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花粉と歴史ロマン その25 巡りあい
1 長崎県壱岐市 若宮島との出会い
若宮島との出会いは、44年前の1978 年11月でした(表紙写真は若宮島に隣接する辰ノ島の蛇ケ谷に現れたシカ。6回目の調査の際に遭遇し撮影できました)。
大学院で、テーマの設定に追われていた頃でした。植物を個体として扱う研究者の中には、花粉分析を批判的に見る方もいます。
木(全体)を知る人にとって、花粉(部分)は心もとない形質に思えるはずです。ただし、レベルを上げて群落(個体の集団)を知る人にとっては、木(個体)は部分ですので、「木を見て森を見ず」にも部分と全体に陥りやすい問題があることをを諭しているのでしょう。さらに、Bunaさんのブログには「森を見て木を見ず」にも言及されていました(出典は不明になりました。御免!)。
部分と全体の問題は、対象のサイズに関わらず「見る」レベルを「視る」や「観る」に高めることが必要なのでしょう。
いずれにしても、飛来する花粉の源を特定することは不可能?であり、堆積物中に保存された花粉集団から供給源の植生の範囲を限定することは、さらに難しく、「大勢として」、とか、「傾向として」、という不透明な解釈には私自身、曖昧さを感じることを白状します。
さて、昔に戻ります。孤立した島の自然環境が蓄積された堆積物に魅力を感じていました。適当なサンプルはないものかと、Miyoshi先生に相談したところ、Hatanaka先生とともに採取した1.7mのコアを提供していただけることになりました。壱岐若宮島のサンプルでした。
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島の閉鎖的な自然環境は、独自性の高い植生変遷の歴史を保ってきたのではないか?これが魅力でした。早速、分析を開始、1.7mのコアは10cm間隔で17サンプル数です。花粉分析結果を補強するためのデータとして、有機物量の変化を知るための灼熱減量法を用いいたり、堆積物重量あたりに含まれる花粉量を求めるために、プレパラートを2枚作成し、各処理段階で測定した重量と、検鏡で計数された花粉総数から、推計された平均値から相対値ではない実数の変化を示しました。がしかし、全体としての傾向は、西南日本各地に類するものでした。その意味では平凡な結果に見えてしまった。
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その中で、不明な形の花粉らしきものと出会いました。以下の図にスケッチを残し、仮にXのAとしました。外型とサイズが付記されています。ただし、当時の花粉図鑑に該当する花粉は見当たりませんでした。「サカキカズラ」は後に書き加えたものです。当時は見えぬまま、他の分析地に目を移してしまいました。
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スケッチには中央部のくびれが強調されいますが、赤道面に2個の孔が並んでいます。
等極性の形状は、極心方向と遠心方向の両極の形状が等しいことを示しています。
2 壱岐若宮島を再度、分析したい。
30年以上、若宮島の結果からは離れ、東北地方(岩手県)から関東地方にかけての太平洋側を対象地域として南下してきました。千葉で就職したことを機に、四街道市亀崎から始めて、茨城県「涸沼」、栃木県「南那須町」を経て「銚子」に至りました。
銚子では、堆積物に含まれる花粉が少ない、あるいは含まれていない層位が多く、苦戦に苦戦を重ね5年経過しましたが、2013年やっとの思いで、まとまり学会誌に論文が掲載されました。
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長く懸案であった研究が一段落したところで、次の目標を探し始めました。西日本の常緑広葉樹林域につながる何かを求めて、常緑広葉樹林は西南日本に、分布の中心があり、東北日本の北限域にかけて構成種数が減少するなど、地域的な特徴を有しています。 この南北方向に対して、君津地域の植生について書かれた解説書(NPO法人樹の生命を守る会 会報No.7 藤平量郎 著「房総半島の森 照葉樹林 I タブノキ林」)には、房総半島は常緑広葉樹林の東端となると表現されており、ハマオモトの分布域(ハマオモト線 小清水、1938)とともに、九州北部の西端地域につながっていました。 改めて、藤平先生の慧眼と共に、昔、壱岐の若宮島で分析したことが、結びつきました。
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もう一度、年代測定などデータアップすることを目標にした研究、特に常緑広葉樹林の横綱格のシイ類の識別を踏まえた植生変遷をキーワードとして、準備に入りました。
ただし、若宮島は自衛隊の基地になっており、上陸は許可されないことがわかりました。ならば、対馬を含め新たな堆積物を対象としよう!
