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「デュラハン」~第四話 パンドラの箱後編

勇翔はダリルたちの援護を受けながら、
まさに銃弾飛び交う戦場で、
彼は元ダリルの配下であった
鉄壁の防衛ラインの突破を試みていた。
彼は銃弾の雨の中をかいくぐりながら、
それは強行突破とも言える
無謀なものであった。

「隊長!!」アーロンが険しい表情で
大声で叫んだ。
「分かってる!!」
先ほどまで味方だった仲間が
攻撃フォーメーションを組んで徐々に
流れは防戦一方になってきていた。
痛みも感じず、致命傷でしか倒せない
相手の中に勇翔は弾丸を避けながら入ると、
ブレードナイフを背中の腰からサッと
抜き去り様に、一番近くの相手に首を
狙って横に振り抜いた。
相手は勇翔のナイフを
受けようとして縦に構えた。

まるで何も無いに近い感覚しか
手には残らず、ナイフを斬り抜いて
更に首を刎ねた。
誰よりも勇翔が驚いた。
そして一気に勇翔とはまるで相手に
ならない者たちに次々とトドメを
刺していった。
フォーメーションを組んだ銃撃戦では
厄介な兵士たちは、組手の強さは
それほどまででは無かったが、
殺した勇翔でさえ、
いい気分にはなれなかった。
ここに入る前は、
共に作戦をダリルを中心に話して
いた相手だった。
自分よりも長年組んできた戦友を
失った隊員たちは大丈夫なのか
勇翔は心配だった。

「負傷兵はここに置いて行く。
拳銃以外の弾薬は戦える者たちに全て渡せ」
勇翔が怒声を上げた。
「仲間を置いて行く気か!? 
すぐに手当が必要な隊員たちもいるだろ!」
ダリルは後ろにいた勇翔に
振り向きざまに殴りつけた。
「いッてーな!! 何しやがる!」
「ガキをしつけただけだ!
いいか!?これは訓練じゃない。
お前だって多少の経験はあるはずだ。
俺たちの任務の殆どは
デュラハン達の援護だ。
お前は自分の任務の事だけを考えろ!
ここにいる全員がこうなる可能性は
分かってた。
甘ったれた考えなんか捨てちまえ。
俺たちはお前の道を作る、それが任務だ」

「隊長、前衛が報告したかったのは
これじゃないですか?」
隊員が隊長を見て、他の室内に目をやった。
「なんだこれは? どういう事だ」
勇翔もその部屋に入ってそれを見た。
そこには死体が山積みにされていた。
すぐに隊員のドクターが死体を調べ始めた。
「これは死んで間もないですね。
持ち物からして、秘密組織の
連中のようですが、傷跡等はありません。
どうやって殺されたのか調べるには
時間が必要です」

「そんな時間は無い。
これに何か意味があるとすれば
パンドラの箱が関係している。急ぐぞ!」
不安そうにドクターは
小さく首を縦に振った。
勇翔もたぎる血を抑えて従った。

「戦闘可能なのは何名だ?」
アッシュが目を落として報告した。
「勇翔さんを入れて8名です」
「よし、アッシュ。
この施設の現在の位置をドローンを使って
割り出してくれ。
アーロンは怪我人から全ての弾倉を集めろ。
五分後には移動を開始する」
「分かりました」
勇翔は思った。
ダリルは本当に命懸けでこれまで
任務を遂行してきたのだと。
たまに会った時は、こんな経験を微塵にも
感じさせず、いつも笑顔でいた男が、
今は俺に全てを賭けている
戦士の顏になっていた。
女性のアッシュは視線を落として
不安そうにしていた。
これまでに無いほどの任務なのだろうと
勇翔は悟った。
「お前は俺の戦いを見て、
敵の弱点を見つけろ。
頼んだぞ、デュラハン」
ダリルはいつものように
微笑みながら言葉をかけた。

