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1999年から2003年までの阪神タイガース その㊶

うわ、今年は多いなぁ。

軍団の一人がそう呟いた。

2002年3月17日(日)
阪神巨人戦。
甲子園でのオープン戦の事だ。

この年、タイガースの監督には星野仙一が就任。
球界は揺れに揺れた。
マスコミは連日タイガースを追った。
話題性は抜群だった。

この日。
オープン戦に関わらず沢山の客が入った。
ライトスタンドは完売。
レフトの自由席売場には行列が出来た。

何かが変わろうとしていた。


いつもの21号門前。
軍団はダベっていた。

「おう、時間や。開けてくれや」

目つきの鋭い男が職員を睨むように語りかけた。

開門だ。
今年も始まった。

皆、慣れた走りで持ち場へ向かう。
プロが横断幕を用意し、
ポールに大きな旗を取り付ける。
所々でペットの音が聴こえる。

法被に袖を通す。
この瞬間がたまらない。身が引き締まる。
特攻服を着た青年が踊り身体を解す。

この日はデーゲーム。
この春一番の快晴だ。
日差しは強い。
阪神園芸が水を撒くと小さな虹が出来た。
グラウンドを見つめる誰もが目を細めた。

中段には全てのプロが揃った。
「今年も始まったな」
常連の一人がそう呟いた。

『伝統の一戦』

オープン戦?
関係無い。フルメンバーだ。

通路は煙で覆われる。
炭火で焼かれる焼き鳥のたまらなく香ばしい匂いが食欲を唆る。
ビールが進む。

通路の窓際で顔を赤くしたおっちゃんが額に汗をかきながら焼き鳥を頬張った。

「やんやん、今年も来たな。これ食っとけ」

この優しさに何度助けられただろうか。

回が進むと顔を赤くした男は増える。
警備員が喧嘩を止める。
レフトでは乱闘が起きる。
常連同士で話し込む。
アイパーの周りにはいつも人がいた。

いつもの光景を横にした。
あぁ、これか。

茶碗に二つ、サイコロが振られる。
半か。長か。
千円札が目の前を舞う。
運命は大きく舵を切り、
男たちは試合中に何度も笑い、何度も涙を飲んだ。

ホームでこの光景を見たのは
フィーバー前年のこの年が最後かもしれない。

翌年に僕たちは夢にまで見た光景を見る事になる。
それは一瞬だった。
その夢はサイコロ、プロ、二次会を見事に消し去り球場は見事にニワカで溢れ返った。

サイコロは夢を容赦なく切り裂き、
時に男たちを絶望の淵へと叩き落とす。

フィーバーは自治を否定し、覆し、叩き落とした。
僕らの居場所は無くなった。

野球場の魅力。
それは何かって?

一般社会の非常識が味わえ、
常識人がほんの少し非常識になれる。
だから魅力的なんだ。
溜まりに溜まった膿を吐き出すのもいい。
王様の耳はロバの耳?
何を叫んでも良い。
構わない。
全力で腹の底から叫べる場所は世の中に此処しか無い。

ヤジや応援まで規制させる場所に
魅力は微塵も無い。

僕らの夢。
『阪神が優勝、場外で日本一の二次会をやる事』

リードは勿論、
アイパーだ。タイガーだ。
軍団のみんなだ。



それは叶わなかった。

そして、これからも叶わない。




続く

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