[税理士試験]異業種から簿記知識ゼロで参戦し、働きながら複数科目を併願し4年で官報。理論攻略のコツも公開します。

長期的な視点で、複数科目の併願はおすすめできる

税理士法人で勤務税理士をしておりますnagaと申します。

まず、この記事を書くことで私が目指していることは以下の2つです。
①私の合格までのプロセスをお伝えすることで、読者の中長期的な受験計画や受験戦略を考える一助となること
②税理士試験を通して得た受験のコツを可能な限り言語化することで、読者の悩み解決の糸口となること

私は初年に簿記、その2年後に財・消、翌年に法・相と、4年のうち後半の2年間で4科目に合格することで官報合格となりました。受験生時代、税理士法人への転職面接を受けた際に、自分で教材を入手して勉強していることや、1年で法人・財表・消費を同時受験するといった併願受験をしていることを話すと非常に不思議がられたことがあったので、おそらく独学や受験科目の併願は業界内ではあまり一般的ではないように思います。

そもそも、受験科目を併願することは簿記三級の勉強を始めた当初から計画していました。当時はまだ別の仕事をしていたため業界内の常識や先入観がなく「国公立のように5科目受験するわけでもないわけだし、仕事をしていたとしても余暇は自分次第で勉強に充てられるわけだから、併願受験・合格は可能だろう」と考えていました。また、せっかくやるなら可能な限り最短で合格をしたいと考えていたこともあり、そのためには税法科目の併願は必須条件でもありました。

税理士試験は早くても4~5年は毎日勉強を積み重ねないと官報合格を掴みとれない、非常に骨の折れる試験のひとつです。私の経験値から何か一つでも読者のお役に立つものがあれば幸いです。


1.合格体験記

(1)1回目の受験 簿記論合格

税理士試験界隈では、簿財が一番ラクだったという話は聞きますが、私にとっては最初の1科目に合格するまでの期間が最も苦しかったです。その理由は大きく以下の2つです。
・税理士試験で結果を出した経験がないので、自分の勉強の仕方は正しいのか判断がつかない
簿記論の試験問題や答練の難易度が高い(なかなか結果が伴わず心が折れそうになる)

経験の無いことに取り組んでいると、今の自分の考えが正しいのか分からないですし、試験直前期に成績が振るわなければさらに不安は募る一方です。これは私に限らず多くの方が感じるものでしょうし、実際のところこの辛さに打ち克てずにドロップアウトしてしまう方も多いのではないかと思います。

さて、そんな辛い受験初期にどのようなことをやってきたのか振り返ってみようと思います。

[インプット期]
①毎日の勉強を習慣化
勉強をはじめて最初の3ヵ月くらは、簿記3級⇒2級の勉強中で、かつ土日しか勉強していませんでした。ですので、まずは「毎日勉強することが当たり前になるよう習慣づけること」。が課題でした。そこで、一般的にはどの程度で物事が習慣化するのかを調べ(一般的には3~4週間程度と言われています)、それに基づいて無理のない範囲で少しずつ、毎日5~10分でも勉強するよう努めました。

②生活習慣の見直し(朝型)
試験開始はたいてい午前であることが多い上に、新しいことを学ぶには一般的に朝の方が良い(夕方以降は復習が向いている)ということもあるようなので、せっかくなら一般的に理に適っているとされる朝型に戻そうじゃないかということで、少しずつ朝型の生活習慣にシフトさせました(それまでは0時を回ってから眠りにつくのが普通でした)。そうなると夜は早く寝たいので、午前・午後に勉強し夕方~夜は娯楽・食事・就寝というサイクルを基本軸にしました。

③記憶の仕組みの基本を知る
学んだことを出来るだけ効率的に覚えるためにはどうしたらいいのかと思い、人間の記憶の仕組みの基本的な知識を勉強しました。記憶には短期記憶と長期記憶があること、長期記憶の形成には一定の時間を要すること、1日に覚えたことの7〜8割はその日のうちに忘れること(エビングハウスの忘却曲線)、効率的な復習周期があること、記憶には睡眠が重要な要素であること等、いろいろと調べた上で復習の回し方や質のいい睡眠や睡眠時間の確保など、試行錯誤を様々しました。