「隊長、準備が整いました。
いつでも行けます」
アーロンがダリルの横にいる
勇翔に目を向けると、
不敵な笑みを浮かべた。
「安心しろ、俺たちは5人でも
要塞を制圧した事もある精鋭中の
精鋭部隊だ。そんな心配そうな目
を向けるな」
「隊長、ドローンでの熱源探知では
ここから先には三名しかいません。
この場所は施設の中央部分に当たりますが、
不活動の死体は何体か見当たり
ましたが、一切動きが無いので
ここにある死体と同様の状態と
思われます。・・・ただ数が尋常
ではありません。恐らくですが、
100名を超える死体が
この施設内にあります」
勇翔はそれを聞いて口を切った。
「完全にパンドラの箱と
関係があるようだな。
しかも厄介な事になっているようだ。
急ごう」
8名はすぐに熱源のある場所に向かって
警戒しつつも最速で向かって行った。

走りゆく最中にはまるで道しるべのように、
死体がどんどん増えて行き、
否が応でもこれまで感じた事の無いような
不安に、歴戦の強者たちは心が
押しつぶされそうになっていた。
進めば進むほど死体の数は増していき、
それに伴い、死体は新しいものだと
一目で分かるほどだった。
迷路のような施設内を正確に
ドローンにより映し出されて、
迷う事無く心の焦りがそうさせるのか、
駆ける速さは無意識に増していった。
最後の角を曲がった先には、
一人の男が椅子に座り、そしてその横には、
紫色のローブを着た顏をフードで隠した
怪しげな者が立っていた。

「た・・助けてくれ・・」
豪華な椅子に座った男は、こちらを見て
そう口を開いた。
真夏の暑さを浴びるように
汗が滴り落ちていた。
怯えからか、声が震え、
息が荒々しくなっていた。
「貴方がたが来るのをお待ちしてました」
フードの者は声からして男だと分かった。
「どういう事だ?」
「貴方たちのお仲間さんは実に強い魂を
お持ちでした。この男の配下を足せば、
達すると思っていましたが、
殆ど無に近いものでしたので、
パンドラの箱を開ける事が
できませんでした。
特にこの方は大きく貢献してくれましたよ」

いきなり荒風のように飛び出してきた男は
勇翔にナイフを突き立てようとしたが、
その前にダリルが前に出て、そのナイフを
握った手の腕を掴むと、動きを一瞬止めた
相手に蹴りを放つと、威力を増すため
タイミングをずらして腕を放して、
その男を遠ざけた。
ダリルは勇翔と何度も組手の鍛練を
してきたが、お互い互角なほど強かった。
後退した相手を見て誰もが驚いた。
その男はエクストリーム財団の
デュラハンの証である
胸にエンブレム紋章をつけていた。
「どうかしましたか? 
この者は実にしぶとい男でした。
屈伏させるのは苦労しましたが、
仲間の命と引き換えだと持ちかけると、
簡単に堕ちました。その後で仲間を
殺せと言うと何の抵抗もなく、皆殺しに
してくれました。その甲斐あって
実によく働いてくれました」
前に出ているダリルは、後ろにいる勇翔を
落ち着かせるために、
背後のアッシュに指先で合図を送った。
アッシュが勇翔の肩に手を置くと、
「分かってる。組手ならデュラハンが
相手でもダリルにも勝算はあるけど、
俺の相手はあの奥の奴だと身体で感じる」

ダリルはその言葉を背後から聞いて、
思わず微笑みが生まれた。
そして再び戦士の顔つきに戻った。
(ギリシャにも凄腕のデュラハンがいるとは
聞いていたが、コイツでは無い。
確かに組手ならば勝算は十分にある)

ダリルは無言でそのまま背中に配した
ロングブレードに手をかけると、
俊足でデュラハンに襲い掛かった。
男もすぐにナイフを手にしたが、
ダリルの下からの振り上げた長いナイフを
防ぐ時が間に合わず、
胸下にロングブレードが刺さったが、
ダリルは刹那のタイミングで力を抜いて、
そのまま身を横に流した。
そして前に身を預けたデュラハンの
足首の甲に深く斬りつけた。
動脈が切れて血が噴き出した。
ダリルはそのまま長いナイフを活かして、
その血しぶきを刃に乗せるように、
デュラハンの目に向けて払った。
鮮血が目に入り、ダリルは完全な死角から
トドメの一撃を放ったが、避けられた。
優勢で圧倒していたせいで、
相手がデュラハンだという事を忘れていた。
殺気や気配を察する事も出来る
デュラハンにとって劣勢を演じて、
相手の油断を誘っていたのだと
再認識した。

