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1999年から2003年までの阪神タイガース その㉕

「ミスタールーキー」は実在した。

ルーキーが僕らの前に現れたのは2001年だ。
アイパー率いるキチガイ集団の二次会に突如、長身で爽やかな男が現れた。

「ミスタールーキー」
映画のまんまの仮面。
全身オフィシャルユニホーム。
靴は公式のスパイク。
ベルトまで本物だ。

ルーキーはスーパーマンだ。
甲子園場外にある電話ボックスで仮面を被り、
みんなの前に登場する。
仮面の中身?
長嶋一茂さんに負けない位イケメンだったよ。

「ルーキーや!!」
「ルーキーが来た!!!」

21号門前の二次会の盛り上がりが最高潮に達する。
300人以上で歌う六甲おろしがボリュームを増し場外で鳴り響く。

助走をつけるルーキー。
六甲おろしのメロディに乗り、
爽快に繰り広げられる連続バック転。

拍手喝采が起こる。
これは当時のトラッキーにも負けない見事な身体能力だ。

SASUKEにいつでも出場出来そうなその身体。
通る声。
イケメン。
阪神ファンとは思えない爽やかさ。

そして、二次会での連続バック転。

見事としか言い様が無かった。
体育座りしか出来ないアイパーがいつも指を咥えて見ていた。

ルーキーのいる二次会は華やかだ。
キチガイの中に突如スーパースターが現れる。

離島に現れた転校生。
いや、違う。
網走刑務所でお口直しのグラニテを提供されたようだった。

突如現れたルーキーに僕らは驚きを隠せ無かった。
話すのも畏れ多い。
しかし、僕らがルーキーと仲良くなるのに時間はかからなかった。

「みんな!うちに遊びにおいで!!」

ルーキーの自宅へ遊びに行く事になった。

前出しておく。
ルーキーの部屋は「宮崎勤」の部屋のようだった。

東大阪にあるルーキーの自宅。
阪神のビデオテープが4507本。
トイレは和式。

ルーキーは1999年〜2001年、
135試合全ての試合を現地で観戦した。
オフに肉体労働をし、シーズン中はタイガースに全てを注ぎ込む。

そして、驚く事に1985年から2001年まで全ての試合をビデオに記録し保管している。

まだDAZNなど無いあの時代。
GAORAやサンテレビ、それでも観るのが困難な地方球場の試合は月刊タイガースの文通コーナーで公募。
その土地の在住者からビデオを送ってもらっていた。

壁にはタイガース関連のグッズやポスターがいっぱい。
玄関マットからカーテン、みんなで鍋をしたのだが鍋はもちろんガスコンロは縦縞で箸や皿、チャッカマンまで阪神だった。

ルーキーはあの時代のWikipediaだ。
知らない事もルーキーに聞けば即答だ。

関東と関西の違い、遠征、応援歌に応援事情。
地方球場での大乱闘。
オールスターでの殴り合い。
横浜スタジアムでの徹夜の出来事。
交通網が発達していないあの時代にキャンプ遠征。
試合内容、年号や日付まで完璧に覚えている。

ビジターでの選手宿泊先やオーナーの生い立ち、
キャンプ先でのエロ話や性癖、
阪神電鉄の株価をリアルタイムで教えてくれた。

20代前半の若者とは思えない。
こんな奴に彼女は出来ない。
阪神と巡り合っていなかったらきっとまともな人生を送っていたはずだ。

イケメンアスペルガー、
いいじゃないかルーキー!!

周りは引くぜ!!

この日みんなで聞いたルーキーのタイガース愛は僕らを涙させる程深かった。
こんなに美しいファンがいるのかと。
阪神は暗黒時代真っ只中。
久万オーナーに手紙を書き、直訴したかった。



とある日。
いつもの売店のおでん屋さんでルーキーがこう言い出した。

「やんやん、あのな、おれ、夢があるんよ!でっけー夢!!」

この「夢」が僕らとルーキーと引き離し、
ルーキーは後に甲子園に二度と入ることが出来なくなる。

ルーキーが話す夢。
僕は少し心配になった。


ルーキーと食べる大好きなおでん。
この日はほんの少し、違う味がした。


続く

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