このように、学習初期においては直接的に勉強に関係するわけではないことについて一定の基礎知識をつけることは学習計画を考える上でとても重要だと思います。

④勤務中の昼休みを活用
毎日の勉強習慣がついたころ、10時出社だったこともあり5時に起きると朝の勉強時間にはだいぶ余裕を持つことが出来ていました。朝と昼を勉強時間に充てて、移動時間も活用するなどして、まずは答練を解けるレベルになるまでひたすらインプットの日々でした(ちなみに簿財はLECのDVD通信講座を使いました)

[答練期]
答練の評定は毎回Eランクで、ほんとに受かるのか?という状況でした。自分ではどうしたらいいか解決策が導かなかったので、某税理士法人の説明会に参加した際に簿記論合格者を捕まえて、何をして合格したのか聞いたりもしていました。するとやはり「答練を何回も解き直した」という回答だったので、私は言葉を信じて本番までの残り時間を計算一本に絞り込み全ての答練を何回も解き直しました。回数は覚えていませんが、少なく見積もっても5〜6回転はしたはずです。

答練では全然成果が出ませんでしたが、出来る限り答練の解き直しをやりきって本番に臨みました。受験後も手ごたえは全くありませんでしたが、結果としては、奇跡的に簿記論に合格(財表は2点足りず不合格)することができました。

最初の年のこの簿記論合格があったからこそ、4回の受験で5科目を揃えることができたと言っても過言ではないくらい、1年目の合格は私にとって非常に大きな成果でした。

(2)2回目の受験 合格科目なし

簿記論合格を掴み取れたことで、次なる課題にステップアップすることが可能となりました。税法の攻略です(といっても、実は簿財受験を終えたその日から法人税の勉強をスタートさせていたのですが)。

税法の試験は、解答枠だけのまっさらな答案用紙に覚えた理論や計算過程を問いかけに応じて2時間ノンストップでひたすら書きつけるというスタイルです。そして、この理論を覚えるというのがこの試験の受験者にとって最も大きいと言っても過言では無いハードルとなります。この税法科目の学習方法を身につけない限り合格は遠いです。

そのことをふまえ、2年目は税法科目で最もハードルが高いと言われる法人税をあえて選択しました。簿記論は合格できたので、財務諸表論はパスし、法人税の学習に専念しました。

この2年目の法人税学習の目的は、実は合格ではありませんでした(もちろん合格できればこの上ありませんが)。本当の目的は、税法科目の学習方法の確立です。

先々の税法科目合格のために、どのようにカリキュラムが流れていくか、理論暗記はどのように対応すべきか、税法合格のためにやるべき重要なことは何かとったことを、ボリューム・難易度共に最難関とされる法人税法の勉強を通じて身につけることが、その先の税法科目合格への最短ルートだと思っていたからです(この時から、3年目は財・法・消のうち最低2科目に合格し、4年目は不合格となった科目があればその科目と相続税法とを受験するつもりでいました)。さらに言うと、最も難関で落ちる可能性が高い科目なので、2年目に配置すれば4年間のうちに最大3回の受験機会を作ることが可能となることも挙げられます。最長で3年の学習期間を確保できるので、3回も機会があれば合格のチャンスは十分見込めるのではないかと踏んでいました。

この2年目の勉強では某有名ネット教材を利用しました(コストをケチりたかったため)。その結果、やはり大手予備校の教材の質は高いこと、その質の高い教材の活用が合格のカギであることに気づくこととなりました。

結論を先に言ってしまうと、この年は55点で不合格でした。計算はまずまず埋めることができましたが、理論を埋めきることが出来ませんでした(法人税法はあと2回受験し計3回受験したのですが、落ちた2回はいずれも共通していて、計算はしっかり埋めたものの理論を全て埋めることが出来ていませんでした。つまり、合格には計算で差がつくことは少なく、計算は当たり前にこなしたうえで理論答案を全て埋めきる必要があるということです)。