刃が首に刺さる瞬間に声が飛んだ。
「待ちなさい。
ソイツは生け捕りにしなさい」
その声が耳に届く前に、
勇翔は体よりも速く心が動いた。
相手はダリルに立ち上がれないように、
両足にナイフをサッと斬りつけて、
すぐさま勇翔に向き合った。
しかし、その目を離した一瞬に
眼の前から勇翔は姿を消していた。

心の無い男は、戦闘スキルは変わらず
秀でていた。速足で部屋の角まで歩数で
行くと、左右にササッと銃口を向けて、
正面に銃を合わせたが、どこにもいな
かった。目は見えなくても、心眼を
もって気配を探ったが、見当たらず、
男は静かに、その時を待った。
銃声が5発なり、閉ざされたまぶた
から更に光が失われ、天井の電球を撃った
のだと男はすぐに理解した。
割れて落ちた電球が、ピシリと音を立てる
ごとに、正確にその場所に銃弾を放った。
そして夜目が使えない己が待ちに徹すれば
敗北を意味する事を悟った男は、扇形に
アサルトライフルを撃ちまくった。
湖の水面に一滴の水が落ちる前の静けさの
ように、静寂が部屋を支配していた。
その静けさの中で、疾風はやての如く
強い風と共に、暖かい温もりを男は感じた。
(何故だか心地よいが、悲しみも伴ったこの
気持ち・・そうか・・・・これは感情だ)

血に涙が混じった男は勇翔を見て、
一言だけ言葉を伝えた。
「ありがろう」
敵となった相手の胸を一突きで殺した。
そして男は勇翔に寄りかかるように、
その身を落としていった。
「実に素晴らしい。貴方なら私の長年の
念願が叶うでしょう」
心音がドンドン加速していき、勇翔の体
は脈打つ心臓のように震え出した。
ダリルはすぐにここから離れるよう部下
に命じた。
デュラハンとしての勇翔になれば、
怒りから来る猛る男に覚醒するからだった。

ダリルを二人が肩を貸しながら、
様子を見れる曲がり角まで退避して、壁を
背にして隊長を戦いを見れる位置に、
ゆっくりとおろした。
「貴方ももう用無しになりましたね。
魂は無に等しいですが、全てを奪えば
少しは私の力になるでしょう」
フードの男が椅子に座っている男に手を
かざすと、目に見える赤い霞の
ようなものが、絶叫を上げるような顏に
も見える何かが飛び出した後、手の平に
吸い寄せられていった。
「ハハハハハハハッッ!! これが力と
いうものなのか! 実に素晴らしい!」

「マズいぞ、メイカー、バロー。ヤツの
頭を吹き飛ばせ」
「はい!」
二人は同時にフードに照準を合わせて
頭部を狙って撃ち込んだ。
二発とも頭部に命中したが、男は僅か
によろめくだけで何ともない様子を
見せていた。
「このような晴れ舞台に、気分を害し
ますね」
男はそう呟くと、二本指をこちらに
弾くような所作を見せた。
突然、メイカーとバローの頭が
膨らませた風船のようにパンッと
弾け飛んだ。
「貴方ももう必要ありません」
今度は一本指で動けなくなっている
ダリルに向けた。
彼は相手に中指を立てて微笑んだ。
フードの男は明らかに
苛立ちを覚えた。そして指を弾いた。

銃弾よりも速い血の弾丸を、勇翔は
一瞬で移動して赤い弾丸を拳で叩き
つけた。
「貴方がまだいましたね。ですが、
もう必要ありません。パンドラの箱
を開きますので御覧ください。私
には見る事が出来ませんので、
世界に私の名を伝えて頂きたい。
全てを制した男として。
メガロ・ラッシーノの名を覚えて
おいてください。では地獄でお会い
しましょう」

男はフードを脱ぎ捨てると、地面に
向けて手のひらをつけた。
何かの複雑な模様のようなものが、
メガロの手をつけた床から這うよう
に広がり、成す術も無いまま
攻撃態勢だけを取った。
「貴方がたはパンドラの箱を箱だと
思い込んでいたのでしょう?
この地球こそがパンドラの箱なのです。
あらゆる災厄は人間が引き起こして
います。貴方はさしずめ唯一の希望と
言ったところでしょうか」
薄気味悪い声でメガロは話かけてきた。
「それでは、運命として受け入れて
勝ってみせてください」

勇翔は少し離れていた場所にいたが、
ゾクッと鳥肌が立って更に距離を取った。
姿は同じだったが、
鮮血よりも濃い赤い眼をした
得体の知れない怪物が立っていた。
その者は周りを見渡すと、誰かに
話しかける訳でも無く口を開いた。
「また人間か。文明だけが独り歩きする
進化の無い獣どもめ」
勇翔は口よりも先に手を出した。
最初は見た目に気圧されたが、
自分の任務を思い出した。
(コイツを倒す!)

