第3話 吊られた警官
助手席に座りながら、明智は資料を流し見していた。
特別何かある警官では無く、これといった特徴も無い警官だった。
無差別なら厄介極まりないなと心で思いながら、
小林警官の家に向かっていた。
運転している佐々木も資料を見たが、小林には特に何かある
訳でも無かったが、明智と同様に、昨日は無断欠勤していた。
この事から恐らくは死んでいるであろうと思った。
明智は確認し次第、藤田警部に連絡を取るとは言っていたが、
連絡も取れない小林警官は既に死んでいる事は分かっていた。
パトカーにサイレンを鳴らさせ、市民に警戒させる為、台数も
3台にした。
警官はすぐに下りて、管理人を呼びに行き、続いて明智たちが後を
追った。
後方の二台のパトカーには、犯人が見ている可能性も考慮して、
バレないように写真を撮っておくよう明智は指示を出していた。
佐々木は強くドアを叩きながら小林警官の名前を呼んでいた。
明智はすぐに小林の携帯に電話をかけた。佐々木に静かにするよう
所作で伝えながら、音が鳴るのを待った。
中から音が聞こえ、管理人が持つ鍵の束から小林の部屋の鍵を受け取ると、
明智は中に入った。佐々木は管理人に部屋には入らないように伝え、
最初に到着した警官二名には、現場保存のためのテープを貼らせて、
住民たちが騒がないようなだめていた。
管理人も去り、既に中に入っていた明智は警部に電話をかけていた。
首を吊り、夏場であった為、人間の死体独特の臭いを放っていた。
佐々木は耐え切れず、昼食で食べたものを外に出て吐いていた。
明智にとっても慣れるニオイでは決して無かったが、腐臭の程度から
清乃が見た時にはすでに死んでおり、時間を遡《さかのぼ》ると、清乃が
見た前日に死んでいた事になった。
つまりは今日も誰かが狙われるという事に。と瞬間的に考えるよりも先に
携帯で藤田警部の電話にかけていた。
「私です。小林警官は死亡してから二日は経ってます。つまりは今日も誰か
殺されるということになります」
「そんな気がして、夜警の数を増やしておいた。今日中に捕まえて、被害を
食い止めよう。私と明智でそれぞれ分担しよう。20名の警官をそっちに送る。
佐々木刑事を使って、警官たちと連携をとって未然に防ぐぞ。
私は警官20名と警官の男女の宿舎を中心に警備する。何かあったら知らせろ」
「分かりました。私は警官が大勢住んでいる地区を中心に、包囲網を敷きます。
それではお気をつけて」
真昼から警戒すれば必ず未然に防げるはずだと、明智は自分に言い聞かせるように
何度も心で思った。そして小林警官はどうやって、首吊り自殺に見せかけて殺されたのかを、この時はまだ、犯人以外誰も知らなかった。