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映画感想 Chime

   Chimeの恐怖は何か。
 
   新しいホラーだった。こんなホラーを見たことがない。ホラーと言えば、幽霊や化け物が出てくる。幽霊や化け物に恐怖を感じながら、映画を見る。しかし、映画が終われば映像で感じた恐怖は本物であるものの、それはそれとして日常に戻っていける。”それはそれ”と思っていることはフィクションなのだ。Chimeはフィクションではない。Chimeの恐怖はフィクションではない、映像が終わってからも恐怖が続く。見終わった後ももしかしたら私にも聞こえるかも知れないチャイムに怯えることになる。こんな映画見たことなかった。他に似た映画なんてあるのだろうか。
 
  Chimeとは何か。Chimeは”そのまま”のことだ。Chimeが聞こえると私たちは”そのまま”になる。登場人物たちはChimeが聞こえ自らの頭に包丁を差し込み自殺する、殺人を犯す。なぜChimeが聞こえたらそんなことをするのだろうか。それは誰にもわからない。ただ人間がそうだからとしか言いようがない。本来、出来事と人間の行為の関係はわからない。出来事があり、私たちは、ほぼ無意識にそれに対応する社会的態度を取る。それが無くなってしまうのがChimeなのだ。例えば、私は何故か知らないが、テレビゲームのコントローラーのボタンを連打する人を見ると笑いたくなってしまう、しかしテレビゲームのコントローラーのボタンの連打は別に面白いことではないので、笑っていると変だと思い笑わないことにしている。笑ってるのが変だと感じることのできるのは社会があるからだ。誰も今私の言ったような部分を持っていると思う。

 映画の中で、主人公の家族にもChimeが聞こえだす。家族の会話はおかしく、会話になっていない。父の質問に意味もなく突然笑い出す子供。レストランで主人公が面接を受けるシーンもあったが、人間の関わりのようには見えない。面接によってChimeが聞こえてしまったからだろうかレストランにいた1人が突然に包丁を持って殺人を犯そうとする。人のとる表情も変だ。子供がヘッドホンをしながら片手でキューブのおもちゃをいじり回しているシーンで、子供が不気味な笑みを浮かべている。音楽を聴きながらキューブで遊んでいる時の表情ではない。母親が缶をゴミ箱に捨てるときのシーンも、缶をゴミ箱に捨てるときにとる表情ではない。
 
 人との繋がりが消えている社会だからか、自分を外からみる社会の目がなくなってしまい、ある日突然”そのまま”になってしまう。この映画はフィクションではない。繰り返しになるが、見終わった後、私たちは聞こえるかもしれないChimeに恐れることになる。



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広司
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