この年の法人税法の勉強で気づいたことは以下の通りでした。

▼計算
①カリキュラムの最後にグループ法人税制が登場し、総合問題への対処に非常に手間取った(問題の読み取り方、解く順番、素読みの仕方、グループが絡んだ出題について支配関係等の整理方法など) 
 ⇒カリキュラム通りが必ずしも正しいとは限らない。学習範囲の全体像は早いうちに全て見渡しておいた方がよい。木を見て森を見ずで間違った方向へ進むと軌道修正に苦労する
②答練を何回も解き直すことが重要なのは税法科目でも同じ
③本試験の計算で大きな差をライバルにつけるという考え方は非現実的
 ⇒初見では解答方法が分からない問題が出てくるため、結局は基礎+答練の知識で解ける=みんなが解けるところを見つけ出し、かつケアレスミスをせず確実に得点する勝負となる。

▼理論
①ひたすら書いて覚える方法だと、書き出しのフレーズが飛んだ瞬間にその理論全てが書けなくなってしまう。 
 ⇒理論は暗記ではなく理解が重要。1文1文を「因数分解」つまり条文の主語と述語といったように区切ることで、結論や条件などの要素に分けて整理することが重要(後述します)。
②理論マスターを一字一句完璧に覚える必要はない 
 ⇒最初はわりと神経質になっていた時期もありましたが、冷静に考えて、予備校によって条文の書きぶりが異なるのにどの予備校の受講生にも一定の合格数が存在する以上、そこにこだわるのは無意味であるし、実際にそれで合格出来ているのでそのような結論に達しています。むしろ柱挙げを正確に出来るようにした方がよい

(3)3回目の受験 消費税・財務諸表論合格

2年目の経験を踏まえた3年目。結論から言うと、2回目の受験となる法人税法と財務諸表論、初学の消費税の計3科目を受験し法人税以外の2科目に合格しました。

3科目も回せるのか?とお思いかもしれませんが、初学の科目は消費税のみで残り2科目は1周しているので意外と何とかなります(3科目のうちの1つが財務諸表論というのがポイントです)。

法人税法を受験し終えたその日から3年目の受験勉強をスタートします。この年は翌年の試験勉強を考慮し、どのような組み合わせでもいいから最低2科目以上の合格を必須条件として臨みました。

初学の消費税については、ひとまずコストカットのためWEB講座を受講したのもの、結局授業が分かりづらく、使わなくなりました。そこで合格目標年度の前年の大原中古教材を購入し、自分で勉強を進めました。これは2年目の法人税の勉強を通じて「答練期までに前年の答練を解けるレベルまで学習を自分で仕上げておく(まずは計算のみ。理論は移動中の時間を中心に答練や問題集で出題のされ方・答え方を参考にしつつ、サブノートの理論を理解し覚えることを優先)ことで合格可能性が高まるのではないか」という仮説が自分の中にあり、それを実践するにはカリキュラムに沿っていては遅かったためです。古い教材が使えなくなるほどの大きな改正はなかったので、細かい改正点は答練講座で補うつもりでいました。

大原の消費税法の教材をやってみると、特に答練は計算だけでいえば非常に得点が取りやすい仕様だと感じました。課税仕入れの区分など一定の部分の解答が出来れば点数が付くような配点だったこともあり、1~2月頃で計算だけなら7~8割くらいの点数が出るくらいにはなっていました。そこでTACの中古答練教材を入手したところ、そちらの方が配点や難易度の関係で点数が出にくく、かつ細かい論点まで詰められていたので、ここから先はTACを活用しようと決めました。したがって、直前答練についても消費税は大原ではなくTACを選択しました。

この時に気づいたのは「この予備校だからいいという訳ではなく、科目によって教師や教材に違いが出ることがある」ということです。どちらがいい悪いということではなく、自分にとって使いやすい・勉強しやすいと思える教材を選ぶことが肝心です。

法人税は前年の答練と総まとめ問題集の解き直しを行い、財務諸表論は理論の焼き直しと1年目の計算答練の解き直しを行っていました。学習時間の大まかな配分は、カリキュラムを一巡するまで消費税7・法人税2・財表1くらいで、消費税の学習が進むにつれて法人税の割合を少しずつ増やしていきました。直前期に限って言えば、財表は週一回答練を解き直し、たまに理論を見直すくらいの力加減でした。財務諸表論は、理論は法人税と重複する部分がある(リースなど)こと、計算は簿記論と比べ難しくないことから、基礎的な解き方を復習しておけば本試験も対応可能であることから、それくらいのリソース配分で十分でした。