3 共同研究の成立
2013年、古い知人で1997年のバイカル湖調査で再会していたNさんに協力のお願いしたところ、自家用車の提供を含めて同行してくれるとの返事、9月10日から14日までの調査になりました。博多港を深夜に出るフェリー、暗黒の玄界灘、頭上の星空、研究の開始が実現したこと、嬉しかったなあ!彼も、独自に分析試料を探していたみたいで共同研究が成立しました。
その後、毎年のように調査を重ねつつ、文科省の科学研究費助成事業に応募を繰り返しましたが、十分な結果を引き出すことのできる堆積物の探索が成功せず、申請は不採用が続きました。ただし、この間に、別の科研の分担者として加えてくださったBunaさんの支援を受けて、旧知のShiさんやIkeさんの協力もあり、断続的に対馬を含め2017年までに7回の調査を重ねることができました。
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2015年 5回目の現地調査で、候補地が決まり、2016年6回目に何とか、研究に値する年代値を示す堆積物が、対馬と壱岐の2ヶ所から手に入れることができました。この間、現地で多くの方からの協力があり、研究の幅を広げるヒントに巡り合えたたばかりでなく、新たな研究者との出会い(対馬市の國分英俊様、「壱岐の科学研究会」山内様、対馬市郷土資料館 古川様、他多数)があり、また、学生時代からの友人、植生学者(Hiraさん、Tomiさん)との再会など、巡り合う経験が重なりました。
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さて、研究の概要も定まり、分析も進み、いよいよ論文作成に取り掛かれると考えていた最終段階で、勤務先の職務で忙殺されてしまいました。ならば、忙中閑ありと、2019年、年度末の3/25から28日にかけてBunaさんを誘って、8回目の調査を実行します。私の研究に興味と理解を持ち合わせたゼミ生(Y君)も同行してくれました。
4 計り知れない偶然と必然
常緑広葉樹林は、南西日本を中心とする森の世界です。壱岐・対馬でも各地に分布しているのですが、壱岐市南端部の鏡岳神社の鬱蒼とした社叢は、いかにも典型的な常緑広葉樹林でした。この林内の表層の堆積物には、現植生の花粉が蓄積されているはずです。これを下敷きに、若宮島の結果を見てみよう!
分析の結果、計らずも不明だった花粉が、検出できました。サカキカズラだったのです。スケッチは稚拙でしたが、写真にある通りの不思議な特徴を持っています。植生調査の文献を調べると、壱岐の北部にある箱崎男岳山の社叢のリストにも記載があります。つる植物で飛散力も小さいと考えられる花粉です。これが、常緑広葉樹林の指標になるものと考えました。
44年前の分析には、サカキカズラ以外にもクチナシの花粉も写真撮影していました。これも常緑広葉樹林の指標になります。(対馬では、アリドウシの花粉も林内の堆積物から検出しました)。
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昭和52年発行の植生調査の論文(壱岐島の科学(14))には、壱岐の中では、南部の筒城八幡神社、鏡岳神社(初瀬権現山)、男嶽山神社の社叢が自然林と見做されています。その中で、男岳山神社ではスダジイが低木層に僅かに出現する程度であったり、鏡岳神社でもスダジイは樹高が低く、風衝林の様相が観察されました(参考:Bunaさんのブログhttp://forestplant.blog.fc2.com/blog-date-201904.html)。
壱岐対馬の分析結果は、学会誌に投稿するにはデータ量に不十分さがあります。そこで勤務先の大学の紀要(67号)に掲載される予定です。