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花粉と歴史ロマン 改訂版 その3 「日本最古のスケッチ」たぶん。

1  花粉のスケッチ:たぶん「日本最古」

「ハンノキとハシバミ」で使用した『植学啓原』の中に、花粉のスケッチがありました。まずは、植学啓原について引用します。

 植学啓原(しょくがくけいげん)」は、津山藩医・宇田川榕菴(ようあん)が著した植物学の入門書です。同じく津山藩医の箕作阮甫(みつくりげんぽ)は序文で「榕菴がアジアで初めて植物学を紹介した」と述べています。スウェーデンの植物学者リンネ(1707~78年)による分類体系や植物用語を取り入れており、顕微鏡観察による精密な植物図も描かれています。

https://www.saga-s.co.jp/articles/-/465256
植学啓原:国会図書館Web siteより

「花粉の顕微図」と題されていますが、蘭学書から写したことが付記されています。9種類の植物名がありますが、向日葵を除いて、花粉の特徴が判然としませんが、漢名とカタカナ名から、以下の植物(想定)と対比を行いました。

トウゴマ(Ricinus communis)  ヒマワリ(Helianthus annus )  ヒナゲシ(  ギンセンカ(Hibiscus ) 

おそらく、見たこともないものを、書き写す中で曖昧なイメージになったと思います。私たちも花粉を始めてスケッチした時、見えているものを書き写すことができませんでした。見るべき部分を見なければ、特徴が表現できないのです。

中村先生は、例えを用いて見所を教えて下さったのですが、いくつか紹介します。

・ヨモギ属の外膜の断面が、三日月型になっている部分は、「爪の肉付き」
・ノグルミの表面にある弓状の溝は、「切られの与三郎」
・トウヒ属とモミ属の、気嚢部分のつき方は、「なで肩」と「いかり肩」

2 農家必読

「植学啓原」は、引用にもあるように、理学入門の教科書として使われたのではないかと思いますが、これよりもやや古い時代の「農家必読(1808年)」は、実用書として、著者の山崎美成の詳細な図と記載があります。たぶん、これが日本最古だと思います。(この本に関しては、1974年発行の塚田松雄先生の「花粉は語る」に紹介されていたこと、あらためて追記します。ただし、スケッチについては触れられておりません)。

農家必読(日本最古の花粉のスケッチが描かれている可能性大です)国会図書館Web siteより

「雄(蕊)の図」、「雄(蕊)の勢気の図」に描かれている、「◯」部分です。
イネの花粉は、まさに円(球体)なのです。外膜に1箇所、孔がありますが、さすがに肉眼では見えません。花と同様に構造が単純化した原因があるはずですが、虫媒でも風媒でもない自殖の道を選んだために、花粉に付属する様々な形質が不要になった結果かもしれません。

図が精細であると同時に、記述も詳細なのです。引用します。

農家必読(国会図書館Web siteより)

知人(菅谷さん)に解読してもらいました。(赤枠部分の現代語訳)

「乙」めしべ二つあり、「丙」米となるべき実、「丁」うてな

黄なる粉は、黄色のとても細かい球体で、周囲に細かいものが付着していて、その状態は金米糖のようである。これは、とても精細な粉末がついている。黄なる粉は花の精気でおしべより吹き出すものである。めしべはこれを呼び取りその頭につけ、精気を実のうちに伝えて生力を起こすものである。㊈米となったものを、その籾殻を取って見ると、米の頭にめしべの枯れたものがなお残っている。(中略)これは実である。此のおしべは気を吹き出し、めしべは内へ吸い込んで実を孕む。これは両全花で稲と同じことである。 (解読 千葉経済大学 学芸員 菅谷祐輔さん)

花粉分析は「よく見る」ことの積み重ねであったようです。「視界の外」とか「心ここにあらざれば、」とか、花粉を見抜くための心構えは、自分に向き合う経験にもなりました。
 さらに、さらに、書き出しの、「球体の周囲についている金平糖」のことが、気になりました。この金平糖は、「ユービッシュ体」を観察したかもしれません(たぶん)。
 花粉は微粒子ですので、その微粒子に付着している、更なる微粒子が肉眼で識別できたかどうか?ですが、拡大鏡を用いていたとすれば可能かもしれません。
1994年発行の「花粉学事典」でも、「金平糖」は、その物質としての由来が未解決とされているほどのものです。


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