結果は前述したとおりで、法人税は53点で不合格でした。不合格の法人税は昨年と共通して、やはり理論を全て埋めることができませんでした。この年については事例問題にこだわりすぎて時間をロスし、誰もが解けるいわゆるベタ書きで解答出来る問題に時間を回すことが出来なくなってしまうという致命的ミスを犯したことが敗因でした。

この年の結果をもとに翌年は以下の点に留意して挑むこととなります。

▼計算
①実は法人税は大手予備校でいうような計算テキストを持っていなかったので、それを調達し全体的におさらいを行う。 
 ⇨もう一度基本を全体的におさらいし、抜けもれていた知識の補充をしつつケアレスミス防止に努める
②ライバルでも解ける問題に注力する
 ⇒誰も解けないような難しい問題であることに気づけること、気づいたら後回しにするか、時間をかけず適当に埋めること

▼理論
①理論は理解重視で行う方法に一定の効果があったため継続
②問題を解く前に素読みをし、解答順序を決める必要がある 
 ⇨覚えた理論を書くだけで点数になる問題、事例問題のように理論を書くだけでは得点しにくい問題、すぐ書ける理論・テーマは分かるがあまり自信が無い理論など、各設問を先に素読みしどの問題から解くかを決め、効率よく得点する
③問いかけに対して適切な答案作成をする練習が必要 
 ⇨答練や理論問題集の活用。答練はスキャンしてスマホに格納し、移動中に解く
④どのテーマのどの部分が問われているのかという、いわゆる柱挙げ(例:問題をみて、7-1寄附金の[1]〜[2]まで解答が必要といった判断を行いメモしておくこと)の練習をすべき

(4)4回目の受験 相続税・法人税合格⇒官報合格

4年目は初学の相続税と3回目の法人税。3年目に目標通り2科目合格したことで4年目は2科目の受験で済み、私の中では官報合格が現実味を帯びていました。加えて、ちょうどこの年の合格者が官報に名前が載る最後の合格者になるということで、名前が載ることをサブ目標に取り組んでいました。

この年は勉強の仕方も、合格体験も積み上がっていましたので、相続税は答練期まで大原の過去教材で自習しその他は一切受講しませんでした。やはり答練期までに計算については前年の答練を解答出来るレベルまで仕上げておくことを目標としてインプット・アウトプットに取り組みます。理論は、前年のランク表は参考程度とし答練期までは理論問題集を使いながら幅広く網羅することを意識しました(結果的にはこの取り組みが合格を引き寄せることとなりました)。

相続税の理論はとにかく条文が長く、各テーマそれぞれ統一感が全くなく覚えにくい印象でした。理論対策は後述しますが、基本的には前述のとおり因数分解のように条文をいくつかのパーツに分解しながら条文の言っていることの理解に重点を置いていました。

法人税については、計算テキスト・問題集を入手し今一度基礎固めを実行しました。大手予備校のテキストは細かい論点まで書かれており、知識の補強・整理に役立ちました。あとは直前にまで前年の答練を何度も解き直すというのが基本となります。理論については、苦手意識があり遠ざけがちだったB論点まで含め、一つでも多くのテーマを書けるようにすることを目標としました。スプレッドシートに理論の章番号とランクを入力した一覧表を作成し、ランク順に並べ替えて優先度が分かりやすいようにしていました。

理論は机の前でやる時間は最小限にしたいので、上記の表からお題を決め、スマホのメモに何も見ずに覚えている限り理論を書き、間違えた部分や覚えていない部分を確認する作業を繰り返しました。ある程度理論の勉強をしている方については、このように「思い出す」作業をどれだけ取り組めるかが合格のカギになります。記憶は「チャンク化(細かく分解すること)」「再想起(繰り返し思い出すこと)」がカギだと言われますがまさにその通りで、まずは自分が理解できるよう条文を区切って因数分解をし、その条文が言っている結論、その結論が発動するための要件・条件などを理解した上で、あとは何回も思い出すことで脳に重要な情報であると思わせて長期記憶に持ち込むのが遠回りのようで最短ルートです。この思い出す作業に、理論問題集や答練理論を活用して問題を解く作業を加えるとなおよいです。

