの六甲おろしの大合唱と共に電車は梅田を目指した。


何の話かって?
分かるかい?
阪神電車直通特急梅田行き
電車内での二次会の話だ。

あったのさ。
甲子園から梅田まで。
タイガースファンの本物の二次会。
「二次会の中の二次会」が始まる。

簡単にお伝えしよう。
電車の中で騒ぐんだ。
電車の中でヒッティングマーチを歌い、
六甲おろしを歌い、巨人の悪口を叫ぶんだ。

ただ騒ぐだけでは無い。
18分の限られた尺の中にストーリーがあるんだ。
密室の中の二次会。
完璧に纏め上げるにはセンスが必要だ。

そりゃもう、凄かった。
タイガーが腹から声を出す。
車両にいる一般のお客さんに今日の試合結果を報告する。

大歓声が起こった。

ピリピリした空気を切り裂き、
笑いが舞う。
僕らが続く。
やはり二次会のリーダーはこういったセンスが必要だ。

1-9のヒッティングマーチ。
六甲おろしが鳴り響く。
そして本番はここから。
『巨人の悪口』がスリーコールとして響き渡る。
ゴシップネタが大好きなタイガースファン。
内容は長嶋監督の家族からセコムまで。
車内は爆笑の雰囲気に包まれた。

電車は尼崎を通過した。

「遅いぞ遅いぞ阪神!!」

かっとばせ梅田
かっとばせ梅田
かっとばせ梅田
梅田!梅田!!
かっとばせ!!梅田!!

甲子園から梅田まで。
18分という限られた尺の中、
場を盛り上げるのはセンスが問われた。
タイガーやアイパーにはその才能があった。
場にいるだけで盛り上がる。
統率力、強烈な見た目も才能の一つだ。

梅田に到着した。
ドアが開くと一気にホワイティに流れ込む。
二次会は終盤を迎える。
三本締めをし、皆でハイタッチをして終了だ。


阪神電車での二次会は
2003年のフィーバーで客が増え、統率が難しくなった。
トラブルを引き起こしマスコミでも報道され問題となった。
二次会に私服警官が紛れ込ようになった。
翌年には完全に消滅した。


原因はニワカにあった。


今思うと貴重な時間だった。
もう経験できないあの時間。
戻れるなら戻りたい。

あなたの中の「二次会」の定義。
きっと間違ってる。

本物はあの時。あの時代。
そしてあの頃のタイガースファン。


ルール?マナー?


あったよ。おれたちの中にも。

「みんな、タイガースを大好きでいる事」

二次会のリード。
駅員、警備員、タイガースファン、プロ。
棲み分けがあり、成り立っていた。
各々の持ち場を守っていた。



タイガースファンの二次会。
場外のみならず、阪神電車からホワイティまで。

気が狂うぐらい心地よい、もう経験出来ないあの頃の高揚感。
生まれてきて良かったと実感する瞬間を僕は10代で経験した。

凄かったよ、もう。
あの頃の二次会。
毎回過呼吸になる位爆笑した。


タイガースファンの二次会は何よりもエキサイティングだ。



僕らの二次会は世界一だった。

僕らの二次会はフィーバーに消された。

インターネット。
SNSが登場した。

僕らの二次会は
後から流れてきた人間の間違った倫理観によって「無かった事」にされた。



僕らの「応援」は
完全に奪われた。



スルッとKANSAI
2000年のスローガンは
Get together 2000

もう一度集まらない?
あの頃のように。



続く

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