見出し画像

1999年から2003年までの阪神タイガース その㊸

「撮るよ〜!はい、チーズ!!」

疲れ果てた阪神電車の駅員が写ルんですのシャッターを押す。

ありがとうございま〜す!!
軍団のメガホンが揺れた。

2001年7月末。
久々の勝ち試合。
場所は猛虎像前。
二次会終わりに皆で写真を撮った。
センターはもちろんアイパーだ。

この日の二次会も気が狂ったように騒いだ。
30人以上の冴えない男たちの引きつった笑顔は滑稽で面白い。
無職、無謀、傍若無人という言葉が似合う男たち。

現像が楽しみだった。

撮影後も男たちのボルテージは鳴り止まない。
シャッターを押してくれた御礼として駅員を胴上げ。
喧騒は電車内からホワイティまで続いた。

間も無くタイガースは長期ロード。
遠征組を除き、
お盆明けまで軍団の視線は球場からテレビとなる。
現像をアイパーに託し、この日も解散した。

こういった日常は今考えると稀有だ。
試合中より試合後の方が熱い。
僕らは二次会を何よりも楽しみにしていた。

今のようにスマホは無い。
携帯電話にやっとカメラが付くか付かないかの頃。
写真や動画を撮るといったカルチャーは皆無だった。

だから貴重なんだ。
その時間、空間、雰囲気を媒体として残している当時の二次会常連者。
当時炎上という言葉は無かった。
僕らは毎試合、機動隊が来るような騒ぎをしても翌日には何も無かったかのように甲子園に向かった。

残念ながら私も残している写真は少ない。
プロが行うデーゲーム後の二次会が数枚。
プロが振るとてつもなく大きくて迫力のある旗が数枚。
試合中にみんなで撮った写真が数枚。
二次会で撮影した軍団の写真も数枚だ。

ちなみに、動画は0。
軍団の一人、
小井が当時動画をよく撮影していた為連絡を取りたいが2003年を最後に音信不通となった。

例年通りタイガースはロードで大きく負け越し。
久々に会った軍団はいつも通りダイエーのフードコートに集まった。

「はい、出来たで〜」

アイパーが現像してきた集合写真。
プリクラを切り取り青春を謳歌する10代の若者の傍ら、僕ら社会不適合は待ってましたとフジカラーの袋を開封した。

楽しみにしていた集合写真を目にした瞬間。
遠山さんが絶句した。

「誰?こいつ?」

誰も見たことのない白目の男が遠山さんの肩に手を置き、引き攣った笑顔でピースをしていた。
男はタイガースの縦縞の古いハッピにハチマキ。
下半身は無く流血していた。

全員ドン引き。
思わず僕は立ち上がった。

凍りつくような雰囲気の中、
アイパーだけは違った。

「あ〜、こいつ見たことあるわ〜。最近来てへんなぁ〜。自己破産したって聞いたけどなぁ」

写真はゴミ箱へ葬られた。
二次会常連者の生活感は、その背中から感じられる。
人生が潤い、満足している勝者など当時のファンにはいなかった。

写真に写っていた男。
あと二年生きていれば夢のような時間を体験出来たのにな。

二次会の常連。
儚く、尊く、短い。
太く短く生きた男たち。

事情のある男。負のスパイラル。
いつの間にか来なくなる常連。

太く短く生きているからこそ、
あの熱量が出せたのかと思う。


こんな事がありつつも
男たちは今日も甲子園へ向かう。



続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?