結果として、この年にやっと法人税に合格し、相続税も1発で合格。官報に載ることができ、無事税理士試験から解放されました。どちらの科目も時間内に計算を一通り解いた上で、理論を空欄なく全て埋めることが出来ていました。

2.理論はどう攻略するのか

理論「暗記」という言い方をするので、どうも理論サブノートを頭から唱えて暗記するものだというイメージが先行しているような気がします。試験突破のために暗記は確かに必要なのですが、順番としては暗記は最後です。まずは、条文の文章がどのような構造(たとえば主語述語、条件節など)で書かれているのか、それはどのような意味で、どんなケースで使われるのかといった理解に努めたうえで、解答用紙にこれらを1秒でも早く書きつけるための手段として暗記をします。いわゆるべた書きの問題であっても理論学習のスタンスは同じです。

これを踏まえつつ、私の経験上理論の攻略に必要なものを以下に列挙します。

①毎日続けること

一度読んだり聞いたりしただけで覚えられなかった・問題が解けなかっただけで「私って才能ないな・出来ないわ」と思ってしまうこと、よくあると思います。でも心配しないでください。そのくらいで出来るようにならないのは誰でもそうです(稀に一目見たことを忘れないレベルの天才がいるそうですが、そうした特殊な例は除きます)。

全然覚えられなくても心が折れないように、まずは記憶がどの程度の時間をかけて形成されるかを少しでも知っておきましょう。

人間の脳は短期記憶と長期記憶の2種類あるといわれています。いわゆる知識の定着をめざすには、この長期記憶に知識を放り込まなければいけないわけです。この長期記憶の形成にはおおむね3~4週間程度かかると言われています。一般的に人間は新たにインプットしたことの70%はその日のうちに忘れるといわれるほど忘れっぽい生き物なので、その中でも「これは大事なんだ」と脳に覚え込ませるためにはそれなりの時間を要すると思ってください。

ですから、1日に長い時間たくさんやることが良いのではなく、毎日コツコツ休みなく、勉強を積み重ねることが大切だということです。2~3回解いて全然だめでも、5~6回目になると結構書けるようになっていたりするものです。そういうものだと思って、因数分解と再想起を意識して毎日コツコツ続けましょう。

②因数分解(チャンク化)

記憶の定着に時間がかかるのは分かった。とはいえ、特に法人税法のように膨大な理論を暗記しろというのは苦痛。私も勉強を始めた当初は、こんなものどうやったら覚えるんだと思ったものです。

理論を覚えようとすると、文章をまるごと一つの単位としてまるごと覚えようとしがちです。勉強を始めた当初の私もその一人で、頭から理論を紙に書きなぐっていればそのうち暗記できると思っていました。ただ、この方法は個人的には非効率だと思っています。そうではなく、理論の条文の中の情報を細かく分解したほうがスムーズに情報を脳に入れ込むことが出来ます。

イメージ的には、荷物を段ボールに詰めてどこかへ運ぼうとする際に、大量の荷物を一つの段ボールに入れたら重すぎて全然運べなくなってしまうが、同じ荷物を何個かに分けてやるとわりとあっさり運べるというのと同じ感じです。初めて読む条文をそのままの塊で読むと冗長で何を言っているのかよく分からないこともありますが、文章をいくつか区切ることで主述・条件などに内容が整理され、その条文が何を言いたいのか頭に入ってきやすくなります。

具体的にどのような感じなのか、小規模宅地等の特例の条文を例にやってみましょう。条文はE-GOVから拾ってきたので理論サブノートとは書き方が異なると思いますがご容赦ください。

個人が/[相続又は遺贈により取得した]財産のうちに、/<当該相続の開始の直前において>、(<[当該相続若しくは遺贈に係る]被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の>事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で/[財務省令で定める]建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち/政令で定めるもの)がある場合には>(条件部分1 対象となる宅地の要件①)、

<当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る / 全ての特例対象宅地等のうち/、当該個人が取得をした/特例対象宅地等又はその一部で/この項の規定の適用を受けるものとして/政令で定めるところにより/選択をしたものについては>(条件部分2 対象となる宅地の要件②)