並み大抵の敵で無い事だけは確かだった。
勇翔は相手を警戒している心を握り潰して、
勇猛果敢に守りを捨てて、攻勢に出た。
最初から接近戦に持ち込み、スピードを
活かした得意の短いナイフで斬りつけて
いったが、相手は避ける事もせず、反撃
もせずに唯々ただただ受けていた。
傷口は即座に治り、拉致が明かないので
ロングブレードに切り替えて間合いを
僅かに流していきながら、今度は切れ味
の鋭い長い刃で、腕から足を分断して、
守りも体勢も崩してから肩から心臓部分
を狙って斬りつけた。

その瞬間、身をよじって心臓部分
に達するのを避けた。この行動がフェイク
からくる布石ならばと、一瞬頭を過ったが、
再度、首を捉えて刎ねた直後に、回転斬りで
頭を取りに行った。首を一瞬で胴体と繋げて、
その身を下げてかわした。

それを見て勇翔は、戦場での直観から刹那の
間に答えを導き出した。
メガロは地獄で会おうと言ったが、あれは比喩
では無いと思っていた。
事実、エクストリーム財団にも各国の支部から、
敵は人間では無かったと、
幾つか報告が上がってきていた。
パンドラの箱がメガロが言っていたように、
この地球という星を生命体と考えるならば、
確かに理論的には十分あり得る。
そしてそうならば、コイツは悪魔等では無い。
人間の負が生み出したバケモノという事になる。
勇翔は刃を振るいながら、そう結論付けた。

ほむらは少し離れた場所から気で
感じ取っていた。
(どうやら迷いが消えたようですね。
しかし、相手の気の流れが気になりますね。
正が邪に侵されているようです)
焔がそう思っていると、相手の気が一気に
爆発的に上がるのを感じた。
(これはマズい。勇翔にはまだ早過ぎる
強敵です)
焔は己の気配を断ちながら全力疾走で
助けに向かった。

「なんだ!?」
勇翔は戦場では許されない焦りを感じた。
黒い翼が背中から大きく突出して、顔つきも
邪悪そのものになっていた。
「ふぅ・・・・ようやく貴様を喰らってやる
時間の開宴だ。
お前が俺を憎み、そして斬る邪悪な心が
俺の中に眠る生を邪が食らい尽くした。
正等はもう微塵も無いから覚悟しろ」
その言葉には怒気などは感じなかった事が、
より恐ろしさを増した。コイツにとっては
喰らう事など普通の事なのだろうと勇翔は
感じた。
「アーロン!! ダリルを連れて逃げろ!
お前たちがいたら戦いに集中できない!
急いで逃げろ!!」
勇翔の言葉は確かな事であったが、
誰よりも戦えるのは自分しかいないと
恐れを弾き返すように大きく吠えた。

圧倒的な魔力の前に勇翔は成す術も無い
と察したが、最後まで戦い抜くと心に決めて
己の中にある恐れを、ロングブレードの刃
のように、強い意志を持って鍛えられた
自分自身を投影して覇気を以て
恐れを吹き飛ばした。

真正面から正に無音で疾走して、魔の手が
自分の新アーマーをかする寸前に横に回避
して、左の片翼の生え際である背中を
斬りつけた。悪魔は舌打ちをしたが、勇翔
はすぐに更にサッと移動して、もう片翼を
切り裂いた。
ロングブレードの刃は超微振動タイプで
何よりも硬い合金で出来ていた。
肉を断つ事など使い手次第では恐ろしい
武器だった。
真に恐ろしいのは、恐れを克服した勇翔で
あったが、彼には後が無い事を悟っていた
為、勇翔を更に強くしていた。
生きるか死ぬかの世界でこそ、勇翔の力を
最大限に発揮できるタイプの男だった。
守るべき者もいた事も功を奏していた。
今正に、勇翔の真価が問われようとしていた。

