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ゆがみからゆらぎへ メンタライゼーション
『メンタライゼーションを学ぼう』(池田暁史、2021)という本を読みました。愛着障害を持つ人が取り組むと良いらしいです。以下要約です。
メンタライゼーションとは
メンタライゼーションとは聞き慣れない言葉ですが、日常的に誰もが行ってることです。著者は以下のように説明しております。
①自分や他者のこころの状態に思いを馳せること
②自分や他者のとる言動をその人の心の状態と関連づけて考えること
メンタライゼーションは覚醒水準の高い時と低い時に機能しなくなります。覚醒とは、脳の活動が活性化していることです。覚醒水準が高い時は怒っている時など、低いときとはアルコールを飲んでいる時などです。高い時と低い時、相手の心を読むことをしなくなること誰でも経験があると思います。
境界性パーソナリティ障害に対する新しい精神療法として、2007年に日本へ導入されました。提唱者はピーター・フォギナーです。
メンタライゼーションが機能不全を起こすと現れる3つのモード
メンタライゼーションが機能不全を起こすと、目的論モード、心的等価モード、プリテンモードのいずれかがが前面に出てきます。
・目的論モード
こころの中のことと外の世界のことの区別が本質的にできていない状態。「空想=現実」の世界。現実が内的状態を決定する状態。「欲しいおもちゃを買ってくれない(外的現実)なんて、お母さんは僕のことが好きじゃない(空想)んだ」など。
・心的等価モード
「空想=現実」の世界であるのは目的論モードと一緒。相違点は、目的論モードが、現実→内面なのに対し、内面→現実となること。空想の方が現実を凌駕するという状態。「あの人は私のことを鬱陶しく思っているだろう(空想)足を組み替えたのは(外的現実)は私とあってイライラしているからだ」など。自分の空想が現実化しているものとして体感されている状態。
・プリテンモード
空想を守るために現実を無視している状態。自傷をしている人が「血を見ると生きる実感が湧くので、自傷は良いものだ」など。空想上の良い面にだけ注意を向けている状態。
メンタライゼーションでは上の3つのモードが統合されて、空想と現実が適切な距離感で関連されることが重要になります。
メンタライゼーションは一度その能力を獲得したらずっと続くというものではありません。状況によっては誰しもが機能低下を起こします。
よそもの的自己
子供は親のメンタライゼーションにて、自分の心がわかるようになります。空腹の時、「あらー、〇〇ちゃん、お腹空いたのねー」など、メンタライゼーションされることで、自分の感覚が「空腹」だとわかります。
メンタライゼーションするとき、親が子供の心をあてる正答率は3割程度が好ましいそうです。3割しか当てれないので、子供が親は自分ではないのだと理解できます。他者と自分は違うとわかることで、必要なことは言葉にしないと伝わらないと、理解できるようになります。
親の正確なメンタライゼーションにて、子供は自分の感覚がわかると述べました。
もしも、誤ったメンタライゼーションを親が子に与え続けると、誤った感覚を取り込んでしまいます。それは「よそもの的自己」となります。
例えば、寒さを感じている子供がいて、母親に「寒いよ」と助けを求めたとします。そらに対して「うるうせえ、黙ってろ」と言われたとます。そうすると、子供は「他の人に助けを求めることは悪いことなんだ」と思うようになります。すると今後の人生で、困ったことがあっても助けを求めず、困っている自分を内側から非難することとなります。その内側からの不当な非難が「よそもの的自己」です。
「よそもの的自己」は悪辣な養育者の下で育たなくても仕方なく発生します。誰しもが大なり小なり持っています。
内面の声から非難されるので超自我とよそもの的自己は似ていますが、超自我が理想に近づくための自己非難なことに対し、よそもの的自己は、ただの理不尽な攻撃であるので、根本的に違います。
過酷な「よそもの的自己」があると、自傷、他害、自殺の恐れがあります。
ゆがみからゆらぎへ
メンタライゼーションが高い状態とはどんな状況でしょうか。
それは、ゆらぎが発生している状態です。
言い換え得ると、自分の心も他人の心もわからないと認識している状態です。
また、思考と感情、自己と他者、咄嗟にとる行動と我慢、内的な感覚と外的な感覚どちらもにも焦点を当てていることです。片方の極にのみ焦点を当てることはゆがみです。
ゆらぎがある状態とは、前述の例で言えば相手が足を組み替えたのを見たとき、「足を組み替えたのは、私とあってイライラしているからかもしれないし、体の癖かもしれないし、なんとなくかもしれない」と思い浮かんでいるような状態です。
ゆがみがあると一つの理由に決め込んでしまいますが、ゆらいでいるとさまざまな仮説が頭に浮かびます。メンタライゼーションが高い状態です。ゆがみを克服して、ゆらぎの状態になることが大切です。
本文では本の前半の内容にのみ触れました。後半はメンタライゼーションに基づいた治療について詳しく書かれています。
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