限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等に限り、>(条件部分3 対象となる宅地の要件③)

相続税法第11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は(主語)、当該小規模宅地等の価額に/<次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ>[当該各号に定める]割合を乗じて計算した金額とする(述語)

この規定は一文がとにかく長く非常に分かりにくいですが、上記のように区切りを入れて重要なところを強調してみると、主語述語(≒結論)部分と条件等にあたる副詞句・副詞句の部分とがはっきり読み取れるようになり、格段に理解しやすくなります。私は受験英語の五文型を分けるときのような感覚で、SVOCを意識してどこが主語・述語で、どこが副詞・形容詞かに注意して大雑把に区切っています(厳密でなくとも、自分で分かればいいです)。

副詞句・副詞節は<>、形容詞句・形容詞節は[]、名詞句・名詞節は()を使い、接続詞は必要に応じて四角で囲うなどしています。消せるインクのペン・蛍光ペンを活用すれば何度でも書き直せるので、ぜひトライしてみて下さい。句や節、副詞や形容詞がよく分からないという方は、「結論」「要件」「条件」がどの部分に書かれているかに注目して文章を自分なりに区切ってみて、自分のやりやすいルールで整理整理してみて下さい。

ちなみに、何の因数分解もせずそのまま暗記しようとすると、この条文は以下のようになります。

個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるものがある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたものについては、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等に限り、相続税法第11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。

いかがでしょうか。同じ一文でも見やすさが全然違うことがお分かりいただけると思います。また、このような分解を行うことで、条文は結論にあたる主述部分が文の最後に来るように構成されていて、その前の部分に具体的な条件や要件が来ることが分かるようになります(実務家としてはこうした構成で書かれていることは当然の話なのですが、駆け出しの受験生時代はこれをやるまで気づきませんでした)。

初めて見た条文については、まず結論をしっかり押さえることが大事です。結論が間違っていると部分点すらもらえないからです。その上で、この条文が発動するための条件や対象となるものの範囲が書かれている部分を紐解いていくと、ただ単に丸暗記しようとするよりも圧倒的に理解が進みます。これを何度も繰り返すと、何か暗記した理論をべた書きしようとするときに「結論はこう」「条件はこうで、対象となるものはこれ」という感じで要素を列挙し、条文構成に沿って当てはめていくことで、理論マスターに書いてある条文を再生・復元するような感覚でべた書きすることが出来るようになります。

ですので、理論暗記にあたってはまずどこが結論でどこが条件かを意識して条文を分解し、順次結論から条件へと情報量を付け加えていくようなイメージでコツコツ脳に覚えさせていきましょう。

③理論問題集の活用
覚えた理論は、最終的に試験の問いかけに応じて問題用紙に答案を書くことで点数へ繋がります。ですので、試験の問いかけに対して解答すべき理論のテーマはどこなのか、また、どこまで書けばよいのかを把握することが大切です。そのために理論問題集が役立ちます。

学習初期の頃は、はっきり言って全然覚えてないので書けません。ですから、問いかけに対してどんな解答が作成されているか、その解答に使用された理論はどこかを確認する意味で、設問と解答を最初から見てしまいます。その上で、その解答はどの章から出題されているか、その章はどのような問いかけの時に解答として書く必要があるのかを少しずつ認識していくことで、最終的に問いに対して適切な解答ができるようになればいいのです。

④ちょっとした時間を使って何度も思い出す(再想起)
例えば私の場合、電車の移動時間を重要視していました。といっても、電車の中でただ理サブを眺めていてもなかなか覚えられません。そこで、私は電車の移動時間を再想起、つまり繰り返し思い出す作業をする時間に充てることとしていました。どの章の理論を思い出すかを決め、スマホに覚えている限り書き出したり、あらかじめスキャンしておいた答練の理論問題を見て解答範囲を考えたりと、試行錯誤しながらその時の自分のレベルや必要なことに応じて取り組んでいました。