新しいアーマーだった為、一撃だけは
耐える事ができた。
若き傭兵は剥がれ落ちるアーマーから見て、
まともに喰らえば終わりだと覚悟を決めていた。
チャンスは一度しかないと。
勇翔と魔の者の速度はもはや普通の人間には
捉える事が出来ない速さにまで達していた。
穢れた翼を斬り落とされ、腕や足に入る刃に
よって切り裂かれた回復する速度は徐々に
落ち始めていた。
勇翔の力も限界に達していた。
蛇の者は明らかに苦しそうな顔つきになって
いた。そして勇翔のロングブレードが、
空を斬った。その時、悪魔は飛んで刃を避け、
好機と見て、胸を上から切り裂こうとして
爪のような拳で最速で振り下ろした。
彼はその攻撃を身をのけぞってかわした。
回避したはずであったが、これまでで最速の爪を
避けきれず、四本の爪痕から鮮血が舞い散った。

勇翔は振り切られた拳を見て、それをチャンスと
して、自分の全てを投げ捨てる覚悟で、
のけぞられたその身を反動をつけて前のめりに、
最高のタイミングで刃を叩き込んだ。

が、悪魔にそれは見切られ、長いブレードは
爪によって防がれていた。
無情な極々短い時間が終わりを告げるように
長く感じた。
魔の者は不敵な笑みを浮かべて、トドメを刺す
べく、もう片方の拳で今度は絶対に回避できない
前のめりになった勇翔の頭上から拳は振るわれた。

デュラハンはもう諦めていた時、
突然、悪魔の頭が弾け飛んだ。それは続けて刃を
握る腕や、振り下ろしてきていた腕を爆発させた。
ダリルやアーロンたちのダリル部隊の最後の
援護射撃が止めどなく魔の者に撃ち込まれていた。
「勇翔!! やっちまえ!!!」
後方からの大声で、彼の心の消えた火種に新たな
息吹が舞い込み、ロングブレードを強く握ると、
縦横無尽に際限なく力が尽き果てるまで、
敵を斬り刻んでいった。

黒い血を全身に浴びた若きデュラハンは、もう
ただの肉片と黒い血だけになった場所に、
焼夷手榴弾《しょういしゅりゅうだん》を
投げ込んだ。
激しい燃焼を少し離れた場所から見守っていた。
もう力も気力も使い果たしていた勇翔は、
最後まで援護してくれたダリルと部隊員の元へ
歩いて行った。
ダリルは唯々ただただ頷きながら、
いつもの笑顔を見せていた。

「見事な戦いでしたよ。一瞬負けるのではと
不安になる程の激戦でしたね」
「焔!? 何でここにいるんだ?」
「私は保険のために来ていただけです。既に
ギリシャ支部には救護要請は出しましたので、
すぐに着くでしょう」

「途中にいた怪我人には、私が簡単な治療を
しましたので、これ以上は死人は出ません。
私がここまで案内役として入口まで戻って
きますので、皆さんはお休みください」

誰もが口を開く事は無かったが、
やっと終わったと安堵あんどしていた。
彼等はすぐに救護班によってそれぞれ処置を
されて、外に運び出されていた。
勇翔は自分で歩きながら、ダリル特殊部隊員
の死体が次々と運び出されていくのを見て、
何とも言えない哀しさを感じていた。

「あまり気に留めないようにしたほうが
いいですよ。今日も、今も、明日も、我々の
知らない所で、知らない人たちが犠牲に
なっています。これはまだ勇翔には序章に
過ぎません。哀しむだけ哀しんで、その心
はここに置いていけば、人間らしさを失う
事はないでしょう」

最後に二人はヘリに乗り込むと、勇翔は
あっという間に眠りについた。
焔はそれを見て、本当に危うい戦いだった
のだと感じ取った。


デュラハン:あらすじ
デュラハン:人物紹介、組織関係図、随時更新、ネタバレ
デュラハン:敵の人物紹介、敵対組織、随時更新、ネタバレ
第一話:始まり
第五話:オーパーツ アル・ナスラ前編


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