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1999年から2003年までの阪神タイガース その㊹

「なぁ、自分よう見るよな。入らへん?」

僕らの二次会には時折プロが紛れていた。
それは21号門前や阪神電車の駅構内では無い。
ホワイティや阪急東通りに男は出没した。

デーゲームのプロ主催の二次会で舞台袖にいる男。
男の目つきは鋭く独特の眼力があった。
収納したポールと大きなバッグを持ち歩く。
いつも私服だった。
お世辞にも今時の若者とは思えない、何かを捨て、犠牲にし、一つの事に賭け日々生活をしている風貌があった。

男は喧騒に動じる事なくいつも僕らの二次会の様子をじっと見ていた。

プロへの『スカウト』という事を常連は皆知っていた。
彼らにとっては偵察なのかもしれない。
不明であるが、若い奴を連れてこいという上からの指示なのかもしれない。

またいるな。
昨日もいたよな。
二次会の常連は男から目を逸らす。

プロの世界がどれだけ厳しく恐ろしいものか常連は皆知っていたからだ。

男はアイパーのリードは存在感と勢いはあるが統率力としてはまだ乏しいと揶揄した。

応援歌からの六甲や讀賣のスリーコールには流れがある。
素人の目や動きを察知し、合間を確実に読みリードを執るのがプロだ。
場外の数百人の素人を纏めるには咄嗟の動きを察知する洞察力と感性が必要だと言った。

男は他にも色々と話してくれた。
プロの中でも最も存在感のあるあの団体に入団したのは2000年。
素人の頃は全国を遠征。
98年には讀賣ファンで溢れる総武線を僅か三人で二次会を仕切った事。
地方での乱闘や乱入。オープン戦での出来事。
徹夜。移動。搬入。また遠征。
シーズンオフの川べりでの特訓。

一見、刺激的な毎日だろう。
とてもじゃないが話せない内容だ。

目力のあるその表情からは
誰よりもタイガースを愛しているとも読み取れる。
しかし、愛しているだけでは務まらないのがプロの世界だ。

男はタイガースを愛するがあまり、
21世紀に入る間近、自らプロの門を叩いた。
苦しい日々もあるが今は楽しいと話す。

アイパーをプロの世界に誘った事があるかと質問した事がある。
返ってきた返事はこうだ。

「あいつは誘わない。
 あいつは、あいつのままで良い」

男は一言だった。
何故か、妙に納得出来た。
甲子園で誰よりも知名度の高い素人を一言で一蹴した。
正にプロだった。

プロは2003年を最後に球場から姿を消した。

僕たちはプロになれなかった。
僕たちは、プロの世界に入るほど度胸は座っていなかった。

当時の素人がプロを見つめる眼差しは人それぞれだ。
輝き、憧れ、恐れ、感動し、時には目を逸らした。
外野に生きていたあの時代。
後世に多く語られるのはグラウンドでの出来事では無くいつもプロの話題だ。

とある日、
男が語った一言が忘れられない。


球場で法被に袖を通すと身が締まる。
この世界には『ルール』があるんだ。

男は初めて笑顔を見せた。
前歯が全て無くなっていた。



僕たちはいつも自由だった。

アイパー含め、
僕たちは『素人の中の素人』
きっとそうだろう。



続く

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