⑤全体像の把握
これを書いている今、私は不動産鑑定士の鑑定理論はじめ各科目の学習にも挑戦しています。そこでも最終的には暗記が必要となるのですが、初めて学ぶものはそう簡単に暗記できませんし、問題の解答例に挙がっている内容がテキストのどこに書かれているかを把握するのも一苦労です。このような理解度の著しく低い学習初期の状態では、問いに対して何を解答しなければいけないのかピンときません。

このように木を見て森を見ずの状態の時には、例えばマインドマップ等を活用して全体像を把握するのも効果的です。税法でいえば、例えば1章は納税義務者、2~3章は課税価格のような感じで、頭の中に目次を作るようなイメージです。これは暗記や問題演習も並行してやっていくことで徐々に培われていくものですので、細かい論点だけでなく、この論点は全体のどこにあたるのかという全体像にも日頃から目を向けることが大切です。

これをやると、いわゆる柱挙げが出来るようになります。理想は理論の各テーマを章番号と紐づけて整理できるようにしておくことです。1-1ときたらこの理論で、[1]〜[4]まであって、それぞれこんなことが書いてある、といったイメージが付くようになれば、理論解答骨子を作る際に、素読みの段階で理論の章番号をメモしておくだけで解答を要するテーマと内容を把握することができスピーディーに解答できるようになります。

3.本試験当日の臨み方

①自信を持つ
普段は出来るのに、本番になると弱い。そんな人も多いかと思います。私個人は基本的に本番に弱いタイプではないのですが、その差になるのは他人との相対的な自分の立ち位置ではなく「自信」にあると思います。

ここでいう自信とは、「試験本番までに自分が今出来ることは全部やりきった」ことに対する自信です。ですから、他人との相対的な比較で到達度が高いか低いか、勉強量が多いか少ないかといったことは無関係です(もちろん、結果を出すには所定の勉強量は必要であることは大前提ですが)。その自信があるから「あとはなるようになる」とある意味楽観的になれるし、「いつも通りを本番で発揮する」ことに集中することが出来ます。

実際のところ、答練で成績優秀でも本試験で振るわない人は一定数います。ということは、本試験当日に自信を持っていつも通りの実力を出すだけで合格に一歩近づくわけです。

②集中力を高める瞑想を行う
睡眠の質を高めるために試行錯誤していた際に、たまたま瞑想アプリがあることを知りました。そのアプリの中に、5分で集中力を高める瞑想が入っていました。私は3年目以降の本試験当日は、席に座って試験説明が始まるまでの間に必ずこの瞑想アプリを使って気持ちを整えていました。

実際にこれがどれだけ効果的だったか明確には分かりませんが、目の前の試験にただ集中するための準備として気持ちを落ち着ける効果は大いにありました。緊張して心拍数が上がってしまい普段通り出来ないといった人については特に有効かもしれませんので、お困りの方はぜひ試してみて下さい。私はアップマインドというアプリを使っていましたが、ご自身でいろいろ探してみて下さい。

③本試験は「宝探しゲーム」
どんなにコンディションが良くても、解けない問題は解けません。あくまでも税理士試験は満点ではなく6割を取る試験であり、残りの4割は失点していいのです。

本試験は「点数の取りどころ(=みんなが解けるところ=宝)はどこか」を試験問題から探し出し、ミスなく確実に得点するゲームです。試験開始前に今一度「これから宝探しゲームをやるのだ」という意識をしっかり持ち直し、解けなくていい問題に無駄な時間を割くといった過ちを犯さないようにしましょう。

あとがき モチベーションはすべての根本

私は特に試験において、成果は次の4要素の相関関係で成り立っていると思っていて、その中でも一番重要な要素はモチベーションだと思っています。

成果=能力×知識×投下時間×モチベーション

誰だって最初は能力も低いし知識もない。既に試験勉強をしている人と比べたら投下時間だって少ない。そんな状態でも他を凌駕することが出来る唯一の要素がモチベーションです。これが行動を生み、行動することで知識や能力を日々獲得していくわけで、ここに多くの時間を投下できれば、合格に必要な知識レベルへ到達するスピードが速まり、結果としてより早く成果に辿り着ける可能性が高まるものだと考えています。

自分が何のために試験合格を目指したのかを今一度思い起こして、強い気持ちで試験突破へ向かってほしいと思います。


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